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ジョーク混じりの決死の戦い(2)

お久しぶりです。「月読が、ほうき星町の住人になって間もないころ」のお話ですよ、これは。

 静かな晴れた日である。

 イーシィ湖の湖畔では人々が釣りをしたり遊んだりすることが出来る。

 フレアの家の後ろから、高台を降りていく格好で、その野原へと出向く。石造りの階段を通り越し、やがて足は草の感触を踏みしめることになる。

 辺りには草と土と水しかない。

 開けた場所にセリゼとキギフィは出る。月読とフレアはそこから離れて、シートを敷いて座っている。もちろんお弁当持参である。

 そんな観戦気分の二人をとくに気にかけることもなく、セリゼとキギフィはお互いの間合いを取っている。数十メートル離れた位置で、キギフィは装備の点検をしている。

 セリゼの格好はいつもと変わらない。礼服にマント。強いて言うなれば、帯剣している本数が変化していることだろうか。前は一振りだったのが、今度は二振りになっている。片方は幅の広いブロードソード。もうひとつは細身のサーベル。しかしよく見れば、どちらにも手元の部分に何やらごちゃごちゃした機械が付いている。

 反面、キギフィの格好は異様だ。パンク・ルックこそ変わらないものの、全身にガンベルトを巻きつけ、五丁のハンドガンを装備、いくつものマガジンをポーチに入れている。背には長方形の形をした小さいバックラー(楯)のようなものを吊るす。

 手には無骨な鉄製の槍がある。鉄をそのまま切りだしたかのような作りのその槍は、鋭そう、というよりも、むしろ重さの方をより感じさせる。が、彼女はそんな重さを何とも思っていないかのように、ひゅんひゅんくるくると槍を棒のように、器用に片手で振り回している。

 そして何と言っても、彼女の仮面である。顔一面以上を隠すそのダークグレーの仮面は、片目から顕微鏡のようにゴーグルが飛び出ていて、形は基本長方形で、上方の両極が角のように出っ張っている。口のように見える凸凹は、恐らくガスマスクであろう、そのような機能性を感じさせる。時折赤いLEDが点滅する。まるでそれは鬼の面のようであった。この下にあの美少女があるとは誰も思うまい。

 キギフィは髪をたなびかせながら、その戦地に赴いて行く。

 一方セリゼは悠々たるものである。自らの絶対的な強さというものを確信している。だからこそこのように泰然と構えていられるのだ。それに比べたら、遥かにキギフィは「楽しんでいる」とはいえ、やはり緊張しているのだ、と思わせる身ぶりである。

 「いつもこんなことやってるんですか?」月読が問う。

 「ええまあ。大抵キギフィさんがセリゼちゃんにもちかけて、一戦構えて、それなりなところで勝負がついて、おしまい。そんな感じです。あ、私が作った武器のテストをしてもらうこともありますから、私も関わっているといえばそうなんでしょうか」

 「二人の装備も大家さんが拵えたもので?」

 「セリゼちゃんのはそうですが、キギフィさんのは前職で使ってたものをそのまま、のようですよ」

 「あの装備は……至って近接型のそれですが、用いているものは高度なテクノロジーを用いたハイスペックです。それくらいはわかります。よほどのところにいたんでしょうね」

 「すべてハイエンドの武器です。さあ、はじまりますよ」

 セリゼは動かない。動く必要がないとばかりにその場に突っ立っている。そう、事実セリゼは動く必要がないのだ。もっと言えば、攻撃されても問題がない。

 どういうことか。

 そのことを知っているキギフィは、間合いを取りながらじりじりと迫って行く。慎重に、慎重に、タイミングを見計らいながら。

 「無茶な勝負ですよ」月読が言う。

 「ええ、それはもう」フレアが答える。

 「大家さんだって分かっているんでしょう? セリゼに攻撃したって無意味だ、ってこと」

 「99・999%はそうですね。ですがキギフィさんは、『魔力斬り』が出来ます。そして、セリゼちゃんの(コア)を見極められます。それくらいキギフィさんは『人間としては』強いです」

