(21)
キギフィはセリゼに言う。
「はいはい悦に入ってないで」
「何さそこな小娘。私のいい旅夢気分を邪魔立てするとは」
「もう何から突っ込めばいいのかわからないよ」
「やだ……突っ込むだなんて、キギフィさんったら、は・し・た・な・い!」
「う~ん、ぶっとばしたい」
「やれるもんならやってみろや」
「あれ? この吸血鬼調子のってんよ? さすがにイラついてきたね」
お互い笑いながら、微妙な険悪さを醸し出す。
「何やってるの貴女たち……といいたいけど、まあここはキギフィに同意するかしら」
呆れたような言いぶりで、釣り人が中に入る。中に入ると言っても性的な意味ではない(黙れよ)。
「やあ、久しぶり」
爽やかに、夜の中、セリゼは挨拶をする。
風は静かに凪ぎ、再びかつての静かを取り戻す。
とは言っても、ノイズがその風に混じることは確かだ。セリゼが圧倒的な暴力で滅した、殲滅機械のなれの果てが奏でる、ささやかな断末魔のあと。配線が、血や骨の断裂のような悲惨さをたたえる。ギ……ジ……ジジッ、と、虫が火に焼かれるような、異臭・異音。
それは「事が終わった」ことの証。
だがそれにしても、あまりに唐突だ、とキギフィは思った。一応それなりに覚悟は決めたつもりであったのだが、それがこうも簡単に「場外からの闖入者」によって屠られてしまっては、拍子抜けにも程がある。
もちろん、平和的(?)にことが収まったのは、言祝ぐことではあるのだが。
「相変わらず強いわね、『神討ち』は」
「その名前を出すなっちゅーに」
セリゼは苦い顔をする。
それに対しキギフィ、
「言うてやりなさいな、このニート、ちょっと頑張ったからって調子のってんだから」
「ひっどい言い草だな。誰が御町内の危機を救ったと思っているのかね?」
「別にセリゼがやらなくても私がやったし」
「おう言うじゃねえか小娘。やっか? おう?」
「話題がループしてるわよ」
もちろん言葉のじゃれ合いなのでガチになることもないのだが。
「……で、セリゼはこれとどういう関係?」
「一夜を共に過ごした相手、かな……」
地方の珍味「サンマ味アイスクリーム」を何の気まぐれか、口にしてしまったときのような、口のひん曲がりを、キギフィ、する。
「そんなに熱い夜だったの?」
「逆。テクが無くて退屈な夜だったね」
「さすがにこのレベルになると、戦闘のメタファーが性交になるのね」
「単におっさんだけだって気がするけど」
感心する釣り人に、付け加えるキギフィ。
「まあ真面目に答えると、……っと」
そう答えようとした刹那、ボロボロになり、四散した胴体……の一部、完全に両断され爆ぜられたボディから、紅い煙が立った。
その煙はやがて形を作り、ゆっくりと肉を作ろうとする。
そこに現出するは、骨・肉の塊。そこに皮が急速な勢いで形成されていく。
やがて顔だけ、透明な、幽霊みたいな状態で形成される。肉は蠢く。「とりあえず」的に、必死に顔だけ形作ろうと、その生き物は、紅い煙を、霧を、用いる。
その紅の色、血の色。
そう、吸血鬼。




