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証拠は嘘をつかない。異世界科捜研の事件簿  作者: 猫ネコユズキ


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第三の事件簿 Episode 4 青の痕跡


「青の痕跡……」


ミサキは床を見つめた。


名前は分かった。


《科捜研》が第二段階へ成長したことも。


でも、それだけだ。


この青い光が何を示しているのかまでは、あの声は教えてくれなかった。


「ミサキ?」


レオンが隣にしゃがみ込む。


「何かあるのか?」


「ここ。青く光ってるの」


レオンが床を見る。


「……俺には何も見えない」


「だよね」


エドガーとマーサも床を覗き込むが、反応は同じだった。


何もない。


綺麗に磨かれた床があるだけだ。


ミサキはもう一度、青い光を見る。


青。


いや――瑠璃色。


その色から、つい先ほど聞いたクロヴィスの言葉を思い出した。


――戦場では、この蛍が瑠璃色に変わるそうですよ。


「戦場……」


なぜ戦場で色が変わる?


戦場にあって、この部屋には本来ないもの。


傷。


死。


そして――。


「……血?」


「血?」


レオンが聞き返す。


「まだ分からない。でも……」


青いから血だ。


それだけでは、ただの想像だ。


確かめなければ。


ミサキは立ち上がった。


「少し待っててください」


「どこへ行く?」


「確かめたいことがあるの」


そう言い残し、ミサキは部屋を飛び出した。


*


「お待たせしました!」


しばらくして戻ってきたミサキの手には、小さな透明の瓶が握られていた。


その中で、一匹の瑠璃蛍が淡い黄色の光を放っている。


「瑠璃蛍か」


「うん」


ミサキは青く光って見える場所へ近づいた。


「みんな、見てて」


瓶の蓋を開ける。


そして、そっと瓶を傾けた。


一匹の瑠璃蛍が、淡い黄色の光を放ちながら外へ飛び出した。


小さな光は部屋の中をふわりと漂う。


最初は、行き先を決めていないようにゆっくりと宙を舞っていた。


けれど――。


やがて、その軌道が変わった。


「……あ」


瑠璃蛍が向かっている。


ミサキにだけ見えている、《青の痕跡》へ。


ゆっくりと。


吸い寄せられるように。


そして、青く光る床へ近づいた、その瞬間。


「……!」


小さな光が変わった。


黄色から青へ。


深く、澄んだ瑠璃色。


「色が……」


マーサが息を呑んだ。


エドガーも目を見開いている。


今度はミサキだけではない。


全員に見えていた。


「やっぱり……」


ミサキが呟く。


レオンは瑠璃色に輝く蛍と床を見比べた。


「なぜ色が変わった?」


「たぶん、この蛍……血に反応してるんだと思う」


「なぜ分かる?」


「実は――」


ミサキは片方の手を差し出した。


人差し指の先に、小さな傷がある。


レオンの眉が寄った。


「その傷は?」


「さっき、瑠璃蛍を捕まえるときにつけたの」


「自分でか?」


「ほんのちょっとだよ」


「そういう問題ではない」


「まあまあ」


「まあまあ、ではない」


ミサキは苦笑してから、傷のついた指を見る。


庭へ出たとき、瑠璃蛍はまだ何匹も飛んでいた。


けれど、近づけば逃げてしまう。


どうやって捕まえよう。


そう考えたとき、クロヴィスの話を思い出した。


戦場では瑠璃色に変わる。


なら。


戦場にある何かへ引き寄せられる可能性は?


ミサキは指先に小さな傷をつけた。


赤い血が、ほんの少し滲む。


すると。


近くを飛んでいた一匹が方向を変えた。


ゆっくりと、ミサキの指先へ近づいてきたのだ。


そこで瓶を差し出すと、蛍は誘われるように中へ入った。


「そのときは、まだ偶然かもしれないと思った」


ミサキは床へ視線を戻す。


「でも、この場所でも瑠璃色になった」


指先の血に寄ってきた瑠璃蛍。


そして今。


何もないように見える床へ自ら近づき、同じように色を変えた。


「だから、たぶん……」


ミサキは瑠璃色に輝く蛍を見る。


「ここに血がある」


部屋が静まり返った。


「ですが……」


マーサが戸惑ったように床を見る。


「血など、どこにも……」


「うん。見えない」


ミサキにも肉眼では見えない。


床は綺麗だった。


血の染みなど、どこにも残っていない。


それなのに。


《科捜研》は青く光っている。


瑠璃蛍も反応した。


「誰かが拭いたんだ」


レオンが低い声で言った。


ミサキは頷いた。


「私も、そう思う」


ここには血があった。


そして誰かが、それを綺麗に拭き取った。


何もなかったのように。


ミサキは青く光る床を見つめた。


「これが……《青の痕跡》」


黄色とは違う。


誰かが消そうとしたもの。


意図して隠された痕跡。


「もしかして、青は……」


ミサキは小さく呟く。


「誰かが隠した痕跡を、教えてくれるの……?」


答えはない。


あの声も、もう聞こえなかった。


まだ一度だけだ。


本当にそういう力なのかは分からない。


それでも。


消したつもりでも。


隠したつもりでも。


そこに何かがあったという事実までは――消せない。


レオンが使用人用の通路へ続く扉を見た。


「だが、アルヴェイン殿はここにはいない」


「うん」


ヴィクトルは自室へ戻った。


その後、姿を消した。


そして、その部屋には拭き取られた血が残されていた。


ミサキも通路へ視線を向ける。


もし。


この部屋でヴィクトルが血を流したのなら。


そして誰かが、彼をここから運び出したのだとしたら――。


「……待って」


ミサキが呟いた。


「どうした?」


「床は綺麗にできても……」


ミサキは顔を上げた。


「血を流している人を運んだら、運んだ人の服や手にも血がつくよね?」


レオンの目がわずかに細くなる。


「その可能性は高い」


「だったら――」


ミサキは、部屋を舞う瑠璃色の光を見つめた。


まだ、探せる。


消された血を見つけられるのなら。


血のついた人だって――。


「まだ、探せるかもしれない」


「何をするつもりだ?」


ミサキはレオンを見る。


「瑠璃蛍を、もっと集める」

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