第二章:光のエティモロジー(語源学)
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エウドクソスは、すべての生き物がそれを求めるがゆえに、快楽こそが最高善であると主張した。しかし、私にとって快楽というものは、あまりに表層的で儚すぎた。私はそれよりも「ロゴス(Logos)」という概念を信じていた。混沌の背後に隠された、宇宙の絶対的な秩序。そして十年前、長野県の小さな産婦人科で響いた赤ん坊の最初の産声の中に、その秩序は完璧な形で具現化した。
あかりは衰弱して横たわり、額には汗がにじんでいたが、その微笑みは八ヶ岳の頂に昇る朝光よりも眩しかった。彼女の腕の中には、赤くて脆い、小さな命の塊があった。
「エドくん……この子に、名前を……」
あかりが囁いた。その声はかすれていたが、美しいフルートの音色のような響きを湛えていた。
私はその小さな生き物を見つめた。彼女は、異なる方向を向いた二つの魂の「ジンテーゼ(合)」だった。私の日本的な論理と、母の故郷であるカリマンタンの地の温かさの融合。私はひとつの名前をすでに決めていた。何ヶ月も前から、自分の手帳に書き留めていた名前だ。
「詩織」私は静かに言った。「琴葉詩織だ」
あかりは愛らしく眉をひそめ、その意味を解体するよう私に促した。彼女は、夫が単に「響きがいいから」という理由だけで名付ける男ではないことを知っていた。
「どうして、詩織なの?」
私はベッドの傍らに座り、空を掴もうとする娘の小さな手を握った。
「漢字の『詩』はポエムを意味し、『織』は織物を意味する。直訳すれば、彼女は『詩の織物』だ」
私は一息つき、脳内にある思索を言葉にするための適切な語彙を探した。
「いいかい、あかり……人生とは往々にして、無意味で退屈、時には残酷な出来事の羅列――つまり散文に過ぎない。けれど、詩は違う。詩とは、リズムとメタファーを通じて、人間が苦痛を美へと変えるための手段だ。彼女を『詩織』と名付けることで、私は彼女に、切り裂かれた現実を修復する『織り手』になってほしいと願ったんだ。運命という荒い糸を紡ぎ、それを意味のある一篇の詩へと変えてほしいと」
私は少し沈黙し、まだ閉じられたままの赤ん坊の瞳を見つめた。
「哲学的に言えば、詩織は『アレーテイア(Aletheia)』――隠されていた真実の顕現だ。私たちのような儚く欠陥だらけの人間からでも、宇宙は絶対的な美を生み出せるという証拠なんだよ。もし人生が一冊の本だとしたら、彼女は単なる『しおり(栞)』じゃない。その本を最後まで読む価値があると思わせてくれる、唯一の理由なんだ」
あかりの目から涙がこぼれた。彼女は私の頭を引き寄せ、長い間、額に口づけをした。
「エドくん、あなたって人はいつも単純なことを難しくするけれど……でも、大好きよ。詩織……私たちの『詩の織物』」
歳月は流れ、詩織はその名の通りに育った。私の論理的な鋭さを持ちながら、母の無限の共感力も受け継いでいた。諏訪の自宅では、あかりのフルートの音と私のタイプライターの打鍵音が、彼女の成長の背景音楽となった。
かつて私とあかりがスコットランドへの誓いを立てたあの諏訪湖のほとりで、詩織が絵を描いている姿を見るたび、私は自分の人生の円環が完結したのを感じた。運命を欺くことに成功したのだと。私たち三人が共にいる限り、「エントロピー」や宇宙の崩壊法則など、私たちには適用されないのだと。
なんとナイーブだったのだろう。私はストア派の警告を忘れていた。「メメント・モリ(死を想え)」と。
宇宙は時として、あなた自身の死によってあなたを破壊するのではない。あなたが織り上げた最も美しい詩を、無残に引き裂くことであなたを絶望させるのだ。




