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証拠は嘘をつかない。異世界科捜研の事件簿  作者: 猫ネコユズキ


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第四の事件簿 Episode 5 二人の証言

最初に話を聞くことになったのは、三男のウェインさんと末弟のマリウスさんだった。


 二人は事件当時も、途中まで行動をともにしていたらしい。


 案内された別室に入ると、すでに二人が待っていた。


 一人は落ち着かない様子で椅子に座り、もう一人はその隣で俯いている。


「事件の日について、最初から話していただけますか?」


 アーサーさんが尋ねる。


「……分かりました」


 ウェインさんが頷いた。


「あの日、俺たち四人は父上に言われて、塔へ入りました」


「目的は、最上階にある魔法書ですね?」


「はい」


「塔には、いくつかの試練があると聞きました」


 私が言う。


「ええ」


 ウェインさんが頷いた。


「最初は、一階の《土》の試練です」


「土?」


「二階へ続く階段がないんです。だから、テリオン兄さんが土魔法で階段を作りました」


「なるほど……」


「二階が《水》です」


 今度はマリウスさんが口を開いた。


「そこは、僕が水魔法を使って突破しました」


「その次が三階の《風》」


 ウェインさんが続ける。


「そこは俺が。そして四階が《炎》です」


「炎……」


「イグナート兄さんが突破しました」


 土。


 水。


 風。


 炎。


 馬車の中で聞いた、四兄弟それぞれの属性。


 ここで初めて、その意味が分かった。


「じゃあ……四人全員の魔法が必要だったんですね」


「はい」


 マリウスさんが頷いた。


「一人でも欠けていたら、最上階までは行けませんでした」


 四人で塔を登り、最上階にある魔法書を手に入れた。


 そこまでは、何も問題はなかったらしい。


「魔法書を最初に手にしたのは?」


「イグナート兄さんです」


 ウェインさんが即答した。


「ただ、その場では何もありませんでした。兄さんが魔法書を持って、四人で塔を下り始めたんです」


「問題が起きたのは、帰りですね?」


 アーサーさんが言った。


 二人の表情が変わった。


「……はい」


「どこで?」


「二階まで戻ったところです」


 マリウスさんが答える。


「正確には、一階へ下りる階段の手前です」


「行きにテリオン兄さんが土魔法で作った階段です」


 ウェインさんが続ける。


「そこで兄さんが言ったんです。魔法書は自分が持ち帰るって」


「自分一人で?」


「そうです」


「でも、四人で手に入れたものですよね?」


「だから俺もそう言いました」


 ウェインさんの声に苛立ちが混じる。


「四人でここまで来たんだ。誰が持ち帰るかは父上の前で決めればいいって」


「イグナートさんは?」


「聞く耳なんて持ちませんでしたよ。自分が一番優秀だから、自分が持つのが当然だって――」


「……兄上は、そこまでは言っていません」


 マリウスさんが小さく訂正した。


「同じようなもんだろ」


「でも……」


「言葉は正確にお願いします」


 アーサーさんだった。


 ウェインさんが彼を見る。


「あなたがどう受け取ったかではなく、イグナートさんが何と言ったのか。それを知りたい」


「…………」


 ウェインさんは少し不満そうな顔をしたものの、やがて答えた。


「『魔法書は俺が持つ。異論はないな』です」


「それだけ?」


「最初は」


 アーサーさんが頷く。


「続けてください」


「俺が納得できないって言った。それで……口論になりました」


「そのとき、魔法を?」


「……はい」


 ウェインさんが目を伏せた。


「俺が先です」


「何を使った?」


「風魔法です。兄さんに向けて放ちました」


「殺すつもりで?」


「違います!」


 ウェインさんがすぐに顔を上げた。


「吹き飛ばしてやろうと思っただけです。本当に、それだけでした」


 レオンは何も言わず、ウェインさんを見ていた。


「ウェイン兄さんが風を放って、兄上が怒ったんです」


 マリウスさんが続ける。


「イグナートさんは反撃した?」


「その前に、テリオン兄さんが止めました」


「テリオンさんが?」


「『やめろ。こんなところで何をしている』って」


「それで終わったんですか?」


「……終わりませんでした」


 マリウスさんが俯く。


「僕が……水魔法を使いました」


「今度はマリウスさんが?」


「はい」


「どうして?」


 マリウスさんは膝の上で拳を握った。


「兄上が、ウェイン兄さんに言ったんです」


 少し間を置く。


「『その程度だから、お前はいつまでも半人前なのだ』と」


 ウェインさんが顔を背けた。


「それを聞いて……僕も腹が立ってしまって」


「水魔法をイグナートさんへ?」


「はい」


「どのくらいの?」


「かなり強く……」


 マリウスさんの声が小さくなる。


「兄上を押し流すくらいのつもりで放ちました」


「殺そうとしたわけではない?」


「違います」


 マリウスさんが強く首を振った。


「そんなつもりじゃありません。ただ……頭にきて、抑えられなくなっただけです」


「そのあとです」


 ウェインさんが続ける。


「さすがにまずいと思ったんでしょうね。テリオン兄さんがイグナート兄さんに、『もういい。ここを出よう』って」


「それから?」


「二人で、そのまま目の前の階段を下りていきました」


「あなたたちは?」


「俺とマリウスは、その場に残りました」


「追いかけなかったんですか?」


 ウェインさんが少し言いにくそうに答える。


「……頭を冷やしたかったんです」


 隣でマリウスさんも頷いた。


「あのまま一緒に行ったら、また喧嘩になると思って……」


「どのくらいそこに?」


「正確には分かりません」


 ウェインさんが少し考える。