 「……確かに、それなら、『人間としては』強いですね。ああ、だから勝負が成り立っているのですね。セリゼが負け得る可能性が0・001%でもあるということは」



 瞬間、キギフィが地を駆ける。

 一歩と一歩の間がやたらと広い。あっという間にセリゼに近接する。通常の人間ならばその軌道を追うのに精いっぱいで、その一瞬のうちに何が起こったか理解できないだろう。一瞬の間に、キギフィはあれだけの装備を背負っておきながらセリゼとの間合いを詰めた。

 まさに疾風迅雷。

 そして次の瞬間には、力いっぱい槍でセリゼの足を突きさす。

 「ああ、本当に正しいですね。本当にセリゼの核を狙ってきている」

 「わかりますか?」フレアが月読に問う。

 「僕は見えますからね、セリゼの核が。大家さんはどうなんですか?」

 「セリゼちゃんの足に刺さる寸前に動かしたことしかわかりません。それなりのセンサーは積んでいるつもりですが、今めまぐるしくセリゼちゃんの中で核が動いていますからね。追い切れませんよ」

 「あまりやると、疲れてしまいますよ?」

 「大丈夫です、そんなヤワなコンピュータは積んでませんから」

 足を突きさしたキギフィは、その次に槍を引きぬき、幾度もセリゼの身体を切り裂く。カマイタチのように、風の軌道のように早く。その連撃を喰らっても、セリゼはものともしない。

 そして心臓に思い切り槍を突き刺したら、今度はガンベルトから二つのハンドガンを抜いて、両手撃ちでセリゼをハチの巣にする。

 甲高い銃声音が響く。がちゃがちゃがちゃ、と機械音が殺戮の音を立てる。

 そこまでしても、セリゼは一向に苦悶の表情ひとつ浮かべない。身体はボロボロになっているはずなのに。

 だが、セリゼは吸血鬼なのである。

 膂力、魔力、回復速度は魔族の中でもトップクラス。ましてやそのトップの中でもトップのセリゼである。

 すでに受けた傷は、服ごと回復している。穴が開いた所は、瞬間、赤い血のような物質で満たされて、その次には蘇生している。

 つまり、ここまでキギフィがしてきた一連の怒涛の攻撃は、すべて無駄だったこととなる。これがセリゼという吸血鬼なのである。核さえ無事ならば、どの部位を攻撃されたとて瞬時に回復されてしまう。

 「やってられませんよね、あんな相手」月読は言う。「僕が言えた義理じゃないですけど」

 「ホントですよ、月読さんだって同じじゃないですか。核さえ無事ならばあとはどうとでもなる、という。ただ核さえ傷つけることが出来れば……」

 キギフィはそれを狙っている。

 ここにあるセリゼの肉体は全て仮のものだと思えばいい。突き刺すべきは核ひとつ。そこさえ傷つければ、こちらに勝機はある。

 だがこと戦闘においては聡いキギフィのことである。彼女はすでに知っている。

 セリゼが今何一つ行動に出ていないことを。


 

攻撃するなら今、逃げるなら今、その二つは同義。

 セリゼの手が伸びる。ゆっくりと、しかし確実に、キギフィの身体を捉えようとする。

 キギフィはその手に銃弾を浴びせかける。即座にボロボロになっていく。しかしそれも一瞬、瞬時に肉体は再生される。

 間に合わない、と思ったキギフィは、ハンドガンを落とし、槍を両手で持ち、セリゼの身体に蹴りを入れる形で跳躍して、セリゼの身体からバネのように槍を引っこ抜きながら逃れる。

 逃れようとする。だが遅かった。

 セリゼは抜刀した。

 その剣の軌跡は見えなかった。言ってみれば、剣を抜いてブンと振っただけ。ほんのちょっと動いただけである。

 それだけで、キギフィの身体は飛ばされた。受身を取ったからいいものの、まともに当たっていたら打撲どころではすまない。通常なら骨折だ。

 キギフィの体勢は完全に崩れた。そこにセリゼは追い打ちをかける。

 セリゼはその奇妙な剣をまっすぐキギフィに向ける。その握手からつばの部分には、通常の剣にはありえない機関――サイズの大きいリボルバータイプの銃がはめ込まれていた。取っ手には引金が取り付けられており、セリゼはそれを躊躇いなく連射することにより、キギフィを追い詰めていく。

