11話(ダンス)
王太子殿下の許しを得たアーサーは、再びアッシュフォード伯爵夫妻のもとへ向かった。
「伯爵様。先ほどはありがとうございました」
声をかけると、伯爵はゆっくりと振り返る。
「どうした、アーサー君」
アーサーはリリアンを一瞬だけ見て、それから伯爵へ頭を下げた。
「失礼を承知でお願いがございます。リリアン嬢へ一曲、お相手をお願いしてもよろしいでしょうか」
伯爵は少し目を見開いたあと、にこやかに微笑んだ。
「もちろんだ」
そう言ってリリアンを見る。
「リリアン、お前はどうだ?」
突然の申し出に、彼女は驚いた様子だった。
「わ、私ですか?」
幼い頃は何度も一緒に遊んだ相手。
それでも、こうして大人になったアーサーに改めてダンスへ誘われると、胸がどきりと鳴る。
少しだけ頬が熱くなるのを感じながら、彼女は頷いた。
「……はい。では喜んで」
アーサーはそっと手を差し出す。
リリアンはその手へ自分の手を重ねた。
会場の中央へ歩み出ると、ちょうど音楽が新しい曲へ変わる。
「突然で驚かせてしまったようだ。すまない」
「いいえ。少し緊張しているだけです」
「安心して、私が合わせる」
その穏やかな声に、不思議と肩の力が抜けていく。
ゆっくりと踊り始める二人の姿を見て、会場のあちこちから小さなどよめきが広がった。
「アッシュフォード伯爵令嬢だわ」
「隣国の王太子殿下の側近と踊っているなんて」
「でも、なんてお似合いなのかしら」
先ほどまで噂話をしていた者たちでさえ、思わず見惚れるほどだった。
自然に微笑み合いながら踊る姿は、長い月日を共に過ごしてきた二人のように息が合っている。
周囲の声を気にすることもなく、二人は懐かしむように互いを見つめていた。
「今度、屋敷の方へ訪ねていってもいいだろうか」
遠慮がちに聞くアーサーに、リリアンは優しく微笑んだ。
「はい。でも今の私は……アーサー様が、変に噂されないといいのですが」
「言いたい奴には言わせておけばいい。私はまったく気にしない」
「でも……」
「お父上からすべて聞いている。だから君は何も心配することはない」
その言葉にリリアンは目を見開いた。
「はい」
(お父様たら、お仕事の話だっておっしゃっていたけれど、私の話もしていらしたのね)
二人は次の曲も自然と踊り続けた。
その光景を、遠くから見つめる者がいた。
ギルバートとディアナだった。
ディアナの目は、踊る二人を凝視している。
「ディアナ様?」
ギルバートが不思議そうに声をかける。
「何ですの」
「さっきから様子がおかしいな」
「別に」
そう答えながらも、視線は二人から離れない。
ギルバートは苦笑しながら肩をすくめた。
「何も君が、気にすることはないだろう」
その言葉はディアナの心を苛立たせた。
「あなたは黙っていて! 何も知らないくせに」
(どうしてなの? なんであの女ばかり……許さない、絶対に許さない)
遠目から二人の仲睦まじい姿をいつまでも睨みつけるディアナ。
その心にもまた、どす黒く固い決意が芽生えていた。




