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証拠は嘘をつかない。異世界科捜研の事件簿  作者: 猫ネコユズキ


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第三の事件簿 Epilogue 瑠璃蛍の夜


事件は、ひとまずの決着を迎えた。


ハロルドは騎士たちに身柄を預けられた。


ヴィクトルの死が事故によるものだったのか。


その後、ハロルドが行った遺体の隠蔽を含め、どのような処遇になるのか。


それはこれから、正式に調べられることになる。


屋敷では今も、騎士たちが慌ただしく行き交っていた。


そして。


レオンたちがこの夜会へやってきた、もう一つの理由。


月欠けの紋章。


今回の事件から、それに繋がる手がかりは何一つ見つからなかった。


ヴィクトルにも。


ハロルドにも。


事件そのものにも。


月欠けとの繋がりは確認できなかった。


「……今回は、違ったのかな」


ミサキが呟く。


「そのようだな」


レオンが答えた。


「そっか……」


少しだけ残念な気持ちはある。


けれど。


今は、それよりも気になることがあった。


「レオン。ちょっとだけ待っててもらっていい?」


「どうした」


「フィオナの顔、見てから帰りたい」


レオンは何も聞かなかった。


「ああ」


短く答えた。


*


フィオナは庭にいた。


少し離れたところでは、マーサが静かに見守っている。


ミサキはゆっくりとフィオナへ近づいた。


「フィオナ」


小さな背中が振り返る。


「……ミサキ」


泣いたのだろう。


目の周りが少し赤くなっていた。


ミサキは、その隣に座った。


「ここにいたんだ」


「うん」


フィオナは庭を見ていた。


しばらく。


二人とも何も話さなかった。


やがて、フィオナがぽつりと呟く。


「お父さまね」


「うん」


「明日、一緒にお花見るって言ってたの」


ミサキは黙って聞いた。


「新しく咲いたお花、見せる約束だった」


「……そっか」


「でも……」


フィオナが俯く。


小さな手が、ぎゅっとドレスを握った。


「もう、見られないんだよね」


「……うん」


嘘はつけなかった。


フィオナの目に、また涙が溜まる。


「今日もね」


震える声が続く。


「ちゃんと、おやすみって言ってないの」


ミサキの胸が締めつけられた。


明日も、当たり前に会えると思っていた。


だから今日言えなかった言葉なんて、いくらでもある。


ミサキはフィオナの小さな手を握った。


そのときだった。


庭の奥で、小さな光が揺れた。


「……あ」


フィオナが顔を上げる。


一匹の瑠璃蛍が、ゆっくりとこちらへ飛んでくる。


けれど。


その光は、いつもの黄色ではなかった。


深く、澄んだ――瑠璃色。


「……青い」


フィオナが呟いた。


瑠璃色の光は、二人の少し前をゆっくりと舞っている。


ミサキは、その光を見つめた。


そして。


ふと、クロヴィスから聞いた話を思い出した。


――死者の魂が蛍に宿り、天へ昇っていく。


そんな言い伝えの残る土地もある。


「ねえ、フィオナ」


「なあに?」


「瑠璃蛍にはね、昔から言われてるお話があるんだって」


「お話?」


「うん」


ミサキは瑠璃色の光を見つめた。


「大切な人が亡くなるとね、瑠璃蛍がその人の魂を見つけてくれるんだって」


フィオナが目を瞬く。


「魂を?」


「うん。それで、迷子にならないように……天国まで連れていってくれるの」


フィオナは、目の前を舞う瑠璃蛍をじっと見つめた。


「じゃあ……」


小さな声が漏れる。


「お父さまも?」


ミサキは頷いた。


「うん。きっと」


そのとき。


庭の奥から、もう一つの光が浮かび上がった。


そして。


さらに、もう一つ。


一匹。


二匹。


また一匹。


深く、澄んだ瑠璃色の光が、夜の庭からゆっくりと浮かび上がってくる。


ミサキは何も言わなかった。


なぜ、今。


瑠璃蛍がその色に輝いているのか。


その理由を、フィオナに説明する必要はなかった。


フィオナは目をいっぱいに見開いて、瑠璃色の光を見つめている。


「ミサキ……」


「うん」


「お父さま、行くのかな」


ミサキは、小さな手を握り返した。


「……うん」


瑠璃色の光が、ゆっくりと夜空へ昇っていく。


フィオナは立ち上がった。


そして。


空へ向かって、小さく手を振る。


「……お父さま」


涙が一筋、頬を伝った。


「おやすみ」


一匹の瑠璃蛍が、高く舞い上がった。


その後を追うように。


いくつもの瑠璃色の光が、夜空へ昇っていく。


ミサキは何も言わず。


ただ、フィオナの隣でその光を見送った。


その夜。


アルヴェイン邸の庭では。


瑠璃色の蛍が、いつまでも静かに舞っていた。

第三の事件簿「瑠璃蛍の夜」、最後までお読みいただきありがとうございました!


今回は、《科捜研》に新しく「青の痕跡」が加わりました。


消したはずの血の痕跡。


そして、血に反応して瑠璃色に輝く「瑠璃蛍」。


この二つを使った事件を書いてみました。


最後のフィオナと瑠璃蛍の場面は、今回のお話の中でも特に書きたかったシーンです。


瑠璃色に輝く理由を知っているミサキと、父の魂を運んでくれていると信じるフィオナ。


どちらが正しい、ということではなく。


あの夜だけは、フィオナにとって優しい光であってほしいなと思っています。


そして、ミサキの《科捜研》も少しずつ成長してきました。


黄色、そして青。


この先、どんな痕跡を見つけられるようになるのか。


次の事件簿も楽しんでいただけたら嬉しいです。


ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました!

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