 轟音が鳴り響く。その音は先のキギフィの銃音とは違う。より、ずん、と響く重低音である。ライフル弾の音だ。

 キギフィは逃げる。その弾の威力はセリゼの膂力に匹敵するのだから、まともに受けるわけにはいかない。俊敏な二つの足を活かして、追いかけてくるライフル弾から逃げる。

 「あれが大家さんの作った武器ですか」

 「ええ」

 「前にセリゼに会ったときに見ましたけどね……内蔵式銃剣、ですか。ずいぶんとイカれた発想だと思いましたが」

 「まあお誉めのお言葉」

 「よくあんなものを作ろうと思いましたよね」

 「セリゼちゃんですからね、剣と平行になる銃身の都合上、反動が変なベクトルになったり、操作が複雑な武器でも使いこなしてくれますし」

 「ああまあ確かに……普通の人間だったら筋を違えますね。普通あんなところに射撃システムを内蔵しないですって」

 「私もなかなかいいものを作ったと自負しているのですが」

 「名前なんかあるのですか?」

 「『ハ長調(Cmajor)』と名付けました」

 「……大家さんの命名センスはわかりませんね」

 「『内蔵式銃剣』シリーズは音楽用語でいこうと決めていたんです。処女作でしたから、西洋音楽の基本音階あたりが相当かと」

 「筋は通っているんですね。……しかし、ライフル弾のリボルバー、って……まさにセリゼのために拵えたものですね」

 フレアの言うとおり、これはセリゼでないと扱えない。ライフル弾の反動は9mmパラベラムを代表とするハンドガン用弾丸とは大いに異なる。それをまっすぐな剣の握手を握りながら引金を引くとなると、指がつるどころの話ではない。人間ならば腕がおかしくなる。まして正確な射撃をすることは。

 だがセリゼはそれを――「作品番号第一番『ハ長調』」を使いこなしてキギフィを圧倒的に追い詰めていく。

 キギフィが足を止めようとする。そのところでセリゼは再び射撃を開始する。そうすることにより、キギフィの持久力とバランスとを削り取っていく。

 紙一重のところでキギフィはその射撃をかわしていく。どう見ても劣勢である。

 このままでは巻き返しが図れないことはキギフィも重々承知の上である。だからキギフィは勝負に出る。

 セリゼの六発の弾丸が全て出尽くしたら瞬時にキギフィは、戦闘開始時のように距離を詰めていく。稲妻の如く、あるいは急き立てられる犬の如く、不退転の覚悟でもってセリゼに挑んでいく。

 セリゼはもう一振りの剣を抜く。「ハ長調」とは違う、もう一振りのサーベル。その作りは繊細なガラス細工のようである――刀身も、その内蔵された銃器機関に関しても。線が複雑に絡み合ったナックルガードの中から、無骨にハンドガン用のマガジンが突き出ている。その銃剣はセミオートタイプであることが窺い知れる。

 ダブルカーラム(複層マガジン)であったとして、装填される弾丸数は十以上、その弾幕を潜り抜ける必要がある。

 キギフィは背中に回した楯のようなものを構える。やはりそれは楯であったのだ。真っ平らな楯から、グリップを起こし、バックラーとして逆手で構える。

 間もなくセリゼの射撃がはじまる。甲高い射撃音が鳴り響く。同時にキギフィに猛烈な銃弾の連打が浴びせられる。

 その全てをキギフィは手持ちのバックラーで防ぎきる。時に角度を変え、時に位置を変え、手品のように弾丸を逸らしていく。これだけの猛射撃を潜り抜けるだけの戦闘センスひとつとっても、キギフィの尋常でなさが明確に表れる。しかし相手が悪すぎるだけの話なのだ。

 とにかく距離を狭めること。

 キギフィはそれのみを考え、必死に弾丸を潜り抜ける。秒間隔でバックラーを動かす――何と言っても、彼女にはそれしか防御方法がないのだから。防弾ベストひとつ着ていない。もちろん少々の弾丸の傷程度ではキギフィはへこたれない。そんなヤワな身体をしていない。そんなヤワな経験をしていない。

