↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《完結》婚約解消? もともと嘘から始まった婚約ですものね  作者: ヴァンドール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/38

36話(披露宴)

 到着した王宮は、華やかな祝いの雰囲気に包まれていた。

 大理石の階段には赤い絨毯が敷かれ、無数の明かりが煌めいている。


 ゆっくりと会場の扉が開かれた、その瞬間。

 私たち二人は大きな拍手に包まれた。


「おめでとうございます!」


「末永くお幸せに!」


 祝福の声があちらこちらから響く。

 会場には、この国の王族をはじめ、多くの高位貴族が集っていた。

 そして、その中には見慣れた顔もある。


 隣国の王太子殿下。

 アルヴェール侯爵家ご一家。

 劇団を支えてくれた人々まで、この日のために駆けつけてくれていた。


 私はリリアンと共に、一人一人へ丁寧に感謝の言葉を交わしていった。


 その途中、私の実家である、ボーフォール子爵家の家族の姿が目に入った。


「父上、母上、兄上。本日はありがとうございます」


「おめでとう、アーサー」


 父は少し照れくさそうに笑った。 


「まさか、あの時の約束を今でも覚えているとは思わなかったな」


 その言葉に、私も笑みを浮かべる。


「『首席を取ったら髪飾りを買ってやる』。あの約束は、今でもよく覚えています」


「あれほど必死に勉強するとは、私も思わなかったがな」


 父は少し誇らしそうに頷いてから、リリアンが身につけている髪飾りを懐かしそうに見つめ、微笑んでいた。


 母はリリアンの手を両手でそっと握った。


「その髪飾り、とっても似合っているわ。こんな素敵な娘ができて、本当に嬉しい。今日から本当の家族ね」


「はい、お義母様」


 リリアンは嬉しそうに微笑むと、そっとアーサーの耳元へ顔を寄せ、得意げに囁いた。


「ね、この髪飾りを選んでよかったでしょう?」


 その言葉に、私は思わず笑みを浮かべた。


「ああ。とてもよく似合っているよ」


 母はリリアンの髪飾りを見つめ、目を潤ませた。


 兄は私の肩を軽く叩く。


「幸せになれ。ようやく願いが叶ったな」


「兄上……色々とお世話になりました」


 思わず苦笑すると、兄上も声を上げて笑った。


「役に立てたようで嬉しいよ」


 やがて隣国の王太子殿下の前までくると、殿下は満面の笑みを浮かべた。


「アーサー。改めて、おめでとう」


「ありがとうございます、殿下」


 リリアンも優雅に一礼する。


「本日は遠路はるばるお越しくださり、ありがとうございます」


「こちらこそ。この日を楽しみにしていたのだよ。リリアン嬢、本当にお美しい」


 そう笑った後、殿下は軽く咳払いをした。


「実はな」


「はい」


「私も、いよいよ年貢の納め時だ」


 私は驚き、目を見開いた。


「まさか」


「婚姻が決まった」


「本当ですか?」


 思わず声が裏返った。


「あれほど拒んでおられたのに……驚きました。それで、お相手は?」


 殿下はさらりと答える。


「シュバリエ王国の第一王女だ」


「同じ大国ではありませんか」 


「まあな」


 そう言って肩をすくめられた。


「この婚姻は、父上がお決めになったものだ。私も王太子である以上、受け入れなくてはならない」


「そうだったのですね……」


「それに、裏では少々厄介なこともあってな」


「厄介なこと?」


「その話は、また今度だ。今日は祝いの席なのだからな」


 そう言って、殿下は笑った。


(……そういうことか)


 私はその立場を察した。

 自分の意思だけでは決められない、王族としての務め。それは国のための婚姻。


(ならせめて、殿下がその方を心から愛せますように)


 そう願わずにはいられなかった。

 あのお方はああ見えて、責任感がとても強

い。

 決して弱音など吐かないだろう。

 だが、その穏やかな表情の裏に、どれほどの諦めを隠しているのだろうか。


(仕方のないこととはいえ……切ないな)


 誰にも見せないであろうその覚悟を思うと、胸が締め付けられるようだった。


 自分は違う。

 幼い頃から想い続けた人とこうして結ばれた。

 隣国で遠回りをし、彼女を忘れようとしながらも、その想いは最後に届いた。

 貴族社会では、それは奇跡のような幸運だったのかもしれない。

 そんなことを思っていると、不意に隣でリリアンの手が僅かに触れた。

 私はその手をそっと握り返し、伝わる温もりに、安心感を覚える。

 ずっと求めていた愛おしい温もりが、確かにここにある。

 もう二度と、この手を離すことはない。


 王太子殿下の笑顔に見送られながら私は思った。


(どうかその笑顔が、いつか心の底からのものへとなりますように)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。