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証拠は嘘をつかない。異世界科捜研の事件簿  作者: 猫ネコユズキ


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第四の事件簿 Episode 8 あの日の再現

 数日後。


 私たちは再び、四元素の塔の前に集まっていた。


 ローデリックさん。


 事件当日に塔へ入った、テリオンさん、ウェインさん、マリウスさん。


 そして、私とレオン、クロヴィス、アーサー。


「今日、皆さんに集まってもらったのは、事件の日に何が起きたのかを確かめるためです」


 私は三兄弟を見る。


「なので今日は、あの日の動きを一つずつ再現してもらいたいんです」


「再現……?」


 ウェインさんが眉をひそめた。


「はい。皆さんの証言と、現場に残されていた痕跡。それが本当に一致するのか、実際に確かめたいんです」


 ローデリックさんが塔を見上げる。


「それで、イグナートが死んだ理由が分かるのか?」


「まだ仮説です」


 私は答えた。


「だから、それを確かめます」


「現場で実際に確かめられることなら、私も見届けたいと思います」


 アーサーが静かに言った。


「私の《審理》では、今もテリオンさんが最も事件に深く関わっていると出ています。ですが、それだけで結論を出すつもりはありません」


 テリオンさんが僅かに顔を上げる。


「証言では分からなかった何かが、この塔に残されているのなら――私も確認しておきたい」


 しばらくの沈黙のあと、ローデリックさんが頷いた。


「分かった。やってみよう」


     ◇


 塔へ入る。


 まずは、イグナートさんが亡くなった一階の小部屋へ。


 前回調べた場所だ。


 今はまだ、ここには立ち止まらない。


「まずは、当日の動きと同じように進みましょう」


 三兄弟が頷いた。


 小部屋から鉄扉を抜け、その先へ進む。


 一階の試練は、土。


 二階へと続く階段を作る場所だ。


 テリオンさんが前へ出る。


 手をかざすと、低い音とともに土がせり上がっていく。


 ゴゴゴゴゴ――。


 やがて、二階へと続く土の階段が形作られた。


「事件の日も、こうやって?」


「はい」


 テリオンさんが出来上がった階段を見る。


「私が階段を作り、四人で上りました」


 私たちは土の階段を上って二階へ向かった。


 二階の試練は、水。


 マリウスさんが、あの日と同じように水魔法を使い、試練を突破する。


 三階の試練は、風。


 ウェインさんが風魔法を使う。


 そして四階。


 最後の試練は、炎だった。


「ここは……」


 当然、イグナートさんはいない。


 すると、クロヴィスが前へ出た。


「でしたら、私がやりましょう」


「え?」


 私はクロヴィスを見る。


「炎魔法でしょう?」


「使えるんですか?」


「これでも一応、魔法学者ですよ」


「あ、そうだった」


「……忘れてました?」


 クロヴィスが少し呆れたような顔をする。


「ちょっとだけ」


 私が答えると、クロヴィスは苦笑した。


 そして炎魔法を使い、最後の試練を突破した。


「さすがですね」


 アーサーが感心したように言う。


「当然です」


 クロヴィスが少し得意げに答えた。


 ……こういうところは、やっぱりクロヴィスさんだ。


 四つの試練を越え、さらに上へ。


 私たちは階段を上り、屋上へ出た。


 吹き抜ける風に、思わず髪を押さえる。


「ここが……」


「ああ」


 テリオンさんが答えた。


「俺たちが魔法書を手に入れた場所だ」


 事件の日。


 四兄弟はそれぞれの力を使い、四つの試練を突破してここまで辿り着いた。


 そして、ここで魔法書を手に入れた。


 ここまでは――四人で協力して。


「では、ここから帰りの動きを確認しましょう」


 私の言葉に、三兄弟の表情が少しだけ固くなった。


     ◇


 屋上をあとにする。


 四階。


 三階。


 そして、二階。


 そのまま二階を進み、一階へ下りる階段の手前まで来たところで、私は足を止めた。


「ここですね。口論になったのは?」


「ああ」


 ウェインさんが頷いた。


「兄貴が、魔法書は自分が持ち帰ると言い出した。俺は反対した」


 四人で協力して手に入れた魔法書。


 それをイグナートさん一人のものにすることに、ウェインさんは納得できなかった。


「それで、口論になって……風魔法を使った?」


「ああ」


「じゃあ、事件の日と同じくらいの強さでお願いします」


 ウェインさんが片手を前へ出した。


 次の瞬間。


 ぶわっ――!