 セリゼに近接して、ぐっと身体をかがめる。ベクトルを強引に変え、キギフィはセリゼの弾道から身を逸らす。一瞬だけ。

 まるでブレイクダンスのように腰を地面につけて、くるり、と、足と上半身をセリゼに向ける。その奇妙な体勢をもってセリゼの思考回路をずらす。すかさず足払いをしてセリゼの体勢をずらす。この一瞬の曲芸によってセリゼを混乱させる。

 そして崩れたセリゼにバックラーを向ける。グリップを握る。すると瞬時に弾丸がバックラーの先から発射された。楯であったそれは、サブマシンガンでもあったのだ。

 連射される弾幕がセリゼの身体をズタズタにしていく。ガンガンガン、と、アッパーカットを浴びせかけるようにして、セリゼの身体を浮かす。もはやこの場において弾丸は射殺のための道具ではない。殴打のための物理攻撃であった。そのような発想の転換をしないと、この吸血鬼と一線を構えることは不可能である。

 フルオートにして弾幕を浴びせかける。と同時に、キギフィはセリゼの核を見極めようとする。

 今セリゼの中では核が目まぐるしく移動している。



 核とは何か。それは、ある種の人外の生命体にとっての、自らの根源である。彼らの肉体はその核さえあれば、速度は別として、どのように攻撃されたとしても、とにかく再生されてしまう。

 往々にして核は心臓や脳の位置にある。そして核は、物理攻撃では破壊出来ない。物理攻撃とは、斬る、叩く、押しつぶす、といっただけでなく、魔法を使った自然現象のオーバーフローも含まれる。

 ある種の人外の生命体――その存在の根源を魔力としている者たち。天使、悪魔、精霊、吸血鬼。彼らの本質は魔力である。もっとも、魔法科学の研究により魔力とは「生命エネルギー」と同義とされているのであるから、ようするに彼らは「生命」を純粋な形でその世界に表していることとなる。

 そんな相手と一戦を構えるのは、無謀以外の何物でもない。だから人間は、これらの種族に対して、概ね劣勢を強いられてきた。

 だが人間も対抗する術を模索しなかったわけではない。その結果生まれた技術が「魔力斬り」である。

 これは、本来エネルギーであり不定形である魔力そのものを、「物」として「切断」するという特殊技能である。そのためには自らの刃に魔力を上手い形で載せなくてはならないが、それ以上に、相手の魔力を「物」として捉え、「斬る」ことの出来る、不可思議なテクニックが必要とされる。

 例えるなら、火や水を「物」として斬って無くす、ということと同義である。そんなことは歴戦の戦士にだって不可能だ。

 だがキギフィのような、人間として限界にまで達した戦士ならば、それが出来る。ましてこの技には極度の精神集中が必要である。

 加えてセリゼの核は、セリゼ自身が自分の身体のどこへでも動かせることが出来るという反則ぶりである。ましてそのサイズは小さく、物理的なサイズは爪の一片ほどもないものだ。それを高速で自分の身体のあちこちへ動かせる。

