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証拠は嘘をつかない。異世界科捜研の事件簿  作者: 猫ネコユズキ


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第二の事件簿 Episode 1 王女の休息


 ――窮屈なのは、お城だけで十分。


 そんな言葉を口にしたら、きっと侍女に叱られてしまうだろう。


 第三王女である私は、小さく苦笑しながら馬車の窓を開けた。


 柔らかな風が頬を撫でる。


 窓の向こうには、見慣れた祖国の景色が広がっていた。


「殿下。」


 馬車の向かいに座る侍女が静かに頭を下げる。


「風が冷たくございます。」


「大丈夫。」


 私は笑って答えた。


「神聖国――テレジア聖国の冬に比べたら、暖かいくらいよ。」


 侍女は困ったように微笑む。


「そのような言葉遣いでは、お城へ戻られた時に王妃様がお嘆きになります。」


「今だけ。」


 私は窓の外を見つめたまま、小さく呟く。


「今日だけは、まだ学生でいたいの。」


 テレジア聖国で過ごした三年間。


 そこでは「第三王女」としてではなく、一人の学生として学んでいた。


 神聖魔法。


 歴史。


 礼儀作法。


 そして、多くの友人。


 初めて一人で市場へ行った日。


 友達と焼き菓子を分け合った日。


 先生に叱られた日。


 全部が、大切な思い出だった。


 でも今日で終わる。


 王都へ戻れば、私はまた「第三王女殿下」。


 一人で町を歩くことも。


 露店を眺めることも。


 見知らぬ人と話すことも。


 もう許されない。


 そんな気がしていた。


「間もなく宿場町リーヴェルへ到着します。」


 馬車の外から護衛の声が聞こえる。


 私は窓から身を乗り出した。


 石造りの建物。


 色とりどりの露店。


 笑い合う親子。


 走り回る子どもたち。


 そのすべてが眩しく見えた。


「いい町……。」


 思わず声が漏れる。


「殿下。」


 侍女が小さく咳払いをした。


「失礼しました。」


 姿勢を正す。


 けれど心は落ち着かない。


 あと少しで王都。


 あと少しで、お城。


 あと少しで、自由は終わる。


 馬車がゆっくりと止まる。


「少し休憩を取ります。」


 護衛隊長の声が外から聞こえた。


「町へは決して出られませんよう。」


「分かっています。」


 王女は素直に頷いた。


 護衛たちは周囲の警戒へ散っていく。


 その時、一人の若い騎士が馬車へ近付いてきた。


 まだ三十にも満たない青年だった。


 整った鎧を身にまとい、その口元にはどこか余裕を感じさせる笑みを浮かべている。


「殿下。」


 軽く一礼する。


「長旅でお疲れでしょう。」


「ええ、少しだけ。」


「でしたら、馬車の中に閉じこもっているより、外の空気を吸われてはいかがです?」


 侍女が慌てて口を挟む。


「し、しかし……。」


 青年騎士は穏やかな笑みを崩さない。


「ご安心ください。」


「この町は王国でも指折りの平和な宿場町です。」


「私どもも周囲を警戒しております。」


「ほんの少し歩かれるくらいなら問題ありません。」


 王女は嬉しそうに顔を輝かせた。


「本当に?」


「ええ。」


「ただし、遠くへは行かれませんよう。」


「約束します!」


 王女は軽やかに馬車から降りた。


 その後ろ姿を見送りながら、青年騎士は静かに笑う。


「……ほんの少し、ですから。」


 その笑みは優しさにも見えた。


 だが、その瞳だけは、どこか冷たく細められていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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