episode4 壁
眩しい光で目が覚めた。重い瞼を持ち上げ隣を見ると、怜さんはまだ眠っている。
「朝ご飯食べるかな。でも、この前寝起きだから食べないって言ってたし…」
1人でぶつぶつ小言を言っていると怜さんが「1人で何言ってんだ」なんて言ってきて驚く。
「起きてたんですか!?」
「お前の声で起きたんだよ」
「すみません!どうぞ寝ててください」
「お前朝から元気だな」
そう言っていつものように鼻で笑う。寝起きなのにかっこいい。
「好きです」
「は?」
「あ、すいません。心の声が」
「お前大丈夫かよ。飯は」
「…私が作りましょうか?」
「作れんの?」
「そこそこは」
「ふーん。テキトーにあるもの使え」
「怜さん食べないですか?」
「お前が作るんだろ。食べる」
そんなことサラッと言われても心臓が持たない。罪な人だ。照れ隠しに急いでキッチンへ行く。お米を早炊で炊いている間に玉子スープ、野菜炒めや玉子焼きを作っていく。準備が終わった頃に怜さんが寝室から出てくる。
「できました!」
「おう、ありがとう」
席に着いた怜さんの目の前に私も座る。手を合わせると怜さんが料理を口に運んだ。ドキドキしながら見ていると、上手いじゃんと言ってくれて胸を撫で下ろす。
「ちゃんと作れるんだな」
「なんでも作れるわけではないですけど…」
「これ作れたら十分だろ」
そう言いながらどんどん口の中に運んでくれるから嬉しくなる。
「私、やっぱり怜さんのこと好きです」
「なんだよ急に」
「彼女にしてください」
「無理」
「なんで」
「だから、お前は未成年で俺は大人。分かるだろ」
「なんで好きって気持ちを年齢だけで叶わないものにされるんですか。未成年が大人を好きになったら、大人が未成年を好きになったら駄目な理由ってなんですか?」
「…もういいだろ、この話は」
「よくないです。私本気です。本当に好きなんです」
感情が昂っていること、怜さんを困らせていること、私が1番分かっている。けど、納得いかない。年齢のせいで叶わない恋があるなんて。年齢を理由に断られても納得できない。納得いかない理由に妥協できるほど私は大人ではなくて、話を終わらせようと思えなかった。何が問題なのか、まだ子供である私には分からない。
「…お前は俺と関わらない方がいいな」
「…」
「食べ終わったら準備して帰れ」
「…もう帰ります」
まだ手もつけていないご飯を残して私は家を出た。私の我儘で怜さんに迷惑をかけてしまった。全部私が悪いことは分かっていても怜さんから言われた言葉が胸に突き刺さって痛い。堪えていた涙が雫のように零れ落ちてくる。朝から最悪だ。とにかく今は誰かに話を聞いてもらって人目を気にせず泣ける場所がほしい。そう思った私はある場所に向かった。
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「は?なんで泣いてんの?」
私を見た諒がそう言う。
「っ、諒ー」
「ちょ、俺が泣かせてるみたいじゃん。とりあえず入って」
「ごめん、ありがとう、」
家の中に入ると諒が水を入れてくれる。お礼を言うと「で、どうしたの」と、聞いてほしくて来たんだろという顔で聞いてくれた。
「失恋した」
「は?」
「私が我儘言ったから怜さんに嫌われちゃったっ、」
話しているうちに泣けてきて再び涙を流す。
「我儘って…何言ったの?怜さん怒らせるとか余程のこと言わないと無理だろ」
私が説明すると諒がしばらく黙ったあとため息をつく。
「馬鹿なの?まあ、知ってたけど」
「だって、納得いかなかったんだもん」
「だからって警察官の怜さんに言うことかよ。大人しく引けばよかったのに」
正論を言われ反省する。確かにあれは私が悪い。自覚はあるから尚更だった。
「次の恋探せば」
「無理!まだ好きだもん」
「でも、叶いそうにないんでしょ」
他人に言われると現実感が増して更に悲しくなる。
「少しくらい優しく慰めろよ!」
「それ俺の役目じゃないし」
「うぅ、優…」
「…まあでも、茜の気持ち分かってて家に泊めたりしてるんだから怜さんも少しは好意あるでしょ。大丈夫なんじゃない?」
「嘘。今の結末見てよ!」
「仕事人間だから葛藤してんじゃないの」
「そうなのかな…」
「ていうか、なんで俺の家来たの?俺への見せつけ?腹立つんだけど」
「怒んないでよ。泣ける場所ここしかないんだって」
「ふざけんな」
確かに悪いことをしてしまった。今は知らないけど過去に私は諒が好きだった時期があって、諒もきっと同じ気持ちだったのだ。
