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証拠は嘘をつかない。異世界科捜研の事件簿  作者: 猫ネコユズキ


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第四の事件簿 Episode 4 父と三人の息子


 馬車を降りると、目の前には大きな屋敷が建っていた。


 グランドル家。


 王都でも古い歴史を持つ貴族の屋敷だけあって、宿屋とは比べものにならないほど大きい。


「……でかい」


 思わず声が漏れた。


「王都では、それほど珍しくありませんよ」


 クロヴィスさんが言う。


「そうなんですか?」


「貴族の屋敷としては、ですが」


「十分すごいですけど……」


 私たちは使用人に案内され、屋敷の中へ入った。


 長い廊下を進み、一つの部屋へ通される。


 そこに、一人の男性が待っていた。


 ローデリック・グランドル。


 四人の兄弟の父親。


 そして、この家の当主。


「お待ちしておりました」


 ローデリックさんは立ち上がると、私たちを迎えた。


 年齢は五十代くらいだろうか。


 きちんと整えられた髪。


 立ち姿にも、貴族らしい威厳がある。


 でも――。


 その顔には、隠しきれない疲れが浮かんでいた。


「クロヴィス殿。わざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます」


「いえ。こちらこそ、突然の訪問を受け入れていただき感謝します」


 クロヴィスさんが答える。


「こちらが、以前お話ししたミサキさんです」


「あなたが……」


 ローデリックさんの視線が私に向いた。


「はい。ミサキです」


「クロヴィス殿から話は聞いております。不思議な力で、これまでいくつもの事件の手がかりを見つけたとか」


「いえ、そんな大したものじゃ……」


「ミサキ」


 隣からレオンの声がした。


「謙遜してどうする」


「いや、だって……」


「事実だろう」


「そうですけど……」


 ローデリックさんが、ほんの少しだけ笑った。


 でも、その表情はすぐに消えた。


「どうか……息子の死の真相を明らかにしてください」


 その言葉に、私は何も返せなかった。


 一か月。


 息子が死んでから、ずっと答えが見つかっていない。


 その時間を、この人はどんな気持ちで過ごしてきたんだろう。


「まず、事件について確認させていただいてもよろしいでしょうか」


 アーサーさんが尋ねた。


「もちろんです」


「四人の息子さんを塔へ向かわせたのは、あなたですね?」


「はい」


「目的は、後継者を決めるため」


「……その通りです」


 ローデリックさんが頷いた。


「私は長いあいだ、誰にこの家を継がせるべきか悩んでいました」


「長男のイグナートさんではなかったんですか?」


 私が尋ねる。


「魔法の才能だけで言えば、イグナートが最も優れていました」


 ローデリックさんの表情が曇る。


「ですが、当主に必要なのは力だけではありません」


 馬車の中で聞いた話を思い出す。


 イグナートは、魔法の才能や身分を重く見るところがあった。


「そこで、四人に試練を?」


「はい」


「塔の最上階にある魔法書を持ち帰るよう命じた」


 アーサーさんが確認する。


「その通りです」


「最初に魔法書を手にした者を、次の当主にすると?」


 ローデリックさんは、一瞬だけ黙った。


「……息子たちには、そのつもりで挑むよう伝えました」


 少し気になる言い方だった。


 私はローデリックさんを見る。


 でも、アーサーさんはそれ以上追及しなかった。


「四人が塔へ入ったあと、あなたは?」


「塔の外で待っていました」


「中には入らなかったんですか?」


「はい。これは息子たちに与えた試練です。私が手を貸すべきではないと考えていました」


「なるほど」


 アーサーさんが頷く。


「では、塔の中で何が起きたのかは?」


「私も、息子たちから聞いたことしか知りません」


 ローデリックさんは俯いた。


「最初に戻ってきたのは、テリオンでした」


「テリオンさんが?」


「はい」


 その名前に、アーサーさんの表情がわずかに変わった。


「かなり慌てた様子でした。塔の中で兄弟同士の争いになった、と」


「イグナートさんは?」


「まだ塔の中にいると聞きました」


「テリオンさんは、どうして先に戻ってきたんですか?」


「それについては……本人から聞いていただいた方がよいでしょう」


 ローデリックさんは苦しそうに答えた。


「ただ、あのときの私は、しばらくすれば他の三人も戻ってくるものだと思っていました」


 私は黙って頷いた。


「ですが、その後――」


 ローデリックさんの声が止まる。


 膝の上に置かれた手が、ゆっくりと握られた。


「ウェインとマリウスが戻ってきました」


 二人だけ。


 その意味は、聞く前から分かった。


「二人が……イグナートさんを?」


「はい」


 ローデリックさんが目を伏せる。


「塔から出てきた二人は、ひどく取り乱していました」


「何があったんですか?」


「イグナートが倒れている、と」


 部屋の空気が重くなる。


「私はテリオンとともに、すぐ塔へ入りました」


 ローデリックさんの声が、わずかに震えた。


「そして、小部屋で……」


 そこで言葉が途切れた。


 私は何も言わず、続きを待った。


「イグナートを見つけました」


「そのときには……」


「すでに、息はありませんでした」


 誰も言葉を挟まなかった。


 しばらくして、ローデリックさんが顔を上げる。


「この一か月、何度も考えました」


「……」


「なぜ、あのようなことになったのか。あの塔で、いったい何が起きたのか」


 握られた拳が震えている。


「三人の息子たちも、それぞれ自分に責任があると思っています」


「三人とも?」


「はい」


 ローデリックさんが頷いた。


「ですが、誰もイグナートがなぜ死んだのか説明できない」


 外傷はほとんどない。


 毒も見つからない。


 病気でもない。


 それなのに、イグナートは死んだ。


「息子さんたちから、直接話を聞かせてもらえますか?」


 私が尋ねた。


「もちろんです。そのために、今日は三人とも屋敷におります」


 ローデリックさんが使用人へ声をかけた。


「では、私は席を外しましょう」


 そう言って、ローデリックさんは静かに立ち上がった。


「どうか、息子たちの話を聞いてやってください」


「分かりました」


 私が答えると、ローデリックさんは小さく頭を下げ、部屋をあとにした。


 しばらくして、扉の向こうから足音が聞こえてくる。


 扉が静かに開いた。


 入ってきたのは、二人の男性だった。


 二人は私たちの向かいへ並んで腰を下ろす。


「ウェイン・グランドルです」


 先に名乗った男性に続いて、隣の男性も口を開いた。


「マリウス・グランドルです」


 ウェインさんと、マリウスさん。


 グランドル家の三男と四男。


 風魔法と、水魔法の使い手だ。


 私は姿勢を正した。


 ここからだ。


 四人で塔へ入り。


 三人だけが戻ってきた。


 あの日。


 あの塔で、何が起きたのか。


 まずは二人の証言から――。


 確かめていく。

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