第四の事件簿 Episode1 はじめての王都
ごとごと、ごとごと。
規則正しい車輪の音に揺られながら、私は窓の外を眺めていた。
見えるのは、どこまでも続く街道と、その向こうに広がる緑。
昨日の朝にリーヴェルを出て、一晩。
馬車に揺られることにも、さすがに少し飽きてきた。
「ねえ、レオン」
「なんだ?」
「王都って、あとどれくらい?」
向かいに座っていたレオンが、窓の外へ目をやる。
「このまま順調なら、昼過ぎには着くだろう」
「おお……!」
思わず身を乗り出した。
王都アルディア。
この世界に来てから、その名前を聞く機会は何度もあった。
でも、実際に行くのはこれが初めてだ。
「何があるんだろ」
「何がって……王都だぞ。大抵のものはある」
「そうじゃなくて。お店とか、お菓子とか」
「……観光に行くんじゃないぞ」
「分かってるって」
もちろん、今回の目的は観光じゃない。
数日前。
宿屋に一通の手紙が届いた。
差出人は、クロヴィス・マギスター。
以前、瑠璃蛍について教えてくれた魔法学者だ。
手紙には、王都まで来てほしいとだけ書かれていた。
詳しい理由は、王都に着いてから話すという。
なんともクロヴィスらしいというか。
もう少し説明してくれてもいいのに。
「でも、せっかく王都まで行くんだし、リナにお土産くらい買わないと」
「帰る頃に時間があればな」
「何がいいかなぁ。やっぱりお菓子かな」
リナなら甘いものは喜びそうだ。
エマさんにも何か買って帰りたい。
アルドさんは――お酒?
そんなことを考えていて、ふと一人の顔が浮かんだ。
「あ」
「今度はなんだ?」
「エリー、元気かな」
レオンがこちらを見る。
「エリシア殿下か?」
「うん」
第三王女エリシア。
初めて会ったときは、まさか王女様だなんて思ってもいなかった。
一緒に町を歩いて、買い物をして。
あの事件のあと、彼女は王都へ戻っている。
「せっかくだし、会えるかな」
「…………」
レオンが黙った。
「なに?」
「お前は王都へ行けば、王女殿下に気軽に会えると思っているのか?」
「え? 会えないの?」
「会えるわけないだろう!」
馬車の中にレオンの声が響いた。
「でも、この前は普通に一緒に買い物したよ?」
「あれが普通じゃなかったんだ!」
「そうなの?」
「そうだ!」
そんなに力いっぱい言わなくても。
「じゃあ、お城に行って『エリーいますか?』って聞いても――」
「絶対にやめろ」
即答だった。
「まだ最後まで言ってないよ」
「聞かなくても分かる」
「王都って厳しいね」
「王都の問題じゃない。相手は王女殿下だ」
レオンが額に手を当てる。
なんだか疲れているように見える。
まだ王都にも着いていないのに。
「じゃあ、お土産くらい渡せないかな」
「……それくらいなら、俺から届けられるかもしれん」
「ほんと?」
「ああ。だから、そんなに嬉しそうな顔をするな。俺たちは仕事で呼ばれたんだぞ」
「分かってるって」
そう答えながら、私は再び窓の外へ目を向けた。
クロヴィスは、どうして私を呼んだんだろう。
少しだけ気にはなる。
でも――。
初めての王都。
やっぱり楽しみなものは楽しみなのだ。
それからしばらくして。
馬車が緩やかな坂道を上り始めた。
「ミサキ」
「ん?」
「見えてきたぞ」
レオンに言われ、窓から身を乗り出す。
丘を越えた、その先。
「……わぁ」
思わず声が漏れた。
遠くに巨大な城壁が見える。
その向こうには、数え切れないほどの建物の屋根。
高い塔。
行き交う馬車。
そして、そのさらに奥。
街を見下ろすように、大きな城がそびえていた。
「あれが……」
「ああ」
レオンが答える。
「王都アルディアだ」
これまで見てきた町とは、何もかもが違った。
私は窓に張りつくようにして、その景色を眺めた。
「すご……」
「だから言っただろう。まだ入口だ」
「ねえ、レオン。あのお城にエリーがいるんだよね?」
「お前はまずそこなのか……」
呆れた声が聞こえたけれど、私は聞き流した。
王都アルディア。
このときの私は、まだ知らなかった。
クロヴィスが私をここへ呼んだ理由を。
そして――。
この王都で、一か月ものあいだ答えが見つからないままになっている、一つの死があることを。
第四の事件簿が始まりました!
今回の舞台は、ついに王都アルディアです。
初めての王都にワクワクしているミサキですが、
もちろん観光だけで終わるはずもなく――。
クロヴィスがミサキを王都へ呼んだ理由とは?
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それでは、次回もよろしくお願いします!




