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彼女の鼻にワサビを突っ込む(願望)〜僕の純情と邪念〜  作者: 山田 ソラ


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12/12

あとがき

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 ……と、しみじみ書き始めたいところなのですが、まず一つだけ確認させてください。

 

 あなたは今、「鼻にワサビを入れたい男の話」のあとがきを読もうとしています。

 本当によろしいですか。

 よろしいですね。では、続けます。

 

 この話を書きながら、ずっと考えていたことがあります。

 「変な衝動」というものについて、です。

 

 ケンジは半年間、自分の中の衝動を「おかしい」「どうかしている」と思い続けました。実際、おかしいんです。客観的に見て。好きな人の鼻にワサビを入れたいなんて、どう取り繕っても、おかしい。

 

 でも、おかしい衝動を持ってしまうこと自体は、たぶん、誰にでもあることだと思うんです。

 

 規模や内容は違えど、「なんでこんなこと思うんだろう」という感情を、人は時々、好きな人に対して抱く。理屈では説明できない、言葉にしたら絶対引かれる、でも頭の中には確かにある、そういう感情。

 

 ケンジのそれが、たまたまワサビだっただけで。

 そういう話として、書きました。

 ハナというキャラクターを作るとき、一番大事にしたのは「引かない」という一点でした。

 

 ケンジの告白を聞いて、ハナは怒りませんでした。引きませんでした。「なんで今まで言ってくれなかったの」と言いました。

 

 これは、ハナが「変なことを受け入れられる寛大な人」だから、ではないと思っています。

 

 ハナ自身も、「好きな人が寝てるとき鼻をつまんだことがある」と白状しました。変な衝動を、ハナも持っていた。だからケンジのことを、笑えたんだと思います。

 

 自分の変なところを知っている人は、他人の変なところにも、優しくなれる。

 そういうことを、ハナという人物を通して書きたかったのかもしれません。

 トモについても、少し書かせてください。

 

 トモは、この話の中で一番まともな人間です。毎回ため息をついて、毎回「どうかしてる」という顔をして、でも毎回、ケンジの話を聞きました。


 「俺はお前の味方だ」と言いました。ワサビの話の意味はわからないけれど、ケンジがハナを大事にしているのはわかる、と言いました。


 友情というのは、相手のすることを全部理解することじゃなくて、理解できなくても隣にいることなのかもしれない。トモを書きながら、そんなことを思っていました。


 ため息の数が、愛情の深さでした。

 それからワサビについて。

 なぜワサビだったのか、という問いに、ケンジは最後まで答えられませんでした。

 実は、書いている側も、答えを持っていませんでした。

 

 わからなくていい、と思っていました。

 好きという感情は、いつも理由の説明に失敗します。なぜ好きなのかを突き詰めると、最終的には「好きだから好き」にしか辿り着かない。


 ワサビへの固執も、同じ構造をしているような気がして、あえて答えを出しませんでした。

 説明できないものが、人間の中にはある。

 それでいいんじゃないか、と。

 

 最後に、一つだけ。

 冷蔵庫のドアポケットに、ワサビチューブが残り三本あります。

 ケンジは捨てませんでした。

 捨てる理由が、なくなったから。

 

 この一文が、この話の中で、個人的に一番好きな一文です。

 悶々とした日々の果てに、ワサビの存在意義が変わった。脅威でも、執着でも、秘密でもなくなった。


 ただ、二人の間にある、ちょっと変な、でも笑える何かになった。

 それが恋愛というものの、一つの形なのかもしれないな、と思います。

 ワサビの話で、すみません。

 

 読んでくださって、本当にありがとうございました。

 あなたの冷蔵庫のワサビチューブが、いつか誰かとの笑い話になりますように。

 ……なりませんね、普通は。

 

 でも、まあ。

 人生、どうなるかわかりません。

田中ケンジと佐藤ハナに、幸あれ。

トモのため息が、いつか笑いに変わりますように。




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