episode5 本音
あれから2週間程が経った。この日は珍しく諒の家ではなく外で遊んでいた。
「やっべ、ポリ」
春翔の言葉に騒ぐのをすぐに辞めて、みんなで近くにあった車の後ろへと隠れる。パトカーが少し過ぎたところで止まった気配がする。
「流石にバレた?」
小声でひそひそと話していると女性の声がした。
「絶対いましたよね?」
「見てなかった」
女性の後に続いた男性の声に小さく驚きの声が漏れる。
「嘘つかないでください。運転してたんだから絶対見えてたじゃないですか」
「見てねぇ」
「先輩は仕事放棄しすぎです」
「いねぇんだから仕方ないだろ」
2人の警官のやり取りを聞いてみんなも顔を見合わせる。
「怜さんじゃね?」
「絶対そう。探されそうだけど…どうする?」
「怜さんだけじゃないのか…あの女警官面倒くさそうだしなー…」
「…よし、逃げるぞ」
春翔が覚悟したようにそう言うと、諒がこの距離で逃げる気?という顔をする。同意見だ。そんな諒を無視して春翔が駆け出したのをみんなで慌てて後を追う。当然、女性警官も怜さんも気付いた。
「ちょっと待ちなさい!先輩!追いますよ!」
駆け出したみんなとは別に1人だけまだ車の後ろに隠れている私の方に少しずつ足音が近付く。
「…先に追っとけ」
「え?」
「俺はこいつの事情聴取しとく」
女性警官がもどかしそうに「もう!」と怒りながら春翔たちを追いかけに行く。怜さんと2人の空間になり、気まずくなる。
「…お前何してるんだ」
「…」
「なんで一緒に逃げなかった」
私の逃げなかった理由。捕まってしまった可能性を考えたとき、怜さんにこうして会うのが気まずいから。なんてことは言えるわけがない。
「…悪かった」
「え?」
ずっと黙り込んでいた私に突然降りかかる謝罪に思わず顔を上げる。
「この前少しキツく当たった。悪かった」
「いや、あれは私が悪かったですし…私こそごめんなさい…」
「あの後いろいろ考えたけど、やっぱり俺のした事は無責任だし、やっていい事じゃない」
だから関わることはできない。改めてそう言われる気がして再び下を向く。
「だから、お前のご両親にお会いしたい」
「…はい?」
何を言っているか分からず、しかめっ面になる。突然何を言いだすんだろう。
「親の理解は必要だし、俺もこれ以上無責任な行動はとれないからちゃんと挨拶しようと思う」
「挨拶ってなんの挨拶ですか?」
「…俺でいいか許可とらないといけねぇだろ」
「…それって付き合うってことですか?」
「親の返事次第だろ、それは」
「いや、その前に怜さんの気持ちの問題ですよ。私のこと好きってわけじゃないのに」
「好きじゃなかったらなんで付き合うんだよ」
怜さんの言葉に体が硬直する。今何が起きているのか分からない。怜さんが私の親に挨拶をしたいと言いだして、その理由は私と付き合うからで、付き合う理由は…私が好きだから?私の想いが強すぎておかしな夢でも見ているんだろうか。
「なんだ。次はお前がもう好きじゃないとか言いだすのか?」
「いや!そんなことはないですけど!ないけど…でも、私のことガキんちょって…興味ないって言ってたじゃないですか」
「気があるって言ったらきもいだろ」
「私のこと最初から好きだったんですか!?」
「それは違う。最初は本当に寝る場所与えただけで…その後からは…まあ何も思ってなかったわけではない」
「でも、ずっと相手にしてくれてなかったのに…なんで急に」
「言い合いしたあとから妙に落ち着かなかったからいろいろ考えて…あー、好きになってんだなって思ったっていうか…そんな聞くな、恥ずかしい」
そう言って口篭る。そこら辺の男ならこんなこと言われても鳥肌もので気持ちが悪いだけだけど、怜さん相手では嬉しさを覚える。
「…俺でいいか」
恥ずかしそうに頭を掻きながらそう言って下を向く怜さん。
「いいに決まってるじゃないですか」
私の返事に安心したように少し笑う。嬉しさを抑えきれず、そのまま怜さんに抱きついた。
「おい。ふざけんな。見られたらどうなるか分かってるだろ」
「あ、すみません」
ハッとして離れる。怜さんが未だに気まずそうで私まで気まずくなってしまう。お互い下を向いていると怜さんのスマートフォンが鳴った。
「もしもし」
「先輩のせいで逃げられちゃったじゃないですか!どうするんですか!」
「じゃあ、仕方ねぇな」
「先輩の方はどうなったんですか?」
1度怜さんが私を見る。
「…終わった。帰る途中だったらしい」
「帰るって…それにしては時間が遅すぎませんか?一旦署に連れて行きましょう」
「いい。もう帰した」
「勝手に何してるんですか!?仕事ですよ!?」
怒りがヒートアップしている彼女が喋り続けているというのに電話を面倒くさそうに切る。
「そんなことしていいんですか?」
「うるせぇんだ、こいつ。多分戻ってくるからお前も急いであいつらと合流しろ」
この場面を見ているとどの辺が仕事人間なのか分からなくなる。
「…今日お家行ってもいいですか?」
「駄目だ。まだちゃんと話してないだろ」
仕方ないことではあるけど怜さんの言葉に肩を落とす。
「…明日、お前とお母さんは仕事休みか?」
「はい」
「じゃあ、明日にでも挨拶行くか」
「明日!?急過ぎますよ!」
「別日でもいい。お前が分かりやすく落ち込むから早めにした方がいいと思っただけだ」
「…分かりました。明日で」
「じゃあ、さっさと行け。また捕まるぞ」
「はい。じゃあ」
私は怜さんに手を振ってその場から離れた。
春翔たちと連絡を取り、いつもの公園で合流すると質問攻めされる。
「お前何してんだよ!逃げるって言っただろ!」
「茜いないから俺たち混乱したんだよ?」
「あの警官に捕まってたの?」
「一気に喋らないであげなよ。答える隙ないじゃん」
小羽が助け舟を出してくれたおかげで他3人が黙った。小羽がまとめて「で、どうしたの?」と聞いてくれる。私は逃げなかった理由と共に怜さんとの出来事を伝えた。
「…は?どういうこと?」
「明日茜のお母さんが認めたら茜と怜さんは付き合うってこと?」
「うん。そうみたい」
「そうみたいって他人事かよ」
「良かったじゃん。おめでとう」
まだ決まってもいないのに小羽が祝福する。元々テキトーな子ではあるけど今回ばかりはテキトー過ぎる。
「こいつ絶対怜さんの話しかしてこなくなる」
「ありえる」
「無駄に口数多いもんね」
諒の野郎。一応年上だというのに生意気にも程がある。いつか痛い目に遭ってしまえ。例えば今まで泣かせてきた女の子全員に押しかけられるとか。
「お母さん認めてくれそう?」
「どうだろう。この前怜さんの話はしたけど、ちょっと考えさせてって言われたっきりで…」
「まあ、親としてすぐに受け入れられるような内容ではないよな。相手が大人なんて思うこと沢山あるだろうし」
「でも、怜さんがまともな人だってことは話してたら分かるんじゃない?お母さんが認めてくれるといいね」
そう言って優が優しく笑う。優の言う通り、怜さんと直接話してみれば怜さんがどんな人か、お母さんにも分かってもらえるかもしれない。面談がもうすぐ目の前まで近付いてることを思うと緊張した。
.
.
.
.
.




