始まりの事件 Epilogue 残された報告書
数日後。
宿場町リーヴェル。
王国騎士団詰所。
レオンは机に向かい、事件報告書を書いていた。
『宿屋における盗難騒ぎについて』
発生した騒動。
関係者の証言。
調査結果。
盗まれたとされた壺は、実際には宿屋へ持ち込まれていなかった。
商人バルトによる偽装。
しかし。
その裏には、遺跡品を狙う何者かの存在がある可能性。
レオンは筆を止める。
円の右下が欠けた紋章。
――《月欠けの紋章》。
まだ。
答えは出ていない。
◇ ◇ ◇
そして。
報告書の最後。
ある人物について記す。
『ミサキ』
『宿屋で保護された、珍しい服装をした異国の女性』
『身元、出身地ともに不明』
レオンは筆を止める。
彼女は、普通の女性ではない。
誰も気付かなかった違和感。
残された小さな証拠。
そこから、真実へ辿り着いた。
『本件において、彼女は通常の捜査では発見困難な証拠を提示した』
『物証を重視し、残された痕跡から真実を導き出す姿勢は特異である』
レオンは少し考える。
そして。
一文を書き加えた。
『今後、彼女の協力を得られる場合』
『未解決事件の解明において有益な存在となる可能性がある』
しばらく、その文章を見る。
「……まだ早いな」
レオンは苦笑する。
騎士として。
見知らぬ者を簡単に捜査へ関わらせるわけにはいかない。
彼女の力が本物なのか。
偶然なのか。
まだ判断する時間が必要だ。
レオンは、その一文を黒く塗り潰した。
しかし。
完全に消すことはしなかった。
紙の下には、わずかにその言葉の跡が残っている。
「……いずれ」
レオンは窓の外を見る。
その時が来るかもしれない。
そして。
報告書を閉じた。
◇ ◇ ◇
始まりの事件 終
始まりの事件を
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