「一時間は経っていないと思います。ただ……それに近いくらいは」


「かなり待ったんですね」


「はい」


 マリウスさんが答えた。


「すぐに追うつもりだったんです。でも……なかなか動けなくて」


 二人とも俯いた。


 兄に魔法を向けた直後だ。


 後悔もあったのだろう。


「それで、下りようと思ったきっかけは?」


「音です」


「音?」


 ウェインさんが頷く。


「ゴゴゴ……って、下の方から聞こえてきたんです」


「何の音ですか?」


「土の階段です」


「階段?」


「テリオン兄さんが土魔法で作ったものは、ずっと残るわけじゃありません。時間が経つと元に戻るんです」


「それが、崩れ始めた?」


「はい」


 マリウスさんが頷く。


「このままだと下りられなくなるって気づいて……」


「まずい、って」


 ウェインさんが続けた。


「二人で急いで下りました」


「階段は?」


「もう消え始めていました。俺たちが下りている間にも崩れていて……かなり焦りました」


「それで一階へ?」


「はい」


「一階は、どうなっているんですか?」


「階段を下りると鉄扉があります」


 ウェインさんが答える。


「その先が小部屋です」


「扉は?」


「閉まっていました」


「鍵は?」


「ありません」


 ウェインさんが首を横に振る。


「だから普通に開けようとしたんです。でも……」


「開かなかった?」


「はい」


「俺一人じゃ駄目だったから、マリウスにも手伝ってもらいました」


「二人で引いても?」


「びくともしませんでした」


 私は眉を寄せる。


 鍵はない。


 なのに、二人がかりでも扉は開かなかった。


「そのとき、床にはまだ水が残っていました」


 マリウスさんが言った。


「水?」


「僕が二階で使った水です。階段を伝って、一階まで流れていたんだと思います」


「どのくらい?」


「少しです。足元が濡れている程度で」


 私は、その言葉を頭の片隅に置く。


 水。


 開かない鉄扉。


「それで?」


「何度か二人で引きました。でも、全然……」


 ウェインさんがそこまで話したとき、マリウスさんが小さく口を開いた。


「そのときです」


「何かあったんですか?」


「音がしました」


「また?」


「はい。でも、今度は階段じゃありません」


 マリウスさんは少し考えてから、


「扉の向こうからです」


 と言った。


「どんな音?」


「ゴゴゴゴ……って」


「何か大きなものが動くような……そんな音でした」


「何の音か分かりました?」


「いえ」


 ウェインさんが答える。


「俺たちも、何だって顔を見合わせました」


「そのあと?」


「もう一度、扉を引きました」


 ウェインさんの眉が寄る。


「そしたら……」


「開いた?」


「はい」


「さっきまで二人でも開かなかったのに?」


「そうです」


「急に?」


「最初はまだ重かったです。でも、引いているうちに少しずつ動いて……そのまま開きました」


「何かが引っかかっていたとか?」


「分かりません。中を見ても、それらしいものはありませんでした」


 開かなかった鉄扉。


 扉の向こうから聞こえた音。


 そして、その直後に開いた。


 何かある。


「それで、中は?」


 ウェインさんとマリウスさんの表情が変わった。


「……真っ暗でした」


「真っ暗?」


「はい」


 マリウスさんが答える。


「何も見えなくて」


「明かりを灯しました」


 ウェインさんが続ける。


「それで……床に人が倒れているのが見えました」


「人?」


「近づいて、兄さんだって分かりました」


 部屋が静まり返る。


「イグナートさんだった?」


「はい」


「呼びかけには?」


「反応しませんでした」


「ほかには誰も?」


「はい」


 マリウスさんが小さく答えた。


「兄上だけでした」


「そのあと、どうしたんですか?」


「すぐに塔を出ました」


 ウェインさんが答える。


「父上たちが外で待っていましたから」


「ローデリックさんが?」


「はい。父上と使用人たち、それから……テリオン兄さんもいました」


「テリオンさんも?」


「俺たちより先に塔を出ていたみたいです」


「それで?」


「兄さんが中で倒れてるって伝えました。みんなで、すぐに戻りました」


 レオンはしばらく黙ったまま、二人を見ていた。


 そして、ウェインさんへ視線を向ける。


「最後に一つだけ確認する」


「……なんだ?」


「ウェイン。イグナートさんを殺してはいないんだな?」


 ウェインさんの表情が強張った。


「当たり前だろ」


 すぐに答える。


「確かに魔法は使った。でも、兄さんを殺してなんかいない」


 レオンは何も言わず、その顔を見つめた。


 やがて、隣のマリウスさんへ視線を移す。


「マリウス」


「はい」


「君も、イグナートさんを殺してはいないんだな?」


「……はい」


 マリウスさんは真っ直ぐにレオンを見た。


「僕は、兄上を殺していません」


 短い沈黙。


 レオンが私を見る。


「二人とも、嘘は言っていない」


 《真眼》。


 二人とも、本心から兄を殺していないと言っている。


 その言葉を待っていたかのように、アーサーさんが口を開いた。


「となれば、現時点で最も疑わしい人物は一人ですね」


「……テリオンさん」


 私が呟く。


「そうです」


 アーサーさんは迷わず答えた。


「ウェインさんとマリウスさんが二階に残ったあと、イグナートさんとテリオンさんは二人で一階へ向かった」


 アーサーさんが閉じられた扉を見る。


「そして、その後――テリオンさんだけが先に塔を出た」


 最後にイグナートさんと二人きりだった人物。


 テリオン・グランドル。


 ウェインさんも、マリウスさんも嘘をついていない。


 なら――。


 本当に、テリオンさんが?


 私は閉じられた扉へ目を向けた。

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