「わっ!」


 強い風が吹き抜ける。


 服が大きくはためき、私は思わず足を踏ん張った。


 やがて風が収まった。


「このくらいだ」


「分かりました」


 ここでウェインさんとの口論。


 そして――。


「次が、マリウスさんですね」


「はい」


 マリウスさんが一歩前へ出た。


「ウェイン兄さんが風魔法を使ったあと、兄上がウェイン兄さんを馬鹿にするようなことを言いました」


 Episode 5で聞いた証言。


『その程度だから、お前はいつまでも半人前なのだ』


 その言葉に腹を立てたマリウスさんも、イグナートさんへ魔法を向けた。


「それで、水魔法を使った?」


「……はい」


「事件の日と同じくらいの量を出せますか?」


「できます」


「お願いします」


 マリウスさんが両手を前へ向ける。


 次の瞬間。


 大量の水が放たれた。


「うわ……!」


 二階の床へ、一気に水が広がる。


 その量は、想像していた以上だった。


 水はすぐそばにある階段へ流れ込み、激しい音を立てながら一階へ落ちていく。


「これは……かなりの量ですね」


 アーサーが階段を流れ落ちる水を見つめている。


「証言で聞くのと、実際に見るのとでは印象が違います」


「私も、前に聞いたときはここまでとは思ってませんでした」


 私は流れ落ちていく水を見る。


「事件の日、イグナートさんとテリオンさんは?」


「水に巻き込まれないよう、二人とも急いで階段を駆け降りました」


 マリウスさんが答えた。


 実際の二人は、水から逃げるように一階へ向かった。


 でも、今回は違う。


「今日は、ここで少し待ちます」


 私たちはその場に残り、大量の水が階段を流れ落ちていく様子を見届けた。


 勢いが落ち着いてから、そのあとを追うように階段を下りていく。


 そして、一階まで下りると――。


「……すごい」


 鉄扉の前に、大量の水が溜まっていた。


 水位は、私の腰くらいまである。


「やっぱり……」


 私は鉄扉を見る。


 前に《科捜研》で調べたとき、腰くらいの高さに黄色い光が線状に残っていた。


 ちょうど、同じ高さだ。


「あの痕跡は、やっぱりこのときの水だったんだ」


「なるほど」


 アーサーも、鉄扉と水面を見比べる。


「鉄扉に残っていた痕跡と、実際の水位が一致したわけですね」


「はい」


「少なくとも、ここまでの再現は現場の痕跡と矛盾していない」


 アーサーがそう付け加えた。


「うん」


 私はレオンを見る。


「レオン、扉を開けてみて」


「ああ」


 レオンが腰まで水に浸かりながら鉄扉へ近づいた。


 この鉄扉は、小部屋側から押して開く。


 つまり、今いる階段側から開けるには――引かなければならない。


 レオンが取っ手を掴み、力を込めた。


「……っ!」


 けれど――。


 鉄扉は動かなかった。


「駄目だ。開かない」


「うん」


 私は頷いた。


 扉の向こう側にある小部屋へ入るためには、こちら側へ鉄扉を引かなければならない。


 でも今は、腰ほどの高さまで溜まった大量の水が、扉を小部屋側へ強く押している。


 この状態では、その力に逆らって扉を引くのは難しい。


「なるほど」


 アーサーが鉄扉へ近づく。


「最初に扉が開かなかった理由については、これで説明がつきますね」


「はい。でも――」


 私は水面を見る。


「問題は、そのあとです」


 時間とともに、水位は少しずつ下がっていった。


 腰。


 膝。


 そして――足元。


「ウェインさん、マリウスさん」


 私は二人を見る。


「事件の日、二人がここへ来て扉を開けようとしたとき、水はどのくらい残っていました?」


 ウェインさんが足元を見る。


「……このくらいだ」


「私も、そう記憶しています」


 マリウスさんも頷いた。


「じゃあ、レオン。もう一度お願い」


「ああ」


 レオンが取っ手を握る。


 そして、引いた。


 ギィィィ――。


 今度は、鉄扉が開いた。


「……開いた」


「え……?」


 ウェインさんが目を見開いた。


 マリウスさんも、驚いたように鉄扉を見る。


「おかしい……」


 ウェインさんが呟いた。


「どうしました?」


「あの日は、このくらいまで水が減っていた。それなのに、俺とマリウスの二人で引いても開かなかった」


「間違いありません」


 マリウスさんも頷く。


「このくらいまで水は減っていました。それでも、開かなかったんです」


 アーサーが開いた鉄扉へ手を添えた。


「同じ程度の水位なのに、結果が違う……」


 もう一度、自分でも軽く扉を動かしてみる。


 鉄扉は、問題なく開いた。


「ということは、事件の日には水以外にも、扉を開かなくしていた何かがあったということですか?」


「はい」


 私は頷いた。


 レオンが私を見る。


「ミサキ」


「うん」


 私は開いた鉄扉を見つめた。


「ここまでは、計算どおり」


「計算どおり?」


 アーサーが私を見る。


「はい」


 同じくらいの水位。


 同じ鉄扉。


 それなのに、結果が違う。


 なら――。


 あの日にはあって、今にはないものがある。


「次を確かめよう」


 私は鉄扉の向こうへ目を向けた。


「みんな、中に入ってください」


 一人ずつ鉄扉を通り、小部屋へ入っていく。


 ここから先。


 誰も見ていない、イグナートさんの最期に何が起きたのか。


 次は――。


 それを確かめる。

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