↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《完結》婚約解消? もともと嘘から始まった婚約ですものね  作者: ヴァンドール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/38

18話(覚悟)

 数日後。


 ディアナに冷たくあしらわれ続けたギルバートは、ついに決心を固めた。


(もう直接話すしかない。僕にはリリアンがいるんだ。アーサーに先を越されるわけにはいかない)


 そのためにはまず、ディアナとの関係をはっきりさせねばならなかった。

 身勝手な理屈を掲げ、先触れすら出さずにローゼンベルク侯爵邸を訪ねる。


 取次をしようとする使用人を「僕は彼女の婚約者だぞ」と押し切り、勝手にあがり込んだ。

 応接室へ向かう途中、廊下の奥から楽しげな話し声が聞こえてくる。

 ギルバートは思わず、足を止めた。


「代表、その件でしたら、既に日程を詰めております」


「はい。向こうでの上演が実現すれば、劇団員も喜ぶでしょう」


 その声に、ギルバートは目を見開いた。


「……アーサー?」


 ガラス窓のついた扉の向こうには、ディアナとアーサー、そして見知らぬ男が席についていた。

 三人はテーブルに書類を広げ、何やら真剣に話し込んでいる。

 ディアナは隣のアーサーに親しげに寄り添い、甘えるような顔を向けていた。

 その光景を見た瞬間、ギルバートの中で何かがプツリと切れた。


「やっぱりそういうことだったのか!」 


 勢いよく扉を開け放った瞬間、部屋の空気が一変した。

 ディアナが驚いたように振り返る。 


「ギルバート様?」 


「やっぱり、アーサーに乗り換えるつもりなんだな!」


 怒鳴り声が応接室に響く。

 アーサーは静かに立ち上がったが、何も言わない。

 ディアナは呆れたように息を吐く。


「何を仰っているの?」


「だって!」


「わたくしは最初から、あなたと一緒になりたいわけではありませんわ」


 その言葉に、ギルバートは息を呑んだ。

 ディアナはわざとアーサーにぴたりと身体をつける。


「それに」


 口元へ笑みを浮かべた。


「こちらは、いつでも婚約解消して差し上げても構いませんのよ」


「なっ……」


 ギルバートの顔が青ざめる。

 数日前まで自分を持ち上げていた彼女とは別人だった。


「だったら!」


 悔しさに拳を震わせながら叫ぶ。 


「僕だって、もうあなたとはやっていけない!」


 声を荒げたまま続けた。


「やっぱり僕はリリアンがいい! 婚約は解消で構わない」


 ディアナが眉をひそめ、アーサーは怒りで顔を歪める。


「リリアンなら必ず、僕を受け入れてくれる! 彼女に会って謝る! そして、もう一度やり直す!」 


 そう言い捨てると、ギルバートは踵を返した。

 その背中を見つめていたアーサーの表情から、穏やかさが消える。


「待て!」


 低く、鋭い声だった。

 ギルバートが振り返る。


「何だ」


 次の瞬間だった。


「これ以上、リリアンを馬鹿にするな!」


 今まで抑えていた怒りが、一気に溢れ出した。

 応接室が静まり返る。


「自分で捨てた相手のもとへ、都合が悪くなったら戻れるなんて二度と考えるな!」


 アーサーはギルバートへ近づいた。


「これ以上、彼女を傷つけさせない」


 その瞳には、必ず彼女を守り抜くという揺るぎない覚悟があった。

 ギルバートは思わず後ずさる。


 目の前にいるのは、幼い頃の記憶にある穏やかな少年ではない。

 一度は手放してしまった後悔を抱え、今度こそ大切な人を守るためなら、すべてを懸けて戦うと決めた一人の男の姿がそこにはあった。


 その様子を見つめていたディアナは、ただ立ち尽くしていた。

 あまりにも激しい怒り。

 今まで見たことのないアーサーの姿に、驚きのあまり口を挟むことさえできない。


(まさか……アーサー様は、今でもリリアンを想っているというの?)


 胸の奥に、リリアンに対する嫉妬の炎が再び生まれた。

 それでも彼女は、その現実から目を背けるように、首を振る。


(そんな……そんなはずないわ)


 アーサー様は、わたくしにあれほど優しくしてくださった。

 わたくしを気にかけ、何度も声をかけてくださった。


(あれがすべて、リリアンへの想いを隠すためだったなんて……)


 そんなこと、認められるはずがない。

 それでも、先ほどの光景が頭から離れず、何度もよみがえる。


 あれほど怒るなんて……やはりリリアンを特別に想っているということなの?

 ディアナは、どうしても認めたくはなかった。


(いいえ、違うわ。きっと何か理由があるのよ)


 だって、わたくしにヤキモチまで妬いてくださったのだから。


(あれが嘘のはずがないわ)


 きっとアーサー様は、まだご自分の気持ちに気づいていないだけなのよ。

 そうよ、リリアンへの想いなど、もう過去のこと。

 そう思えば、先ほどのアーサー様の怒りも、別の意味があるに違いないわ。

 

(アーサー様は誠実な方だもの。過去の初恋を、あんな形で傷つけられたことが許せなかっただけなのよ)


 ディアナは、そう自分に言い聞かせた。

 それでも……その胸の奥には、どうしても消えない不安が残っていた。





 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。