31話.児童養護施設
電車で2時間半、バスで30分かけてやっと目的地の児童養護施設にたどり着いた。
バスの中で途中眠りそうになったぜ…。危ない危ない。
今日は天気が曇り空だったから、涼しくてよかったことだけが幸い。
「やっと着いた…」
俺がそう言うと、横にいた目黒もコクリと頷いていた。
目黒は珍しく後ろ髪を一つに結んでいた。初めて見る髪型だな。ちょっと目黒のうなじの部分も見えてドキッとするが。
彼女は七分丈のデニムパンツに半袖の白のTシャツを着ていた。夏らしさを感じる。
「トイレとか大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
「とりあえず、中に入ってみるか」
今日は施設の夏祭りだからか、入口の門は開いていた。
インターホンを押さずにそのまま敷地内に入ると、駆けっこしている子どもたちと俺は目が合った。
「あっ!スグルだ!」
「お前…呼び捨てかよ」
俺のことを呼び捨てで読んできたのは、施設で暮らしている守という男の子だ。今年で小学5年生か。
前から俺が施設に遊びに行ったときに守と会ってるから、お互い顔なじみではある。
「なんで来たの!?暇なの!?」
「一応招待されたから見に来たんだよ」
すると、守の表情が固まった。あんなにさっきまではしゃいでいたのに。
守の目線は…俺の隣にいる目黒に向けられていた。
「す、スグルが彼女連れてきてる!?」
「えっ、いや、彼女では…」
「みんなに言いふらしてこよーっと!!」
「ちょっ!おまっ、待ってくれ!」
俺の呼び止めも虚しく、守は子どもたちが集まっている方に走って行った。
ああ…そこの集団の中にも顔見知りが何人かいるよ…。絶対あとで冷やかされる…。
「行ってしまった…」
「元気だったね」
目黒は俺の彼女と誤解されたのにも関わらず、いつもと変わらないクールな表情をしていた。
こいつ…嫌じゃないのか?あっ、子ども相手だから大目に見てあげてるんだろうな。
「とりあえず、受け付けでパンフレット貰ったから…。どこ行きたい?」
「スグル。カレーが食べたい」
「食欲旺盛だな」
俺と目黒は一緒に施設の建物の中に入った。
あー…毎年来てるけど、なんかここに来ると懐かしい気持ちになるな。この施設で過ごした時間はたった数年だけど、記憶の中に深く印象に残っていた。
お祭りとあって食べ物屋があったり、輪投げなどのミニゲームをするコーナーもあった。
ここで生活している子どもたちや近隣の住民が参加していて、とてもいい雰囲気だった。
「あ、竹森先生」
廊下を歩いていると、俺がお世話になった女性の職員の先生がいた。あの頃はイタズラとかしてよく怒られたけど、温かい先生だったな…。
もう50代くらいだろうか。昨年会ったときよりも白髪が増えたなぁ。
「あら、スグル君来てくれたのね。元気にしてた?」
「はい。なんとか高校もちゃんと通えてます」
「あのイタズラっ子のスグル君ももう高校2年生なんて、成長するのは早いわね〜」
「そ、そうですかね」
「えーっと、隣にいる方は…」
竹森先生も俺の横にいる目黒の存在が気になるようだ。
「あ、えと…彼女は…」
同じ寮に住んでいる、同級生の目黒です…と、俺は紹介するはずだった。
だが、それはできなかった。
竹森先生はいきなり、何かを発見したかのように目を大きく見開いた。
そして、目黒の前に行き、目黒の両手を握って…。
「も、もしかして…葵ちゃん!?」
「えっ?」
いったい何が起きているのか…。
俺は状況が全く理解できていない。
竹森先生が目黒のこと葵ちゃんって呼んだ…?
確かに、目黒の下の名前は葵だ。
なんで竹森先生は目黒のことを知っているんだ?
もしかして、竹森先生が人違いしてるだけじゃ…。
しかし、目黒の反応を見たとき、それはないことを俺は悟った。
「…はい、先生」
目黒も竹森先生のことを、『先生』と呼んでいたのだ…。
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