28話.非モテの陰キャ
夏休みが終わるまであと1週間。
ああ…終わってほしくない。休みが終わる前になってくると憂鬱になってくる。
夏休みの宿題もまだ全部終わってないし。時を戻したい…。
「ただいまーっす!」
すると、夏休みの間に帰省していた組が寮に戻ってきた。
相変わらず秋元の声はデカいな。
俺が陰だとしたら、秋元は陽。
その元気の1割でも分けてほしいぜ。
「先輩私がいなくて寂しかったっすか?寂しかったっすよねー?」
「いや、まったく」
リビングでゴロゴロしている俺と目黒の前で、秋元はカバンから何か取り出した。
「ちゃんとお土産持ってきたっすよー。はい」
「奈良漬って…渋いの選ぶな」
奈良漬ってあれか?確かアルコール入ってるよな。
これをもし目黒が食べて酔っ払ったとしたら…
『スグル…体が熱くなってきた』『スグル好き…』
みたいな展開も…あるわけないな。
ていうか、俺の妄想気持ち悪すぎるわ。
「俺もお土産あるぞ」
「片桐先輩」
片桐先輩もちょうどリビングに入ってきた。
久しぶりに片桐先輩の声を聞いたぜ…。無駄に俺は感動を覚えた。
「幸運を呼ぶといわれる置き物だ。玄関に置いておくといいだろう」
片桐先輩はよくお土産屋にある、タヌキの置き物は俺に渡してきた。
まぁ、手で持てるサイズだけど…。俺の想像していたお土産とは違うぜ…。
「あ、は、はい…。ありがとうございます」
「スグルが微妙な顔してる」
すかさず、目黒のツッコミが入る。
おまっ、せっかくお土産持ってきてくれた片桐先輩の前でそんなこと言うなよ…。
「片桐先輩…これはないっすわー」
だが、秋元もこのお土産にはセンス無いと感じていたらしい。
女子二人の低批評に、片桐先輩は項垂れていた。
自分が選んだお土産をディスられると確かに傷付くよな…。俺はこのタヌキの置き物を大事にしよう。そうしよう。
「そういや、冨田先輩の姿が見えないですね」
いつもならこういう場面のときに会話に参加してくる冨田先輩の姿がなかった。
冨田先輩は昨日の夕方に寮に戻ってきていたから、今は自室にでもいるのだろうか?
「ああ。冨田なら彼氏の家にお土産渡しに行ってるはず」
片桐先輩がすごい一言を言った。
えっ…彼氏?かれし?枯れ死?
片桐先輩の言っていることが最初はよく理解できなかった。
落ち着け、頭をクールにしろ。
つまり、あれだ…。冨田先輩はリア充だったんだ…。
「てっきり片桐先輩と付き合ってると思ってたっすけど…あ、振られんたんすね!」
「真実は時に残酷」
秋元と目黒はわいわい盛り上がっていた。
この二人…なかなかに酷いな。
でも、俺も冨田先輩は片桐先輩と付き合っていると思っていたから、正直意外だ。
「お前たち…勝手に話を作りすぎだ。そもそも、俺は今彼女を作る気はない」
片桐先輩は眼鏡の鼻あてを押さえていた。
今は彼女を作る気はないって…圧倒的強者感の発言だ。
まるで俺は本気を出したらいつでも彼女ができると。確かに片桐先輩は眼鏡イケメンだし、頭もいいしモテそうだ。
非モテの人生の俺とは正反対の人生を送ってそう。
なんかこの寮にいるメンバーってみんなモテそうだよな…。あれ?勝手に目から汗が出そうに…。
「冨田先輩に彼氏か…」
「なんか先輩落ち込んでないっすか?」
「お、落ち込んでねーし」
秋元は「ほんとっすかー?」と言って、更にからかってくる。
まぁ…俺も高1の頃初めてこの寮に来たときに、冨田先輩の姿を見たときは惹かれそうになったけど。
冨田先輩は誰に対しても平等に接してくるから、陰キャの非モテの俺は勘違いしそうになるのである。今はまったく無いけどな。
「ねぇ、スグル」
「ん?」
いきなり目黒が俺の腕を引っ張ってきた。
あれ?なんか…すごい不安そうな表情をしていないか?
「スグルって冨田先輩のことが好きなの?」
「え、いや…先輩としては好きだが、そういう恋愛感情はまったく無いけども…」
「そうなんだ」
俺の見間違いだろうか…。
さっきまで不安そうな顔をしていた目黒。
俺が冨田先輩に対して恋愛感情が無いと答えると、どこか嬉しそうな顔をして…。
「…よかった」
その目黒の小さな声が聞こえた。
よかったって…今のやり取りでそんなことを言われたら絶対に勘違いするだろ。
「お、お前は好きな人とかいないのかよ」
「……」
「なんで俺の顔をじーっと見る…」
「教えてほしい?」
「えっ」
「やっぱり教えない」
「なんだよ…もったいぶりやがって」
俺のことをからかいながら微笑んでいる目黒。
横にいた片桐先輩と秋元はびっくりした顔をしていた。
まぁ…そうだよな。目黒の笑ってる顔を二人は見るの初めてだよな…。
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