32話.アオイ
「葵ちゃんも久し振りね〜!こんな美人さんになっちゃってー」
施設でお世話になった竹森先生が目黒に仲良さそうに話し掛けている光景…。
いったいどういうことなのだろうか。
目黒も先生って呼んでるし。
あっ、もしかして…。
「あの…竹森先生って、目黒と知り合いだったんですか?」
それなら辻褄が合う。
元からこの二人は俺の知らないところで知り合いだったと。
きっと親戚…いや、そこまで近くはなくても、遠い遠い遠い親戚の可能性もあるしな!
「知り合いもなにも、葵ちゃんもここで暮らしてたじゃない」
竹森先生は、さも当たり前かのように俺にそう答えた。
目黒もここで暮らしていた…?
えっ、目黒もここにいたの?いつ?
確かに目黒も実家はないと言っていたし、生まれについて多く語っていなかったから何かあるとは思っていたけど。
でも、俺は目黒みたいな女の子と出会った記憶なんてないしな…。
「あ、ああ。なるほど。俺とは入れ違いだったのね」
「スグル君も同じ時期だけど。二人はいつも一緒にいて仲良く遊んでいたわよ?」
「いつも一緒にいた…?」
竹森先生にそう言われて、俺はよく思い出そうとする。
俺がいつも一緒にいたやつ…
アオイって名前の…
『アオイ!早く来いよー!』
『スグル待ってよー!!』
…今一瞬、何か思い出した。
で、でも、俺の記憶の中では、その一緒にいた子は確か短髪で、いつも半袖で短パンを履いてて…。
ま、まさか…!?
「アオイって…男じゃなかったの!?」
「こら。目の前に葵ちゃんがいるのに、なんてこと言うの」
すかさず、竹森先生に俺は注意されてしまった。
じゃあ、俺が養護施設にいたときによく遊んでいたやつは、今目の前にいる目黒だったってことなのか!?
なんで!?ずっと男だと思ってたし…こんな美少女になるとは信じられねぇ!?
「…スグルは私のこと、忘れてたんだね」
俺が酷く慌てているせいか、目黒が恨みっぽく言ってきた。
なんかすごいジト目を向けてくるよ…。
「い、いや、名字も変わってるし、見た目もこんなに変わってたら普通気づかないだろ!」
「ふーん」
「悪かったって…」
「謝って済むなら警察はいらない」
「いやほんと…すまん」
俺はただ謝るしかできなかった。
未だに、目黒があのときのアオイだとは信じられないけど。
もはやこの状況を楽しんでる目黒と気まずそうな俺のやり取りを見てか、竹森先生はくすくす笑っていた。
「でも、葵ちゃんはスグル君とちゃんと会えてよかったわね。去年、葵ちゃんがここに電話してきたときに…」
「せ、先生。それは言わないで」
そこで目黒が先生の話を止めに入った。
珍しく目黒は焦った様子だったな。何か俺に聞かせたくない話でもあったのだろうか。
ーー
ーーーー
「スグルー!彼女と元気でなー!」
「だから、彼女じゃねーっての…」
「二人とも、また遊びに来てね」
施設で暮らしている小学5年生の守と竹森先生に見送られながら、俺と目黒は駅に向かうバスに乗った。
バスに乗っている間、俺と目黒に会話はなかった。
俺は目黒が昔施設で一緒だったと知って混乱してるし…目黒はよくわからん。ずっと、目黒は窓から外を眺めていた。
駅に着いた後、俺と目黒は電車に乗り換えた。
こっから2時間半か…。かなり長い帰路だ。
電車の中は空いていて、ちょうど目黒と隣同士で座れた。
「……」
「な、なぁ、目黒」
「なに?」
俺は目黒に聞きたいことがあった。
「お前っていつ俺のことを…子どもの頃施設で一緒に暮らしていたやつだと気づいたんだ?」
「それは…」
「お、おう」
「名前聞いたときに、スグルだってわかった」
俺が目黒に名前を聞かれたのって…確か、目黒がうちの高校に転校してきた日に学校案内をさせられた日か。
「あー、その時か…。高校で出会ってすぐのときかよ」
「スグルは今日まで、まったく私のこと気づかなかったみたいだね」
今思えば、目黒の「私の顔もすぐ忘れそう」って発言や、俺のことをいきなり下の名前で呼んだのもちゃんと意味があったんだなって思えてくる。
じゃあ、あの『初恋だから』って目黒が言ったのは…も、もしかしてあの頃俺のことを…。
「…今日スグルと一緒に行けてよかった」
俺が一人で勝手にドキドキしているときに、目黒はボソッと感想を述べていた。
なんかしみじみと語ってるものだから、俺は思わずツッコんでしまう。
「そんな大げさな」
「スグル」
「ん?」
俺は目黒の方に顔を向けた。
目黒はじーっと俺の目を見つめてくる。
彼女にじーっと見つめられるのはこれまでも何度かあったが、今回はどこか表情が寂しそうに見えた。
「私のこと…忘れないでね?」
「また死亡フラグみたいなの建てるなよ…」
目黒は目もきゅーっと閉じながら、にっこり笑みを浮かべていた。
なんだよその表情は…うっかり惚れてしまうだろ。
そんな彼女の姿に、簡単にドキドキさせられてしまうのが俺だった…。
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