 そんな相手の核を狙って「魔力斬り」するということ自体がそもそも無理な話なのだ。

 だが、セリゼの相手となるからには、これをするしか方法がない。

 銃弾を浴びせかけても効果はない。

 槍を杭と見立て心臓に突き刺しても効果はない。

 だったら核を斬るしかない。

 だからキギフィはその万に一つの可能性に懸けて、弾幕という目くらましの間に、セリゼの核を狙って「斬ろう」とする。

 「すごいですね、本当に核を狙ってますよ」月読が感心して言う。

 「そうしなければ勝機は千年経ってもないですからね」

 「……ただ、持久戦も限界でしょう。いくらキギフィさんが強いからといって、やっぱり人間です」

 「瞬間瞬間に懸ける他ないんですよ。だから勝ち目がない、ってキギフィさんもわかってるんです。そして、その中でどれだけ十分な勝負が出来たか、それを計りたいんですよ」

 「スポーツ、ですか」

 「ええ」

 銃の次に、体勢をくるりと変え、持ち上げるように槍で薙ぐ。槍による連撃が続く。セリゼはその攻撃を空中で受けるのみである。

 セリゼも気を抜いているわけではないのだ。万一にでも核が傷つけられることがあったら、それこそ本気を出さないわけにはいかない。

 そういう意味では、キギフィはセリゼの「相手」足り得ているのである。自分を倒し得る可能性が0・001%でもある存在。だから、遊びとはいえ、気を抜いてはいない。セリゼは核を高速で移動させる。それでもキギフィはその軌道を正確に読んでくるのだ。これには称賛を惜しまない。よくぞ人間がここまで研鑽を積んだものだ、と思える。そしてキギフィの天与の戦闘センス。

 ……楽しい。

 双方がそう思っている。



 「ねえキギフィ!」嬉しそうにセリゼが話しかける。身体がズタボロになりながら、それでも声色と顔つきは喜色である。「全然腕なまってないじゃん!」

 「余裕だよね全く!」槍の連打をひとしきり終えたところで、身体を伸縮するとともに、上方に一発蹴りをかまし、セリゼを遠くに上げる。と同時にキギフィはその場から離れる。相手の様子からこの攻撃をこれ以上続けても無意味だと悟ったからである。

 「貴族の闘いはね」空中に舞うセリゼの身体はすでに回復している。くるりと宙返りして、サーベルを――「作品番号第二番『ブルーノート』」を投擲する。「優雅なのだよ!」

 その速度は銃弾のそれとまったく変わりはなかった。衝撃波とともにキギフィに剣が刺さろうとする。何とかキギフィは槍でそれをはじく――苦悶の表情を浮かべながら。

 「ボロボロになっておきながらよく言うよ」キギフィが皮肉を言う。

 「真の意味ではボロボロになってないし」着地したセリゼは泰然と答える。

 「せめて服がボロボロになっていればなぁ」

 「あいにくとね。形態組成の魔法を服にかけているもんだから」

 「ってことは何?」槍をひゅんひゅん回しながらキギフィが言う。劣勢を強いられているのにも関わらずまだこのように振る舞えるだけの強さがある。「だったら魔法しか纏ってないってこと? じゃ全裸ってことじゃんか」

 「全裸言うな」そう言いながらも笑顔であるセリゼ。「ああ……楽しい。ほどほどに緊張感のあって、かつ余裕のあるゲームが一番いいって理屈だね」

 「これだから余裕のあるチートは」嫌な顔をするキギフィ。「こっちは一矢を報いようと必死なんだぞ」

 「まだ終わりじゃないでしょう? もっと楽しもうよ」

 「言わずもがな――ただ、次が最後かな。潮時でしょ?」

 「うん」満足そうにセリゼはうなずく。「遊びはそうでなくちゃ」

 そう言い終わった瞬間に、キギフィは動いた。バックラー兼楯を捨て、槍を構えて突撃する。

 セリゼは片手に銃剣を構える。キギフィの行動をじっと待つ。

 「どうするんでしょうね」月読がフレアに問う。

 「無策のわけはありません。……と? あれ?」

 キギフィは腰のガンベルトからひとつ手榴弾をもぎ取り、セリゼに向けて投擲した。

 「空間プロッタ入力、tan45」それを見たフレアが口早に呟いた。

 果たして、手榴弾は爆発する。ずどん、と辺りを震わせる爆音。キギフィとセリゼの間に爆炎が起こり、辺り一面に大風と埃を吹き起こす。

 「いきなりですね……って、あれ?」月読が怪訝そうな目でフレアを見る。「ここ、平気ですね。大家さん、何かしましたか?」

 「あちらを」そう言ってフレアは蓋の開いたランチボックスを指さす。その中には球体のプロジェクタが入っていた。

 振り返って周囲を月読が見渡してみると、自分たちはある力場によって守られていることが認識できた。抗エネルギー力場。それはそのプロジェクタがドーム型に展開しているようであった。まったくの透明であるが、自分たちの周囲だけは埃にまみれていないので、逆にその存在がわかる、といった具合だ。

