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第10話「エピローグ」
後日、ケンジとハナが寿司屋に行ったとき、ハナが醤油皿のそばのワサビを見て
「懐かしい」と言った。
ケンジが「懐かしいって何が」と聞くと、ハナは「なんとなく」と笑った。
ケンジには、わかった。
あの夜、ケンジがまだ言えていなかった夜、寿司屋で、ワサビの前でケンジが固まっていたのを、ハナは気づいていたのかもしれない。
聞いてみたら、ハナは「さあ?」と言った。
笑っていた。
何もかも知っているような、でも何も知らないような、ハナ特有のその笑顔で。
ケンジは醤油皿のワサビを見た。
半年前、全てが始まった、緑色を。
変な半年だった、と思った。
でも悪くなかった。
ハナが隣で「中トロだ」と言って皿を取った。幸せそうに食べた。
ケンジはその横顔を見た。
完璧だな、と思った。
鼻も含めて。
完




