13話(アーサーの反撃2)
アーサーがローゼンベルク侯爵家へ向かう、その少し前。
ディアナは落ち着かない様子で、何度も窓の外を見つめていた。
(もうそろそろ、いらっしゃる頃だわ)
鏡の前で何度も髪型や、ドレス姿を確認する。
劇団の資料も応接間へ運ばせた。
お茶やお菓子まで、メイドに直接指示を出して、最高級品を用意させた。
(これで完璧だわ)
今日は二人だけで、大切なお話がある。
そう思うだけで胸が高鳴った。
が、その時だった。
「ギルバート様がお見えです」
使用人の声に、ディアナは凍りつく。
「え?」
先触れもなく? 返事をする間もなく、聞き慣れた声が廊下から聞こえる。
「ディアナ様」
当然のように姿を現したギルバートは、いつもの笑顔を浮かべている。
「今日は急に会いたくなってさ」
ディアナは慌てて立ち上がった。
「きょ、今日は都合が悪いの」
「珍しいな」
「本当に大事な用事があるのよ」
「少しくらいなら構わないだろう」
そう言うと、ギルバートは断られるなどと考えもしない様子で応接間へ入って来た。
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「今日はお仕事の話があるの、だから帰って」
ちょうどその時、玄関のほうから執事の声がした。
「ボーフォール子爵家のアーサー様がお越しです」
ディアナの心臓が大きく跳ねた。
(ああ、来てしまったわ)
ギルバートも驚いたように玄関の方を見る。
すると執事に案内され、アーサーが応接間へ入ってきた。
一瞬だけ室内を見渡した彼は、穏やかな笑みを浮かべる。
「これはこれは。お揃いで」
わずかに口元を緩めた。
「お二人のお邪魔をしてしまいましたかな」
その言葉に、ディアナは顔色を変えた。
「ち、違いますわ!」
思わず声を上げる。
「今日はアーサー様と大切なお仕事のお話がございますの。ギルバート様、今日は帰っていただけます?」
「僕が帰る?」
ギルバートは首を傾げた。
「だったらなおさら僕も同席しなくては」
「え?」
「将来の夫になるんだから、一緒に聞いても問題ないだろう」
ディアナの表情が強張る。
「まだ夫ではありませんわ」
その一言にギルバートは驚きを隠せない。
「それに」
ディアナはきっぱりと言い放つ。
「先のことなど、どうなるか分かりませんもの」
「ディアナ様? 今日はおかしいよ。どうしてしまったんだ」
「あなたは長年付き合っていたリリアンを捨てたじゃない」
応接間の空気が張りつめる。
ギルバートの笑みが消えた。
「何を言うんだ」
「事実でしょう」
すると、ギルバートは眉をひそめる。
「そうするように仕向けたのは君じゃないか」
その言葉に、ディアナは息を呑んだ。
二人の言い争いを前に、アーサーは何も口を挟まない。
ただ静かに、その様子を見つめていた。
そして心の中で思っていた。
(こんな奴らに、あの純粋なリリアンを二度と関わらせてはいけない)




