22話.居残り
一学期も終わり、夏休みに入った。
寮のメンバーは夏休みになると、だいたいは実家に帰省する。
今年も俺は寮のメンバーを見送る係をやっていた。
「じゃあ、初川。あとは頼んだぞ」
「へい」
俺は玄関で大きなカバンを持った片桐先輩を見送った。
「先輩!お土産は期待しないでくださいね!」
「へいへい」
俺は玄関でリュックサックを背負った秋元を見送った。
「おじゃま虫がいなくなるから、目黒ちゃんと二人きりになれるね〜?」
「いや…あいつも帰ると思いますよ」
俺は玄関でキャリーケースを引く冨田先輩を見送った。なんか冨田先輩にからかわれたけど、気にしない。
「また今年も一人か…」
そんなことを呟きながら俺はリビングに戻ると、キッチンの換気扇のところでタバコを吸っている盛田さんと目が合った。
「あんたは帰んなくていいのかい?」
「いやぁ…帰りづらいですし」
「まぁ、たまには顔見せてやりなよ。元気だってわかるだけで嬉しいもんよ」
「そういうもんすかね…」
長い休みの日に実家に帰る選択肢。自分にとってそれを使うのは心境的に難しかった。
親戚の家に顔だけ見せるのもな…。
重い足取りでとぼとぼと自室に戻ろうとすると、部屋の前の廊下で…俺は出くわしてしまった。
「えっ」
「なに?」
目黒が普通に寮の中にいた…。
全然帰省するような雰囲気は全く見えない。
俺が目黒を発見して変な声が出てしまったせいか、目黒は首を傾げていた。
「スグルの反応が変」
「いや…思わずビックリしてな。お前は夏休みの期間に実家に戻らないのか?」
「戻らないよ」
目黒は即答だった。
そして、次に彼女の口から出てくる言葉が衝撃的であった…。
「だって、実家はないから」
「お、おお。なんか…すまん」
実家はないってことは、そういうことなんだろうな…。
目黒もきっと複雑な家庭環境なんだろうと、俺は勝手に察した。
「スグルは帰らないの?」
「まぁ、俺も帰る家は無いというか…。小さい頃に両親亡くしてから、親戚の家を転々としてたから」
「そうなんだ」
「無駄に暗くなるような話して悪かったな」
「ううん」
すると、目黒は柔らかい表情になっているようにも見えた。俺の錯覚か。
「スグルのこと知れて嬉しい」
またこいつは期待させるような一言を…。
俺は無駄に心拍数が上がっていただろう。
「そういえば、目黒ってここに来る前は、どこにいたんだ?」
「秋田」
「秋田かー。秋田!?」
「ビックリしすぎ」
「いや、だって…そんな遠くにいたとは予想できないだろ」
うちの寮や学校のある東京に来る前は、目黒は秋田にいたとか驚きだ。
もしかして、秋田美人というものなのだろうか。目黒が色白で美少女なのも納得できる。
「生まれも秋田なのか?」
「ううん」
「えっ、じゃあ、生まれは…」
「スグル」
そこで目黒は一歩俺に距離を縮めてきた。
目の前に目黒の顔がある…。な、何をするつもりだ、
「め、目黒?」
「教えない」
「は?」
「秘密」
イタズラっぽい笑顔を浮かべる目黒。
そんな顔されたら…これ以上何も聞けないだろ。
目黒はそのまま自室の中に入っていった。
この夏休みの期間、寮には俺と目黒しかいない…。なんだろう、変に緊張してきた。
「あれ…?あいつの笑顔を初めて見たような…」
ふと目黒の顔を思い出す。あの笑顔は幻だったのだろうか…。
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