34話(驚きの提案)
親善役へ任命されてから数日後。
アーサーは再び王宮へ呼び出されていた。
(何か追加の仕事だろうか)
そんなことを考えながら謁見の間へと入った。
玉座には国王が座り、その傍らには王太子が立っていた。
王太子は何故か楽しそうに笑っている。
その表情を見た瞬間、アーサーは嫌な予感がした。
「アーサー」
「はっ」
国王は穏やかに口を開く。
「親善役の件、引き受けてくれたそうだな」
「ありがたく、お受けいたします」
「うむ」
満足そうに頷いた後、王太子が一通の手紙を取り出した。
「実はな、お前に関係する手紙が届いた」
「私に、ですか」
「正確には私宛だが、差出人は隣国の王太子だ」
アーサーは目を瞬かせた。
王太子は笑みを浮かべながら読み上げる。
『アーサー殿のご結婚を心より祝福いたします。もし許されるのであれば、ぜひ結婚披露宴へ参列し、二人の門出を直接お祝いしたく存じます』
読み終えた王太子は肩をすくめた。
「全く、律儀なお方だな。長年、側近として仕えてくれたアーサーの結婚まで、こうして祝ってくださるとは」
国王も同意するように笑う。
「親善舞踏会で親しくなって以来、こうして時折、個人的な手紙をくださるのだ」
(あのお方の外交はいつもこうだ。こうして各国との縁を広げてこられたのだ。相変わらず、まめで賢いお方だ)
アーサーは思わず苦笑した。
「あの方らしいですね」
すると王太子が身を乗り出す。
「そこで提案だ」
(嫌な予感しかしない)
「結婚式は伯爵領で執り行うのであろう?」
「はい」
「ならば、その後の披露宴は王宮で開こう」
アーサーは固まった。
(やはり……そうくるか)
「……王宮で、ですか」
「隣国の王太子をお迎えする以上、それ相応の場を用意するのが礼儀でもある」
国王がにこやかに続ける。
「お前は両国を結ぶ親善役だ。お前たち二人の門出を、国として祝いたい。それに何より警備の問題もあるだろう?」
王太子は満足そうに腕を組む。
「王宮なら、その辺の手配はいつものことだ。心配はいらん」
「殿下」
「何だ」
「最初から、そのおつもりだったのではありませんか? 確かに、伯爵領だけでは隣国の王太子殿下の警備は難しいでしょうから」
王太子は吹き出した。
「ははは!」
「否定はしないのですね」
「ならば、それ以外の選択肢があるというのか?」
国王まで笑い出す。
「ははは。確かにこれでは断ることはできんな」
アーサーは深く息を吐いた。
隣国でも振り回され、帰国してからも王太子には敵わない。
それでも、不思議と嫌な気はしなかった。
「光栄に存じます」
こうして、結婚式はアッシュフォード伯爵領で。
そして、結婚披露宴は王宮で開かれることが正式に決まったのだった。
(この話を聞いたら、リリアンも義両親も、さぞ驚くだろうな。まさか王宮で披露宴を開くことになるなんて、私自身もまだ信じられない)




