14話(アーサーの反撃3)
さすがにそこまで言われるとは思っていなかったのだろう。
ギルバートは険しい表情のまま立ち上がった。
「……今日は帰る」
吐き捨てるようにそう言うと、そのまま応接間を出ていった。
(何なんだ! 今日のディアナ様はどうかしている。もしかしたらアーサーに気があるのか?)
しかし、ギルバートにどう思われようが、ディアナは少しも気に留めない。
扉が閉まる音を聞いても、彼女は引き留めようともしなかった。
むしろ胸を撫で下ろす。
(これでやっと、アーサー様と二人きりだわ)
気持ちを落ち着かせるように息を整えると、ディアナはアーサーへ向き直った。
「お待たせして申し訳ございません」
「お気になさらず」
アーサーは穏やかに微笑んだ。
「それより、本日はお時間をいただきありがとうございます」
二人は向かい合って腰を下ろす。
使用人が紅茶を淹れ、菓子を並べると、ようやく劇団の話が始まった。
王都で人気を集める演目、そして隣国で上演する際の手配。
劇団員の移動や滞在先まで、話は意外なほど具体的に進んでいく。
ひと通り話が落ち着いた頃だった。
アーサーは計画通り、ディアナを見つめた。
「そういえば」
「はい」
「舞踏会でお見かけした時も思いましたが、今日の装いもよくお似合いですね」
思いがけない言葉に、ディアナの頬がほんのりと赤くなる。
「そ、そんな……ありがとうございます」
嬉しさを隠しきれず、思わず笑みがこぼれた。
その様子を見届けてから、アーサーは話題を変えるように資料へ目を戻す。
「この劇団ですが、主役の男性は大変人気があるそうですね」
「ええ、とても人気がありますわ」
「女性の間では、随分と評判だとか」
アーサーは穏やかな口調のまま続ける。
「少し妬けますね」
ディアナは目を丸くした。
「そんな……」
(今、確かにおっしゃったわ。「妬けますね」と)
頬を赤くして、慌てるように首を振る。
「アーサー様のほうが、よほど素敵ですわ」
一瞬、沈黙が流れる。
アーサーはわざとらしく笑った。
「私なんて、そこまで大した男ではありませんよ」
その控えめな言葉にディアナは一層惹かれていく。
(ああ、アーサー様を必ず手に入れたい)
胸の奥で、彼への想いが膨らんでいく。
一方のアーサーは、表情を変えることなく紅茶を飲みながら考えていた。
(やはり報告通りだな)
兄から借りた手の者が調べた情報は、間違っていなかった。
ディアナは、単純だった。心地よい甘い言葉を囁くだけで、簡単に警戒を解いてしまう。
確か、惚れっぽい女だとも書いてあったな。
ならば、焦る必要はない、予定通り確実に進めていけばいいだけだ。
アーサーは知らなかった。ディアナが子供の頃からずっと自分に憧れていたことを。
だからこそ、これほど簡単に進んでいるのだと。




