第四の事件簿 Episode2 死因不明
更新頻度落ちてしまい
申し訳ございません
書き溜めたデータが消えて
改めて書いてます(・_・;
実は、第5の事件簿は完成済みで
6の事件簿もほぼ終わってるのに
4のデータだけ、消えてしまって、、、
前後の流れを間違わないように
執筆中ですので、お許しください。
王都アルディアの城門をくぐった瞬間、私は思わず足を止めた。
「……人、多っ」
広い大通りを、人と馬車がひっきりなしに行き交っている。
道の両側には何階建てもの建物が並び、その一階には色とりどりの看板を掲げた店が軒を連ねていた。
焼きたてのパンの匂い。
露店に積み上げられた色鮮やかな果物。
見たことのない服を並べた店。
少し先からは、何かを焼く香ばしい匂いまで漂ってくる。
「レオン、あれ何のお店?」
「あとにしろ」
「じゃあ、あっちは?」
「あとだ」
「ちょっとくらい見ても――」
「ミサキ」
「……はい」
どうやら、本当に観光する時間ではないらしい。
リナへのお土産候補が次々と通り過ぎていく。
名残惜しく店先を振り返りながら、私はレオンのあとをついていった。
◇
クロヴィスから指定されていたのは、王都の中心部にある魔法研究院だった。
石造りの大きな建物に入り、受付で名前を告げる。
案内されたのは、長い廊下の一番奥にある部屋だった。
「ここだな」
レオンが扉を叩く。
コン、コン。
…………。
返事がない。
レオンがもう一度叩いた。
コン、コン。
やっぱり返事はない。
「……いないね」
「そのようだな」
「私たち、今日で合ってるよね?」
「ああ」
「呼んだ本人がいないって、どういうこと?」
「俺に聞くな」
レオンと顔を見合わせる。
どうしたものかと考えていると――。
「おや」
背後から声がした。
振り返る。
廊下の向こうから、大量の資料を両腕いっぱいに抱えた男が歩いてきた。
紙の束に分厚い本。
その上にさらに何冊か積まれていて、歩くたびにぐらぐらと揺れている。
「あ、クロヴィスさん」
「お久しぶりです」
クロヴィスは資料の隙間から顔を覗かせた。
「思ったよりもお早い到着でしたね」
「いや、呼んだのクロヴィスさんですよね?」
「ええ。もちろん覚えていますよ」
平然としている。
「それで、私を王都まで呼んだ理由なんですけど――」
「話したいことはあるのですが」
クロヴィスが私の言葉を遮る。
「まずは、扉を開けてくれますか?」
「……はい?」
言われて、クロヴィスの両手を見る。
いや。
見なくても分かる。
完全に塞がっている。
「鍵は?」
「開いています」
「じゃあ、なんでそんなに一度に持ってきたんですか?」
「必要だったので」
「何回かに分ければいいじゃないですか」
「二度歩くことになるでしょう」
「…………」
そういう人だった。
私は小さく息を吐いて扉を開ける。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
クロヴィスは当然のような顔で部屋へ入っていった。
その後ろ姿を見送りながら、レオンがぼそりと言う。
「相変わらずだな」
「うん」
私は少し笑った。
「なんか安心した」
◇
「適当に座ってください」
クロヴィスは抱えていた資料を机の上へ置いた。
ドサッ、と結構な音がする。
ただでさえ本や紙でいっぱいだった机が、さらに大変なことになった。
「……これ、必要な資料なんですか?」
「もちろんです」
「全部?」
「いずれは」
「いずれは、なんだ……」
私とレオンが椅子に座る。
クロヴィスは積み上げた資料を何やら探し始めた。
「ああ、それと」
紙をめくりながら、クロヴィスが言う。
「もう一人来ますので、少々お待ちください」
「もう一人?」
「ええ」
「誰ですか?」
「来れば分かります」
「またそれ……」
私は椅子の背にもたれた。
この人は、どうしてこう何でも説明を後回しにするんだろう。
「それにしても――」
クロヴィスが積み上げた資料を整理しながら、ふと口にした。
「先日の事件。お見事でしたね」
「え?」
「ヴィクトル殿の屋敷での一件ですよ」
「ああ……」
「まさか瑠璃蛍の性質から、あのような方法で犯人を見つけるとは。私も驚きました」
「クロヴィスさんが瑠璃蛍のことを教えてくれたからですよ」
「知識を与えられたからといって、それをどう使うかは別の話です」
クロヴィスはそう言って、私を見る。
「それを見込んで、今回もあなたをお呼びしたのですが」
「今回も……事件なんですか?」
「ええ。ただ、その話はもう一人が来てからにしましょう」
事件。
その言葉に、少しだけ気持ちが引き締まる。
やっぱり、ただ王都を案内してくれるために呼ばれたわけじゃないらしい。
「ああ、それと。瑠璃蛍といえば――」
「はい?」
「あれから少し研究を進めましてね」
「やっぱり調べてたんですね」
「当然でしょう。あれほど興味深い性質を持つ生物ですから」
クロヴィスの目が、少し楽しそうになる。
「知り合いの薬師にも協力してもらい、少々面白いものを作ってもらいました」
