↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
証拠は嘘をつかない。異世界科捜研の事件簿  作者: 猫ネコユズキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/35

第四の事件簿 Episode 3 四人の兄弟


 魔法研究院を出た私たちは、グランドル家へ向かう馬車に乗っていた。


 向かいにはレオンとアーサー。


 隣にはクロヴィス。


 王都に着いたばかりのときなら、窓の外を流れていく店や人の多さに夢中になっていたと思う。


 でも今は、それよりも気になることがあった。


「グランドル家って、どういう家なんですか?」


「王国でも古い歴史を持つ貴族の一つです」


 クロヴィスが答える。


「代々、優秀な魔法使いを輩出してきた家系でもあります。現当主はローデリック・グランドル。彼には四人の息子がいます」


「イグナートさんと、その弟さんたちですね」


「ええ」


 クロヴィスが頷いた。


「長男がイグナート。次男がテリオン。三男がウェイン。そして末弟がマリウスです」


「四人とも魔法使いなんですか?」


「それも、見事に属性が分かれていましてね」


 クロヴィスが指を一本立てる。


「長男イグナートが《火》」


 二本目。


「次男テリオンが《土》」


 三本目。


「三男ウェインが《風》」


 そして四本目。


「末弟マリウスが《水》です」


「地、水、火、風……」


 思わず呟く。


 四兄弟で、四つの属性。


「なんか、すごいですね」


「珍しい例ではありますね」


「魔法の実力は?」


 私が尋ねると、今度はアーサーが口を開いた。


「最も優れていたのはイグナートだ」


「長男の?」


「ああ。魔力量、扱える術の強さ、技術。いずれも兄弟の中では頭一つ抜けていたそうだ」


「じゃあ、次に当主になるのもイグナートさんだったんですか?」


「本来なら、その可能性が最も高かったでしょう」


 クロヴィスが答える。


「本来なら?」


「問題は、魔法の才能だけで当主を決められるわけではないということです」


 アーサーが窓の外へ目を向けたまま言った。


「イグナートは、少々人を選ぶところがあった」


「人を選ぶ?」


「魔法の才能や身分を重く見る男だったそうです。自分より劣ると判断した者には、かなり厳しく接することもあったとか」


「……なるほど」


「協調性にも欠けるところがあったようですね」


 クロヴィスが付け加える。


 魔法の才能は抜群。


 でも、人の上に立つ者としては問題がある。


「じゃあ、他の三人は?」


「次男のテリオンは、魔法の才能では兄に多少劣ります」


「ですが、評判は悪くない」


 アーサーが続ける。


「むしろ逆だ。使用人や領民から慕われている。温厚で、面倒見もいいそうだ」


「へえ……」


 私はアーサーを見る。


「そんな人を犯人だと思ってるんですか?」


「人柄と、事件を起こしたかどうかは別問題だ」


 即答だった。


「優しい人間は殺人を犯さない。そんな決まりはないだろう?」


「……まあ、そうですけど」


「それに、普段温厚な人間だからこそ、強い感情を抱いたときに何をするかは分からない」


「強い感情?」


「事件の前から、テリオンとイグナートの関係が良好だったとは言い難い。使用人たちにも話を聞いたが、弟たちがイグナートに不満を抱いていたことは間違いないようだ」


「もう、そこまで調べてるんですね」


「探偵ですから」


 さらりと言われた。


「ただし、それだけでテリオンが犯人だと?」


 レオンが尋ねる。


「まさか」


 アーサーは小さく笑った。


「人間関係は一つの材料に過ぎません。だからこそ、今日は本人たちの話を聞く為に向かっているだろ?」


 やっぱり、この人。


 ただ自信満々なだけじゃないみたいだ。


「三男のウェインと末弟のマリウスは比較的仲が良かったそうです」


 クロヴィスが話を戻した。


「二人とも、イグナートとは?」


「良好だったとは言い難いでしょうね」


「イグナートは弟二人に対して、少々きつく当たることがあった」


 アーサーが言う。


「魔法についても、たびたび見下すような発言をしていたらしい」


「兄弟かぁ……」


