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証拠は嘘をつかない。異世界科捜研の事件簿  作者: 猫ネコユズキ


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始まりの事件 Episode 3 真実を見る騎士


宿屋に響き渡った叫び声。


その声に呼ばれるように。


リーヴェルに駐屯する騎士が到着したのは、それからしばらく後のことだった。


白銀の鎧。


腰に差した剣。


落ち着いた表情の青年。


「レオン様!」


リナが安堵した声を漏らす。


「この方は?」


私は小さく尋ねた。


「リーヴェルに駐屯している騎士様です」


リナが答える。


「レオン・ヴァルハルト様」


レオンは部屋へ入ると。


まず周囲を見渡した。


荒らされた室内。


床に散らばった荷物。


開いた木箱。


そして。


青ざめた表情の商人。


「状況を説明してくれ」


静かな声だった。


アルドさんが説明する。


「商人のバルトさんが外出している間に、部屋が荒らされました」


「なくなったものは?」


レオンが尋ねる。


バルトが答える。


「王国へ納める予定だった品だ」


「とある遺跡から発掘された、貴重な壺」


「明日、王都へ向かう予定だった」


レオンは頷く。


「分かった」


そして。


バルトを見る。


「いくつか確認する」


◇ ◇ ◇


「あなたは部屋を出る時、鍵をかけたか?」


「はい」


レオンの瞳が淡く光る。


「……真実」


「その鍵は、外出している間もあなたが持っていたか?」


「持っていた」


「……真実」


「この宿には、同じ部屋を開けられる合鍵があるか?」


バルトはアルドさんを見る。


「あとは……宿の主人が管理しているものだけだ」


「……真実」


「その壺は、王国へ納める予定の品だったか?」


「そうだ」


「……真実」


私は息を呑んだ。


「今のは……?」


リナが小声で教えてくれる。


「レオン様のスキルです」


「《真眼》」


「相手が口にした言葉に偽りがあるかを見抜く力です」


嘘を見抜く力。


そんなものまで存在する。


改めて。


ここが自分のいた世界とは違う場所なのだと実感する。


レオンは部屋を調べる。


「鍵は壊されていない」


「窓から侵入した形跡も見当たらない」


そして。


視線が宿屋の人たちへ向く。


「この部屋に入ることができた者は、かなり限られている」


リナの表情が曇る。


「まさか……」


レオンは静かに続けた。


「宿の関係者が関わっている可能性は否定できない」


「そんな……」


リナが首を振る。


「お父さんも、お母さんも、そんなことするはずありません」


アルドさんは何も言わず。


拳を握った。


私は黙っていた。


レオンさんの言っていることは正しい。


鍵が壊されていない。


外から侵入した形跡もない。


なら。


疑われるのは。


この宿にいる人間。


でも。


胸の奥に引っかかるものがある。


何かがおかしい。


だけど。


何がおかしいのか、分からない。


私は探偵じゃない。


科学捜査の専門家でもない。


この世界のことだって、まだほとんど知らない。


本当なら。


口を出すべきではないのかもしれない。


でも。


私はリナを見る。


私が倒れていた時。


助けてくれた。


目覚めた時。


温かい食事を用意してくれた。


何も分からない私を。


まるで当たり前のように迎えてくれた。


アルドさんも。


エマさんも。


リナも。


そんな人たちが。


間違った疑いで傷つく。


それだけは嫌だった。


「……助けたい」


その瞬間。


頭の中に声が響いた。


――条件を満たしました。


――スキル《科捜研》を発動します。


◇ ◇ ◇


世界が変わった。


音が少し遠のく。


景色の中に。


今まで見えなかったものが浮かび上がる。


木箱。


床。


扉。


そこに。


淡い黄色の光が浮かんでいた。


「……これは」


何なのか。


説明はない。


答えも聞こえない。


ただ。


黄色い光が。


何かを調べろと言っているように見えた。


私は木箱へ目を向ける。


特に。


取っ手や蓋の周辺。


そこに光が集まっている。


誰かが触れた場所。


何かが残っている場所。


――もしかして。


「指紋……?」


前の世界で。


科学捜査のドラマを見ていた時。


何度も出てきた。


人が物に触れた時に残す。


目には見えない、指先の痕跡。


レオンがこちらを見る。


「どうした?」


私は少し迷った。


でも。


口にした。


「その箱……」


「少し、調べさせてもらえませんか?」


「何を調べる?」


「まだ、分かりません」


自分でもおかしな答えだと思う。


でも。


本当に。


まだ何も分からない。


光が答えを教えてくれているわけじゃない。


ただ。


調べるべき場所だけを。


示している。


私は箱を見る。


「本当に盗まれたなら」


「何かが残っているはずなんです」


レオンが静かに尋ねる。


「何がだ?」


私は答えた。


「犯人が触れた証拠です」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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