「面白いもの?」
「ええ」
「何ですか?」
「まだ試作段階ですので、それはまたいずれ」
「えー、そこまで言って教えてくれないんですか?」
「そのうち、見せる機会もあるでしょう」
「気になる……」
クロヴィスはそれ以上答えず、何事もなかったように資料へ視線を戻した。
絶対、わざとだ。
もう少し聞き出そうと口を開きかけた、そのとき。
コン、コン。
扉を叩く音がした。
クロヴィスが顔を上げる。
「どうやら来たようですね」
「さっき言ってた人?」
「ええ」
「入ってください」
「失礼する」
扉が開いた。
入ってきたのは、見覚えのない男だった。
年齢は三十歳前後だろうか。
整えられた髪に、仕立てのいい服。
派手さはない。
けれど、どこか目を引く。
男は部屋に入るなりレオンへ目を向け、続いて私へと視線を移した。
ほんの一瞬。
なのに、頭のてっぺんから足の先まで見られたような気がした。
「紹介しましょう」
クロヴィスが言う。
「アーサー・ロックウェル。王都で探偵をしています」
「探偵……?」
思わず聞き返した。
この世界にも探偵がいるんだ。
アーサーは私の前まで来ると、軽く頭を下げた。
「アーサー・ロックウェルだ。よろしく」
「ミサキです。よろしくお願いします」
「君がミサキか」
「……私のこと、知ってるんですか?」
「クロヴィス殿から少し聞いている」
私はクロヴィスを見る。
「何を話したんですか?」
「大したことではありませんよ」
「それ、余計に気になるんですけど」
「事件をいくつか解決した、少々変わった娘がいると」
「少々変わったは余計です」
アーサーが小さく笑った。
「なるほど」
「……何がですか?」
「いや。こちらの話だ」
なんだろう。
ちょっと気になる人だ。
「さて」
クロヴィスが声を上げた。
「これで全員揃いましたね」
さっきまでの軽い空気が、そこで少し変わった。
クロヴィスは机の上に積まれた資料から、一束の紙を取り出した。
「ミサキ。あなたを王都へ呼んだ理由をお話ししましょう」
私は椅子に座り直す。
レオンも表情を引き締めた。
「ひと月ほど前のことです」
クロヴィスが一枚の紙を机に置いた。
「王都の貴族、グランドル家で一人の男が死にました」
「……殺人事件ですか?」
「それが分からないのです」
「分からない?」
「被害者は、グランドル家当主ローデリック・グランドルの長男――イグナート・グランドル」
クロヴィスが一枚の記録を私の前へ滑らせる。
「検死の結果です」
私は紙を手に取った。
文字を目で追っていく。
「目立った外傷は……ほとんどなし」
「ええ」
「両手には、擦り傷と小さな傷がいくつか……」
それ以外に、命を奪うような傷は記されていない。
「死因は?」
「不明です」
クロヴィスが答えた。
「毒物も、調べられる範囲では確認されていません。持病もなく、事件の直前まで健康だったそうです」
外傷はほとんどない。
毒でもない。
病気でもない。
それなのに――死んだ。
「遺体は?」
「すでに埋葬されています」
「……そうですか」
ひと月前。
今から遺体を調べることは難しい。
「でも……事故だった可能性もありますよね?」
「当然、考えられます」
答えたのはアーサーだった。
私は彼を見る。
「ですが、問題は彼が死んだ場所と、その直前に起きたことです」
「場所?」
「グランドル家が管理する、古い塔です」
「塔……」
「イグナートは三人の弟とともに、その塔へ入りました」
クロヴィスが続ける。
「目的は、塔の最上部に眠るとされていた一冊の魔法書を持ち帰ること」
「魔法書……」
「そして四人は、実際にそれを見つけた」
アーサーが静かに言った。
「しかし――」
一拍。
「塔から生きて帰ったのは、三人だけです」
部屋が静かになった。
私はもう一度、手元の検死記録を見る。
イグナート・グランドル。
目立った外傷はほとんどない。
両手にいくつかの傷。
そして――死因不明。
「三人の弟は、なんて言ってるんですか?」
「それぞれ証言しています」
クロヴィスが別の資料へ手を伸ばす。
だが、その横からアーサーが静かに口を開いた。
「もっとも――」
その声には、迷いがなかった。
「僕は、すでに答えはほぼ出ていると考えています」
「答え?」
「ええ」
アーサーは机の上の資料に指を置いた。
「イグナート・グランドルの死に、最も深く関わっている人物は一人しかいない」
そして、はっきりとその名前を口にした。
「次男――テリオン・グランドルです」
「……じゃあ、どうしてまだ解決してないんですか?」
私が尋ねる。
アーサーは少しだけ目を細めた。
「それを知るには――」
机の上に置かれた三枚の証言書を見る。
「まず、生き残った三兄弟の話を聞いてもらうのが一番でしょう」
私は三枚の紙へ目を落とした。
死因の分からない長男。
三人の弟。
古い塔。
そして、一冊の魔法書。
さっきまで頭の中を占領していた王都のお土産のことは、いつの間にかすっかり消えていた。