「ごめん…」
「俺奪い合うみたいな面倒くさいことしないから」
「誰もそんな乙女な展開は求めてない。諒には尚更期待してない」
「それは酷くね?」
「だって、諒クズだし」
「お前帰れよ」
「ごめんって!」
諒のおかげで少しだけ元気が出た。
「お礼に今日の夜ご飯作っていくから」
別に要らないと言う諒の言葉を無視してキッチンに立つ。冷凍すれば残っても別日に食べられるカレーを作った。
「お弁当じゃなくて自炊したらいいのに」
「めんどいし」
「体に悪いよー。今日はカレー食べてね。残ったらジップロックとかに入れて冷凍しとけば日持ちするから」
そろそろ帰らないと諒にも申し訳ないので帰ることにした。
「じゃ、私行くね。ありがとう」
珍しく諒が玄関まで見送ってくれた。ドアが閉まるときに小さく「ありがとう」と聞こえた。諒の可愛いところだ。
家に帰ると、ここ数週間で私が怜さんの家に泊まりに行っていることを心配しているお母さんがいろいろ意味を込めたであろう「大丈夫なの?」という言葉を投げかける。これを機にお母さんに怜さんのことを話した。怜さんと揉めてしまったこと、怜さんが素敵な人であること、私が怜さんのことを好きであること。それを聞いたお母さんはしばらく黙り込んだ。すんなり受け入れられる内容じゃないことは私にも分かっていた。
「私、本気で好きになった」
私の言葉にお母さんはまだ黙っていたけど、最後は「ちょっと考えさせて」とキッチンへ戻って行った。
私も部屋に戻り、ベッドにダイブする。怜さんから連絡がきてないかと期待してスマートフォンを見てみたけど、そこに怜さんからの通知は無かった。こんな状況になっても諦められないくらいに私は彼を好きになってしまった。今日の話だって振られる理由が私自身にあったなら受け入れられた。でも、怜さんが振る理由は年齢で。年齢だけが断る理由なら受け入れられない。遠回しに未成年じゃなかったら付き合ってもいいと、都合のいい解釈をしてしまうから。あんな態度をとってしまって、怜さんからも関わらない方がいいと突き放された。私の恋が終わってしまったことは一目瞭然。やっぱり未成年なんて言葉は嫌いだ。高校生になるとお店なんかの料金は大人料金になるし、「もう大人と変わらないんだから」「自分で考えなさい」と大人扱いしてくるくせに、こういうときばかりは「まだ子供」「まだ未成年」と子供扱いしてくる。矛盾しすぎだ。そもそも世の中には偽善が多すぎる。実際未成年で飲酒や喫煙をしていようがいまいが赤の他人には関係のない話だ。健康の為とかそんなのただの建前で、面倒事を起こして自分を巻き込まないでほしいから辞めろと注意するくせに、あたかも私たちを心配しているみたいな言葉を並べる。そんなの自己責任だし、親でもない赤の他人に口を挟まれる筋合いはない。私たちのことなんて大して考えてもないくせに偽善ぶった言葉を並べているのを見るととてつもない嫌悪感に駆られる。ただでさえ普段の生活から未成年に対する疑問や不満が多い中、恋愛でも未成年が邪魔してくるとなると私も大人しく従うことはできない。元々良くも悪くも納得がいかないことには言うことを聞けない人間なのだ。未成年というものが無ければ私の恋は叶ったかもしれないのに。
そんな風に心の中で腹を立てていると着信が入った。少し期待して画面を見てみたけど表示された文字は小羽からのものだった。
「もしもし」
「あ、もしもし。諒から失恋したって聞いたけど大丈夫?」
どうやら諒から話を聞いて心配してかけてくれたらしい。
「大丈夫ではないかな」
「一体何があったのよ」
私が諒のときと同様事情を説明すると、小羽がうーん、と頭を悩ませる。
「どうせ最初から私の気持ち知ってたんだから、そんなこと言うなら思わせぶりなんかしないでほしいよ」
私が愚痴を吐くと小羽が苦笑する。
「でもさ、怜さん仕事人間なんでしょ?中途半端な行動で仕事に支障きたしかねないことしないと思うよ。今からの行動で怜さんの答え出るんじゃない?」
普段あまり長くは喋らない小羽が沢山口を割るから驚く。小羽は相手の悩みを親身に聞ける優しい子だと、話を聞いてもらう度に思う。
「そうだね。ありがとう」
「まあ今は様子見ようよ」
小羽の言葉に相槌を打ち、お互い別れを告げて電話を切った。
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