23話.コミケ
「初川殿ー!コミケに行くでござるよー!」
寮の中で夏休みを満喫していたら、クラスメイトの吉田が押しかけてきた。
吉田は真夏なのにまだ長髪だった。見るからに暑そうだな。
「ええ…こんな外暑いのに」
「そう言わずについてきて欲しいでござる。拙者の夏の一大イベントでござるよ!」
「高2の夏の一大イベントがそれでいいのか」
「コミケ?」
寮の玄関で俺と吉田が喋っているところに、目黒もやってきた。
目黒はコミケという単語に興味津々の様子だ。
このパターンは…まずい気がする。
「おお!目黒殿も一緒にどうでござるか!?」
「目黒やめとけ。お前が行ってもたぶん面白くはないと…」
「うん。行く」
「目黒!?」
目黒は一つ返事で行くことに了承してしまった。
目黒が行くなら…俺もついて行かないとまずいよな。
国際展示場駅に到着。
国際展示場駅に向かう電車の中も混んでいたが、降りてみるとさらに人がゴチャゴチャいてすごかった。
「ついに戦場に降り立ちましたな!!」
吉田は目をキラキラと輝かせていた。
鼻息も荒くしてるし、なんかすごい興奮状態だな。
「戦場ってなんだよ。ていうか、すごい人だな…」
「…スグル、待って」
「あ、悪い…」
遅れて後ろから目黒がやってきた。
吉田が先に先に行くもんだから、目黒の歩くペースを考えてなかったな。
それにしても、目黒の服装が…眩しい。白のノースリーブのワンピースか…。肩口から出る色白の細い腕が魅力的すぎる。
「…今日の目黒殿の格好、『萌猫ラバーズ』に出てくる白雪様みたいですな」
吉田がヒソヒソ声で俺に耳打ちしてくる。
『萌猫ラバーズ』は今季の夏アニメの作品だ。ネットの感想でも好評で人気らしいが…俺は見ていなかったので、白雪様に目黒が似てると言われてもピンとこなかった。
「いや…俺そんな夏アニメ見てないからわかんねーよ」
「初川殿!?あのアニメへの情熱はどこへいったでござるか!?」
「スグル、お腹空いた」
「コンビニでおにぎりでも買うか?」
「うん」
俺と目黒は吉田を置いて、駅の近くのコンビニに入った。
「二人ともそんな悠長にしていたらコミケが終わってしまうでござるよ!!」
吉田はなんか必死に叫んでるが…まぁ放っておいてもいいだろう。
その後、なんとか3人で会場の中に入れたのだが…うわ、すごい熱気だな。立っているだけでも汗が吹き出しそうだ。
「おい、吉田。どっから回るんだよ」
俺が吉田に声を掛けると、吉田は眼鏡の鼻あてに指を添えていた。なんだこいつ、無駄に格好つけてるぞ。
「人気のサークルはこの時間だともう完売しているはず…拙者が狙うのはそういうサークルよりもこれから伸びるであろう新人さんや拙者の好みの展開や絵を書いているサークル様を狙っていきたいでござる」
「お、おう。急に早口になったな」
「というわけで、拙者は急いで回らなくちゃいけないので、しばらくしたらまた会おうでござるよ〜!」
吉田の姿が一瞬で消えた。恐ろしいほどのステルス能力だ。おそらく、前もってどこのサークルに寄るか決めてあったんだろうな。
でもそれにしたって、コミケ初体験の俺と目黒を置いていくかね。あいつから誘ってきたのに…。
「ここで置いてけぼりかよ…」
「……」
目黒の方を見ると、目黒は一点をボーッとして見つめているだけだった。
あれ?これって熱中症とかじゃないよな?