 四人の顔は、まだ知らない。


 それでも少しずつ関係が見えてくる。


 才能に恵まれた長男。


 人望のある次男。


 そして、長男からきつく当たられていた二人の弟。


「それで、どうして四人で塔なんかに?」


「後継者を決めるためです」


「後継者?」


「ローデリック殿は、自分の跡を誰に継がせるか決めかねていました」


 クロヴィスが説明する。


「そこで四人の息子に、一つの試練を与えたのです」


「それが、あの塔?」


「ええ」


「その塔って、どういう塔なんですか?」


 ずっと気になっていた。


 アーサーが言っていた、グランドル家が管理する古い塔。


 そこでイグナートは死んだ。


「いくつかの試練が用意されている塔です」


「試練?」


「ええ。塔を登るには、それらを突破しなければならないそうです」


「四兄弟のために作られた塔なんですか?」


「いえ。塔そのものはかなり古いものです。グランドル家が代々管理してきた遺跡の一つですよ」


「今回は、それを試練に使ったということか」


 レオンが言った。


「その通りです」


 クロヴィスが頷く。


「最上階には何があったんですか?」


「一冊の魔法書です」


「魔法書……」


「グランドル家に古くから伝わるものです。ローデリック殿はそれを塔の最上階に置き、四人に持ち帰るよう命じた」


「それを持って帰った人が、次の当主?」


「少なくとも、息子たちはそう考えていたようですね」


 クロヴィスの言い方が少し気になった。


「違うんですか?」


「それは、ローデリック殿本人に聞くべきでしょう」


「またそれ……」


 この人、本当にすぐ答えを教えてくれない。


「ですが」


 アーサーが口を開いた。


「四人は実際に最上階まで辿り着いた。そして魔法書も手に入れた」


「じゃあ、試練は成功したんですね」


「行きは、な」


「行きは?」


 アーサーがこちらを見る。


「問題が起きたのは帰りだ」


 馬車の空気が少し変わった。


「魔法書を手にしたのはイグナートだった」


「長男の……」


「ああ。そしてイグナートは、それを自分のものだと主張した」


「でも、四人で取ったんですよね?」


「弟たちも、そう考えたようだ」


 嫌な予感がした。


「……揉めたんですか?」


「ええ」


 クロヴィスが答える。


「塔を降りる途中で、兄弟同士の争いになったそうです」


「争い……」


「そこで複数の魔法が使われた」


 アーサーが続ける。


「その後、イグナートは塔の一階と二階を繋ぐ場所にある小部屋で発見された」


「一人で?」


「ああ」


「そのときには、すでに?」


「亡くなっていた」


 私は黙った。


 四人で塔に入った。


 試練を突破した。


 魔法書を手に入れた。


 そして帰り道で争いが起き――。


 一人だけが死んだ。


「そのとき、テリオンさんは?」


 私が尋ねる。


 アーサーはすぐには答えなかった。


 ほんの少しだけ口元を緩める。


「それをこれから本人に聞きに行く」


「……なるほど」


「先入観を持たずに話を聞きたいのだろう?」


「え?」


「さっきから、そういう顔をしている」


 図星だった。


 この人。


 やっぱり、よく人を見ている。


「ですから」


 アーサーは静かに続けた。


「私から事件当日の詳細をすべて話すのは、ここまでにしておきましょう」


 私は小さく頷いた。


 どうせなら、本人たちの口から聞きたい。


 何を見たのか。


 何をしたのか。


 そして――何を思っていたのか。


「そろそろ着くぞ」


 レオンの声に、窓の外を見る。


 大通りから少し離れた先。


 高い塀に囲まれた、大きな屋敷が見えてきた。


「あれが……」


「グランドル家です」


 クロヴィスが答えた。


 馬車がゆっくりと速度を落としていく。


 私はもう一度、頭の中で四人の名前を思い返した。


 イグナート。


 テリオン。


 ウェイン。


 マリウス。


 四つの属性を持つ、四人の兄弟。


 そのうち一人は、もういない。


 そしてこれから――。


 残された三人に、あの日何があったのかを聞く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。