第二章 チェッカーボーン修道院 ㈥
チェッカーボーンからモーリーパークまでの列車移動で、途中で列車が止まるという出来事があったものの、二人は無事にベルンデン中央駅にたどり着いた。
モーリーパークでの乗り換えの待ち時間に、レイヴンがマークに電話をしておいたおかげで、ガス灯の灯り始めた中央駅で待つことなく迎えはやってきた。
二人はマークの自動車がエンジンを吹かしながら、表玄関の脇に駐車しているのを見つけると、歩みながら今日のことを振り返った。
「何か収穫はあったか?」
態度の煮え切らないカナレン司祭に寄付金を渡したところで、無駄だということは考えたが、あの場ではそれが最善の行いで、もしもという期待もあったが、求めたい情報はなかった。
「そうだね。あの司祭は、なかなかの食わせ物だよ。君のことも、あいつは気持ち悪い目線を向けていたしね。禁書の知識も僕以上のものを持ち合わせていないだろう」
レイヴンは司祭のなめつけるような視線を思い出して身震いした。あれは、蛇が獲物を見定めたようなしつこさを感じさせた。
禁書のことについても思ったような情報は得ることができなかった。何を言っても教会の秘密の一点張りで、あの場所まで行った時間が無駄になったような気さえある。
「でも、あのシスター・リリアについてはいろいろと知りたいことができたんだよね」
友人のそっけない一言に、レイヴンは目を丸くした。
「おいおい。よしてくれよ。相手は修道女だ。確かにかわいらしい方だったが、そんな目で見るもんじゃない」
モーリスもいい歳をした青年だ。歴史書ばかりではなく、異性に興味があることは悪いことではない。だが、修道女に懸想をするなど、後々問題になる。
「何言ってるんだい。レイヴン。彼女をそんな風に見たわけじゃないよ」
「そうか。悪かった」
「まったく、このことはアリシア王女に報告してもいいんだよ」
「いや、やめてくれ」
レイヴンは顔を手で覆い、謝った。
飛んだ早とちりだった。友人が最も興味をそそられるのは歴史書しかないという事実を軽視していた。
「うん。禁書という言葉や、管理局という言葉をだすと、あのシスターは視線が変わったんだよ。あと、騎馬民族のくだりの時には、明らかにシスターは口をはさみたそうにしていたよ。どうやら、僕らは相手をする人物を間違えたみたいだね。彼女と話をすればもっといい収穫があったかもよ」
友人の視点はいつも鋭いところをついてくる。確かに、後ろに控えて司祭の付き人のように見えたが、最後のモーリスとのたわいのないやり取りで、彼女が理知的な女性である雰囲気を感じた。
「何かあれば、連絡することもできるから安心しろ。それよりも、今日はもう遅いから送っていくぞ」
エンジンの唸りで声を張り上げるレイヴンに、モーリスは首を横に振る。
「大丈夫だよ。今日は、途中で本屋に寄ろうと思ってるんだ。新しい歴史書が手に入ったってバーンズさんから連絡が来てね。よかったら、君もどうだい?」
モーリスの嬉しそうな表情に、一瞬頷きかけたレイヴンだが、その誘いは断らなければいけなかった。
「残念だがな。議会が開かれるらしいんだ。その準備をしないといけない」
「そうか。残念だね。じゃあ、しばらくは禁書の件も延期だね」
「そうなるかな。まあ、君さえよければ調べを進めてもらっても構わないが」
「じゃあ、必要な資料は買っておくよ。支払いは任せる」
自信満々な表情で答える友人に、レイヴンは一言釘を刺した。
「駄目だ。私の手が空くまではこの件は保留で頼む」
残念そうにうなずいた友人は、均等に並んだガス灯の灯る大通りを、東に向かって歩いていった。
しばらく、その姿を見送ると、自動車に乗り込み家路についた。




