15話(妄想)
屋敷へ戻ったギルバートは、自室の椅子へ座り、先ほどのディアナとの口論を何度も頭の中で考えていた。
(今日の彼女は、一体どうしたんだ)
あれほど自分へ夢中だったはずなのに。
突然、あんな冷たい態度を取るなど考えもしなかった。
それどころか……。
(あれは……明らかにアーサーを意識していた。彼を好きなのか?)
ディアナのアーサーを見る目、それにあの慌てぶり。二人きりにもなりたがっていた様子。
どれを思い返しても、そうとしか思えない。
胸の奥が、妙にざわつく。
(そういえば……他にも)
以前から気になっていた噂がある。
ディアナは自ら支援している劇団の主演俳優と親しい。
王都では二人の仲を疑う者もいた。
その時は笑って聞き流したが、今日の出来事を見た今では……急に心に冷たい風が吹いた。
(劇団の男に、今度はアーサーか)
侯爵令嬢なのだから社交が多いのは当然だ。
そう自分に言い聞かせても、胸の引っかかりは消えなかった。
そんな時、ふと一人の顔が浮かぶ。
リリアン。
長年、自分の隣にいた婚約者。
どれだけ忙しいふりをして会えなくても、文句一つ言わなかった。それどころか、いつだって優しい笑顔を見せてくれた。
(……あっちの方が楽だったな。それに僕自身も楽しかった)
その考えが浮かんだ瞬間、自分でも驚いた。
いや、考えてみれば当然ではないか。
いくらローゼンベルク侯爵家が名門でも、このままではいつ婚約を解消されるか分からない。
それなら……もう一度。
(格は落ちても伯爵家で十分じゃないか)
アッシュフォード伯爵家は裕福だ。
リリアンも従順だった。あんな大人しい女性なら、一生穏やかに暮らせたかもしれない。
今になって、そんな都合のいい考えが頭をよぎる。
だが一つ。
舞踏会で見た光景が脳裏をかすめた。
アーサーとリリアンが息ぴったりに踊る姿。
二人も自分と同じ、幼馴染だった。
もし、あいつが幼い頃のまま、リリアンへ想いを寄せているのだとしたら……。
(まずい)
胸がざわつく。
(またあの日のように、先手を打たなければ)
幼い頃。
アーサーより先にリリアンへ告白し、婚約まで進んだあの時と同じだ。
アーサーに告白される前に、リリアンを取り戻せばいい。
ただ……両親や兄には何と言えばいいんだ? あの時一度は勘当を言い渡されてしまった。
でも待てよ。両親や兄はもともとリリアンを気に入っていた。だったら戻るのならきっと賛成してくれるはずだ。
そんな身勝手な妄想だけが、ギルバートの頭の中で膨らんでいくのだった。