「め、目黒、大丈夫か?」
「うん。けっこう暑いだけ」
「熱中症で搬送される人もいるからな。これ飲んで、これ首に巻いとけよ」
俺は目黒に凍らせてあった麦茶のペットボトルと、首を冷やしてくれるネッククーラーを渡した。
まぁ、さっきのコンビニで買ったやつだけども。
「準備いいね」
「そりゃ、お前に倒れられたら俺が心配するからな…あっ」
「え?」
やばい、ちょっと失言したかもしれない。
なんか目黒のことすごい気になってる奴、みたいな意味に捉えられてしまいそうだ…。
「スグル今なんて言ったの?」
「い、いや、なんも言ってねーよ。ほらっ、俺たちも回るぞ」
俺は誤魔化すようにして先に進んだ。
目黒は…俺のカバンの紐みたいなところで掴んでくる。まぁこれならはぐれないんだろうけど…周りの人の『いちゃついてんじゃねーよ』っていう視線が怖い。
「あれ?ここさっき来たような…」
「スグル、こっち行く?」
なんかぐるぐると同じところを回ってるみたいだった。人の列がすごいから流れに身を任せると自分がどこにいるか迷いそうだな…。
目黒の指差した方向に俺たちは進むと…そこはあれだった。
「けっこうここも人が多いな…んんっ!?」
ここはまさか…18禁の同人誌を売っているエリアじゃないか!?
ま、まずいぞ…。そもそも俺と目黒はまだ高校生だし、何よりも目黒と微妙な空気になりそうな気がする…!
「や、やっぱ外に出ようぜ!」
「外?」
俺は無理やり目黒の手を取って外に出た。
ふぅ…危なかった。目黒に変態とか言われるところだったぜ。
でも、いきなり外に出てしまったからな…。結局、コミケに来たのに何も買わずに終わりそうだ。
「あ、あの」
「はい?」
急に俺は知らない人に話しかけられた。40代くらいの男性か。
その男の人の視線は目黒に集まっていた。なんだなんだ?なんかの勧誘か?
「も、もしかして、『萌猫ラバーズ』の白雪様のコスですか!?」
目黒はコスプレをしているレイヤーさんと間違われたらしい。
いや、なぜ。普通に白のワンピース着てるだけじゃん。
もしかして、目黒の顔の顔面偏差値が高すぎるから、お客さんじゃなくてレイヤーさんと間違われたのか…。
「いや、彼女は普通の格好をしてるだけで…」
俺が説明している間に、ぞろぞろと周りに人が集まってくる。
「白雪様がいるぞー!」「写真撮ってもいいですか!?」
え、何だこの状況…。ここは撮影スペースでもないのに。目黒も何が起きているのかわかっていない様子だった。
「彼氏さん…あの」
「えっ、い、いや、俺は彼氏では」
俺は目黒の彼氏に見られているのか…。悪い気はしないな。
だが、ハッキリと断らなくてはいけないときもある。
よくも知らない人たちに目黒の写真を撮られるのは嫌だった。
「俺たちレイヤーではないので、お引き取りを…」
「あとは猫耳を付けるだけで彼女のコスは完璧なんですけど…ちょうど私は物販で買った猫耳を持っているのですが」
「やりましょう」
俺はなぜか承諾してしまった。
だって…目黒の猫耳姿を見たかったから。
「…スグル?」
目黒に猫耳を渡すと、目黒はなんかちょっと怒ってるような雰囲気を出していた。
おお…殺気を感じるぜ。
「おおーーーー!!」
「手もにゃんにゃんの形でお願いします!」
無表情の顔のまま猫耳を付けた目黒。
周りからは歓声があがる。
やばいやばい…目黒の猫耳姿の破壊力がやばい。
俺はコミケに来てよかった。目黒の写真を撮ってくれた人からも、後で俺にデータを送ってくれたし。
猫耳姿の目黒…スマホの待ち受けにしようかな…。
「スグル…あとで覚えててね」
「え」
目黒の意味深な一言が恐怖だった…。
最後まで読んでいただきありがとうございます!




