(5)
「暇だー」
室内だというのに、黒いマントに身を包み、室内だというのに、日中の平日だというのに、きちんとした礼服に身を包んで、こたつ用テーブルでごろごろしている少女がいる。
礼服は男装。マントも礼服も仕立てが良く、ヴェルヴェットのようなきめ細やかさを見せ、随所に、タイを締めたり、高級なカフスをあしらったりと、いかにも高級品である。
にもかかわらず、クッションをもふもふしながら、ごろごろ寝っ転がっているようでは、知れたものだと思うが(何かと)、しかし不思議なことに、そのようなアホな使い方をしても、一向に服がヨレたりしないところが、この吸血鬼魔女の面目躍如といったところか。
セリゼ・ユーイルトット。
長い、色素の薄い髪をツーサイドアップにしているところはいかにも愛らしく、硬質で整った顔の造り、さほど背の高くないガタイとマッチしている。少なくとも「アラサー女子(笑)の無茶」みたいなことは、微塵も感じられない。……おや、わたしの後ろから、妙な冷たい殺気が……気のせいか?
この物語群の主人公であり、この高台の家の居候第一号であるところの、セリゼ・ユーイルトット「公爵」。そう、彼女は貴族であり、しかも人間ではない。
それは外見から容易に見てとれた。あ、いや、それはコスプレだろう的な礼服からではなく(もっとも、仕立ての良さをつぶさに見ればコスプレとは思えないほどの覚悟が伺えるが)、主に、その肌によるものである。
その身体の色には、熱気というか、色艶というか、血の気というか、そういったモノがことごとく脱色されているように見える。
吸血鬼独特の、血の気のない肌の色、青白く。それは青磁の器の美
を通り越して、ひとつ幽玄の極みにまで至っている。
にもかかわらず、ある種の不気味さをここで彼女が放っていないの
は、今の心的状況を表しているものだろう。何しろ暇だ暇だとほざいているのだから。
「暇だー」
ごろごろ。
一応このほうき星町は、我々の世界で言うところの「西洋」にあたる文化圏になるのだが、この家は、家主の意向、及び居候どもの意向によって、こたつに座布団と、すごく日本庶民的なスタイルになっている。もちろん靴は脱ぐ。
もっとも、ほうき星町は、世界中から寄せ集まった「ワケアリ」の……脛に傷持つ、腹に一物抱える者たちによって成り立っているので、生活スタイルも様々なのだが、ここで言えることがひとつある。どうにもマントに礼服の吸血鬼貴族は、そのようなのんびりスタイルの空間には似つかわしくないということだ。これは差別ではない。事実である。
「暇だー」
にもかかわらず、というかそのようなことをもはや考えることもなく、セリゼはごろごろしている。あまりにそれが自然なので、この家に集う者たちも、もはやそれに対して疑問を抱かなくなっている。
――それほどまでに、セリゼも俗ボケしたか。
――否、それこそが彼女が求め続けてきたもの。血みどろの半生(以上)を送ってきた、彼女の。
平和は尊い。それが生まれながらにして奪われている者にとっては、なおさらのこと。彼女はそれをやっと得ることが出来た。だから、それを存分に謳歌して、なんの問題があるだろう――。
ああ、話が先に進みすぎた。




