33話(宿命)
こうして、全てに決着がついた。
後日、ヴァロア侯爵からアッシュフォード伯爵家へ一通の手紙が届けられる。
そこには、深い謝罪の言葉が綴られていた。
『重ね重ねの不始末、何とお詫び申し上げればよいか、合わせる顔もございません。息子の愚かな行いに気づけなかったこと、親として、ただただ恥じるばかりでございます。
このような息子に育ててしまったのは、私どもの育て方が間違っていたのだと思っております。
この度のこと、親として心よりお詫び申し上げます』
その誠意ある謝罪を受け、伯爵も静かに手紙を収めた。
本来なら、ギルバートを勘当すべきだと口にしてもおかしくはなかった。
一度はヴァロア侯爵自身が勘当を言い渡しながら、ディアナの父の働きかけによって、その処分が覆された経緯もある。
それでも、今回はそのことを求めようとは思わなかった。
あれほど厳格な男が、息子の愚かな行いを恥じ、ここまで真摯に頭を下げている。
同じ親として、その胸中は少なからず理解できたからだ。
何より、こちらはもう前を向いて歩き出している。
だから、この謝罪で、十分だった。
そして、あれほど王都を騒がせていたディアナの噂も、いつしか時と共に聞かれなくなっていった。
二人は実質的に社交界から遠ざけられたようだった。
それ以降、二人がリリアンの前へ姿を現すことはなかった。
しかし、それとは別に驚くべきことがあった。
帰国してしばらく経った頃。
アーサーへ思いも寄らない知らせが届く。
「王宮よりお呼びです」
使者の言葉に首を傾げながら王宮へ向かったアーサーは、国王から直々に告げられた。
「是非、我が国と隣国との親善役を務めてほしい」
その言葉を聞いた瞬間、アーサーは思わず額に手を当てた。
「これは間違いなく、王太子殿下の策略だ」
その日、事の経緯を聞いたリリアンは、くすりと楽しそうに笑う。
「アーサー様なら、領地経営と両立できますわ」
その笑顔を見て、アーサーも苦笑した。
「そうかもしれませんね」
少し窓の外へ目をやる。
ギルバートの嘘が明らかになった時は、激しい怒りしかなかった。
あれほど長い年月、騙されていたのだから当然だ。
だが、こうして振り返ってみれば、隣国で過ごした日々は決して無駄ではなかった。
王太子殿下の側近として多くを学び、アルヴェール侯爵家をはじめ、有力貴族との縁も得られた。
劇団員たちとの出会いもあった。
その全てが、自分を成長させてくれたのだ。
「考えてみれば……」
アーサーは穏やかに微笑んだ。
「これが私の定めだったのかもしれません」
そして隣に座るリリアンを愛おしそうに見つめた。
「何より、こうして君と一緒になれた」
リリアンも照れくさそうに見つめ返す。
「私も同じ気持ちです。これが、私たちの宿命だったのかもしれませんね」
二人の手が、自然と重なった。
これまで築いてきた縁も、隣国で学んだ知識も、いずれ伯爵領を支える力になる。
きっと、この先の未来で必ず役立つはずだ。
「だからといって、ギルバートを許すつもりはありませんが」
その一言に、リリアンは思わず吹き出した。
「ふふっ」
「そこ、笑うところですか?」
「だって、アーサー様らしくて」
二人は顔を見合わせる。
長い遠回りをしてしまった。だけどこうして再び巡り会えた。
幾つもの誤解があったが、今は分かりあうことができた。
そんな奇跡みたいな再会を二人は、宿命だと言って受け入れた。
そう、運命ではなく宿命と。
「だって、運命は変えられても、宿命は変えられないものですから」
そう言って二人は笑顔で見つめ合う。
その笑顔は、この先もきっと変わることはないだろう。




