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おまけ03 side果琳「音にならない言葉」

「衝撃発言」の続き・・・でしょうか

とりあえず、果琳視点スタート

 いつか、



 今聴こえている、骨から伝わる音さえ失うんじゃないかと恐怖を覚えた。



 あたしが音を捨てたとき、この世にある雑音すべてに嫌悪した。

 何かが壊れる音に耳を塞ぎたかった。



 でも今は、


 あたしの為に奏でてくれる音がある。



 オルゴールのように優しくて切ない、あたしを包み込む唄。



 それが前のあたしの心を生かして、今のあたしが居る。


 音を捨てたあたしが、音に生かされいる今、

 聴こえている微かな音だけは、放さずに守りたいと思っている。




*****




 奏太さんが大宮さんと和解してから半年が経った。

 大宮さんは自分に子供がいるという衝撃的な発表をして、世間を一度賑わせた。

 その時の報道時間は過去類を見ないほど大々的に取り上げていて、誰が大宮さんの子供なのかと話題に花を咲かせた。

 そして、報道関係者は彼の子供をいち早くスクープしようとカメラが周りから絶えなかった。

 半年経った今も、カメラは大宮さんの周りをうろついていて、仲良く話をしようものなら誰だろうと「この人物こそ、大宮奏太の子供だ!」と取り上げられてしまう。


 それについてはあたしも例外ではなく、スクープをされた一人になってしまった。



 原因の一つは奏太さんにもあるかも知れない。

 奏太さんは今だ大宮さんとの距離感を掴み損ねている。

 だから、何かと自分の父親と会うという事になると、一度躊躇いを見せる。

 大宮さんは満面の笑みで嬉しそうに奏太さんに話しかけているのに、彼は「何」を遠慮しているのか、まだ会話が途切れる事もあって、家族の団欒に見えないのはしょっちゅう目撃される。


 事情を知っているあたしから見れば、もっと心を開いたって誰も逃げたり、離れたり、失望したりしないのにっていつも思ってしまう。


 歳の差がある友達のような2人を包む雰囲気所為で、大宮さんと仲が良いと言われている奏太さん事Lenは彼の子供とは思われず、頻繁に近くに居るあたしが彼の子供だと周りに誤解させたのかもしれない。

 実際に大宮さんの問題発言もあるから尚更なんだけど。


 大宮さんは普通のバラエティー番組であたしと2ショットの日常生活の写真を公開したらしく、「可愛いでしょう? 娘みたいに思ってます」という匂わせる発言までしちゃったらしい。


 あたしはもちろんその時、テレビなんて見て無くって、放送翌日にカメラや報道の人がたくさん待ち構えていて驚いてしまった。

 学校でも私が大宮さんの娘だと勘違いする人が出てしまった。

 それを奏太さんに相談すると、彼は一瞬難しい顔をして黙ってしまった。


「どう思う……?」


 再度尋ねてみれば、今度はケータイで何回かボタンを押してあたしから少し離れると、どこかに電話を掛けてしまった。

 唇が見えない会話をされるのは、これで2回目。

 奏太さんの背中を見ながら何だか寂しさを覚えた。


 電話の相手と何回かやり取りをした後、一度だけ大きなため息をついた。


「……『人の噂も75日、放っとけば良いよ』だとよ。全く。全信頼を置かれても困るッての。ホントこっちの身にもなって欲しいもんだな」


 ぶっきらぼうに言って見せれば、黙ってあたしを抱き寄せて「渡すもんか」と唇が動いた。


 何の事だか分からないけど、奏太さんの腕の力に任せてそのまま温もりを感じる事にした。

 手の平を奏太さんの心臓(むね)にあてて、鼓動を感じ取るだけで安心した。

 この鼓動とずっと一緒に居たい。

 力尽きるまで、もしくはあたしを「いらない」と言うまでずっと―――。


 それから驚くほど早く、あたしの周りから瞬く間に報道の人は消えた。

 どうやらお母さんが間違ったスクープに対して立ち回ったみたいだった。


 大手企業に勤める雑誌編集者のお母さんは業界でも有名で、もぐりでもなければ私のお母さんは芸能界と言う所では「免罪符」のような役割を持つらしい。


 自分の親が「免罪符」って複雑な心境なんですけど。

 ―――って声に出して言えないよね。



 雑音は聞こえないように、あたしの周りは何重ものシェルター(・・・・・)に守られている。



 守られているだけのあたしに、時々嫌気がさす。

 まだ子供だからと守られてばかりで、大人になりたいと一歩を踏み出そうとすれば、周りの大人がそれを止める。


 例えばデートだってそう。

 そう言えば、デートをする時、奏太さんはあまり変装をしない。

 普通芸能人だったら、隠れてデートとかするイメージなのに、堂々と顔を見せるし堂々と手を繋ぐ。

 本当に奏太さんの誤魔化し方はずるいと最近では思う。


 一度あたしがトイレから戻って来た時にやっぱりファンの人に囲まれていた。

 でも奏太さんは一点を見つめて聴こえない振りをする。

 そしてあたしが戻れば、即座に手話でお喋りを開始する。


 この変わり様にはいつも驚きを隠せない。


 でも奏太さんは言う。

 手話は歌手にとってありがたいものだって。

 声を大事にする彼は必要以上に言葉を音にしなくなった。

 たまに、プロデューサーだと紹介されたIORさんと飲みに行くみたいだけど、その時も突然手話が出てきて、会話が成り立たない時もあるんだって、苦笑しながら言われた事だってある。


 あたしの為に覚えてくれたものが、奏太さんの生活の一部になる。

 これ以上に嬉しいことは無い。


 だけど、言葉を音にして「好きだ」と聞き取れないあたしには、寂しさを拭い切れない。

 今はもうきちんと発音できているか分からないけれど、あたしは「好き」と音に出して伝えられる。

 ただ目から入ってくる「好き」や「愛してる」が何だか辛いときがある。


 そんなときに彼の胸に手を当てて、耳を澄ます。

 肌で感じる鼓動の音と、骨から伝わる彼が歌う声が、本当に音を捨て切れていない事を教えてくれる。

 心のそこで執着していた音がここにあるんだって。


 奏太さんはどうやらあたしのする行動に目を離さず見守ってくれてるみたいで、あたしが胸に手と耳を当てた時は必ず小さく歌ってくれる。


 それは暗闇の中で聞いたオルゴールの音楽だったり、一番に新曲を聞かせてくれたりする。


 「この場所は果琳専用だよ」って言って頭を撫でてくれると涙が出そうになる。

 アンニュイ気分を払拭している。


 彼はあたしを負担だと思っていないだろうか。

 その不安はいつも消えないけれど、音にならない愛の言葉を手の平から彼の心臓に染み渡れば良いと思って、そっとそこにキスをした。




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