 「用意がいいですね。観戦用のシート、ってわけですか? これも」

 「まあそんなところです。オートリフレクション型の防御光線球体を展開するものでして……埃よけ、と考えてください。あ、キギフィさん、また何かをしそうですよ」

 「見えはしませんけどね。肉眼では。僕は魔法があるから見えますけど……熱力学センサーですか?」

 「ですね。そしてそれはキギフィさんのお面にも当然設置されているわけで」

 そうでなかったらこのような爆炎の中突撃するような真似には出られない。

 もちろんこの爆炎は目くらましにすぎない。次の行動を密かに進めているキギフィである。

 その爆発の一瞬の隙を狙って、キギフィはセリゼに近接する。そして手持ちの爆弾を全部セリゼの四肢に展開し、片手に持ったハンドガンで撃ち抜くことにより、着火する。

 大爆発が起こる。

 連続する爆発は、立て続けにやってくる大波のように、辺り一面に衝撃波を広げる。耳をつんざく轟音は、あまりにも音をたて過ぎて、途中から何の音だかわからなくなっていく。暴風が巻き起こる。それは平和な午後の草原を薙ぎ倒し、壊滅させる。

 だがこれさえもキギフィにとってはブラフでしかない。

 キギフィはゴーグルを通して爆炎をくぐって行く。そして両目に宿した「魔力読み」の力でもって、セリゼの核がどこにあるかを見定める。

 すでにセリゼの身体はほとんど灰燼に帰していた。ただひとつ、片手だけが残っている。「ハ長調」を握った手。そこに、核がある。

 今しかない!

 そう判断したキギフィは、槍に魔力を纏わせ、セリゼの小さな小さな核を狙って「魔力斬り」を繰り出す。槍を突きだす。自身の爆炎のダメージも顧みず、セリゼに反撃されるかも考えず、ただこの時しかないと思い、満身の思いで槍を繰り出す。

 ドスッ! と突撃し槍を突きこんだ。

 動かない。相手は動かない。核のある場所に正確に刺した……はずである。

 もうこれ以上の策はない。

 突然手榴弾を炸裂させることにより動揺させ、その隙に身体全体を爆弾で散らす。そして核の位置を固定して、逃げ場がないようにして、そして槍で一撃。

 「いや~、よくやったよくやった」のんきな声が響く。「腕を上げたね。私の核をこう追いこんでくるとは」

 刺したはずの核は、しかしやはり避けられていた。

 「惜しかったよ、いいところまで狙ってた。爆発なんてケレン味のある目くらましをしてくるのもよかった。その無闇やたらさが」

 「……ふうっ! ……こっちは死ぬ思いなんだぞ?」

 セリゼが「ハ長調」を再び握りしめる。そしてセリゼの姿がどんどん再生されていく。槍が刺さったまま。

 「さしずめ神代のグングニルの槍……と呼んでももはや差支えないレベル。私はそれに敬意を表して、キギフィ、貴女に気合いの入った一撃でもって答えてあげよう」

 「何その嬉しくないサプライズ!」

 闇の中から様々な化物が飛び出てくるような感じだ。セリゼの膨大な魔力は渦を巻き、身体が、糸を紡ぐようにして次々に再生されていく。再びセリゼの黒衣が現れる。闇の中から、闇の支配者が現れる。ジャングルのような混迷さをもって。

 楽しそうに。

 本当に楽しそうな笑顔を浮かべて、セリゼは「ハ長調」を振り上げた。大きく振りかぶって一言。

 「いっせーの……」

 わずかな間にエネルギーが凝縮されていくのがこの場に居る誰もが肌で感じられる。

 「せっ!」

 そしてセリゼは剣を振りおろした。膨大な魔力とエネルギー派が一直線にキギフィの方へとぶつかって行く。縦の剣筋の衝撃波は、辺り一面を薙ぎ倒していく。

 波動が大きく揺らめいているのが見える。高エネルギーの一撃は、衝撃波とともに、青い閃光を放ちながら、轟音を放ちながら、すべてを破壊していく。

 大気が震える。地に亀裂が入る。その一撃は、一撃だけで、圧倒的な破壊であった。

次回、さらっと流して、この話はおしまいです

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