第20話 一緒に手を握ってくれる人
「碧生くん...?」
家の近くの公園で素振りの練習をしていると、どこからか、俺の名前を呼ぶ、女性の声が聞こえてきた。
思わず、俺は素振りをしていた腕を止め、声のした方へ顔を向けると。
そこには目を丸くして俺を見つめる夏希がいた。
「あれ、夏希さん! さっきぶりだね」
突然の邂逅で心臓は「バク、バク」と激しい鼓動を打っているが冷静を装い、会話を始める。
「ううん、さっきぶり... それにしても、部活が終わった後に自主練なんて偉すぎるね...」
「いや、当たり前だよ。夏希さんにあんなことを言った以上、本気で頑張らないと」
〜〜〜
『夏希さんを絶対に越してみせるよ』
〜〜〜
ああ言った以上、必ず越さなければならない。
必ず...
夏希に構わず、素振りを再開したその時。
「焦ってる?」
「え...?」
予想外の言葉に俺は腕を止める。
「顔を見たらわかるよ。その顔は、ただ私に追いつきたいわけじゃないみたい。『追いつく』というより、何かに追われているような」
すると、夏希は俺の頬を両手で包み込む。
急に手を添えられて驚いた。けれど、その手はとても優しく、温かくて。俺の心は、一気に溶かされて。
いつの間にか涙を流していた。
そんな俺を見て夏希は優しく顔で。
「何か悩んでいることがあれば、私に言ってみて。どんな些細なことでもいいから」
なんでわかるんだろう。ほんと、夏希は凄い人だ。
確かに俺は、恐怖に追われていた。
いつ、夏希に次なる脅威が訪れるかわからない恐怖から。
だから、その恐怖から逃れるために一刻も早く、付き会おうとして、夏希に追いつこうと必死だったのかもしれない。
「...夏希さん」
「ん?」
「何があっても|追いつかないといけない相手と」
「何があっても|追いつかれてはいけない相手がいたら、どうする?」
「...難しい質問だね。でも、私なら...」
そう言いながら、頬に添えていた手を一度離し、夏希は俺の手を握りながら言う。
「私なら、人の手を借りるかな。さっき碧生くんが言ってたことって、独りじゃ手一杯になっちゃうと思うの。だから、その苦労を信用できる人に分けてもらう。そうすれば、きっとゴールに辿り着くことができる。私の言いたいこと、わかる?」
「私が手を握っててあげる。ゴールまで一緒に」
「... 情けなくないかな...?」
「情けなくなんてないよ。1番情けないのは、自分が壊れるかもしれないってわかっているのに、人の手を借りずに壊れちゃうことだよ。だから、壊れる前にちゃんと言えた碧生くんは情けなくなんてない」
ここの世界では出会ってまだ1週間程度しか経ってないのにも関わらず、なぜここまで親身になってくれるのだろう。
これをキッカケに、夏希のことがもっと好きになってしまうじゃないか。
「涙で顔がボロボロになってるよ?」
「ごめん、ありがとう...」
「どっちよ!」
夕日に照らされながら、俺たちは互いに笑い合い、俺の心にかかっていた雲は、夏希という名の太陽に打ち払われたのだった。
─その日の夕方。
街灯に明かりが灯る頃、俺はそっと敷布団へと潜り込み、静かに目を閉じた。
部活動の初日から色々とあったため、とても疲労が溜まっており、今にも夢の世界に行きそうだった。
あ、夢の世界といえば。
あの、予知夢は一体、なんだったのだろうか。
予知夢は脳の錯覚と言われているが、あれは錯覚ではないと断言できる。
錯覚にしては出来すぎている。
なら、これは一種の能力的なものなのだろうか。
少なくとも予知夢なんてものを見たのはあの時だけ。
それがタイムリープしてから起きたということは、神の啓示ということだろう。
そして、神がこの能力を与えてくれた理由。
これは恐らく、夏希を守るためだろうな。
と、なると。
「有効活用するしかないか」
使えるものは、とことん使う。
夏希を守れるならなんでも良い。
となれば、早速その能力を使いたいところだが...
発動条件はなんだ...?
本当に眠るだけで良いのか?
「まあ、とりあえず寝てみるか...」
「... good night 世界...」
そうして俺は、眠りについた。
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-あとがき-
おなかいっぱい




