なむなむ穴ぼこ池ぷりん♪(その5)
「あ、お腹すいたっすか?」
私がそう尋ねると、先輩は3秒ほど黙ってほっぺを膨らませたあと、
「……すいた! おやつしよ!」
とお腹をべちべち叩きながら言った。
私はポーチを探って、今日のおやつを取り出す。
「今日のおやつは『固形ぷりんバー』っす」
「むぅぅ。あのまずいやつぅ?」
「火で炙ればうまいっすよ」
私はポーチから魔導ライターを取り出し、火を着ける。
――チャッカリン、ぼっ。
小気味よい音を立てて、ライターが着火した。
その小さな火で、ぷりんバーを炙っていく。
「あ、いい匂いしてきた!」
「このくらい炙ればいいと思うっす。先輩、どうぞ」
私は炙りたてのぷりんバーを半分に割って、先輩に手渡す。
先輩はそれをモソモソと食べ始めた。
固形ぷりんバーは細長いクッキーのような形をしていて、そのまま食べると固くて全然おいしくない。
冒険者向けの携帯用保存食なので、仕方のないところだ。
だが炙ってみると、餅のように柔らかくなって美味しくなる。
冒険者たちのあいだで伝わる、裏ワザみたいなものだった。
「えっ! うま! とろける!」
「焦げ目もついてうまいっすね」
「むむむーん! これは、星ひとつあげちゃう!」
もちもちでとろける食感に、疲れた身体に沁みる甘いぷりんの味。
焦げた部分がちょうどカラメルのような風味で、甘みを引き立ててくれる。
保存食とは思えないほど美味しい。
先輩はご満悦のようだ。
ごきげんも直ってよかった。
おやつを食べ終わった先輩が、上機嫌で口を開く。
「それにしてもさっきのアリ、すごい量だったわね! もうこれで今回は解決じゃない?」
「いや、そうもいかないっす」
私は今回報告された、事故の内容を思い出す。
「今回の被害者はみな、アリの大群から逃げて岩陰に隠れたそうっす」
「ふんふん、それで?」
「岩陰で軍隊アリが通り過ぎるまで、3日間、隠れ続けたと」
「ほえー。お腹ぺこぺこになりそう」
た、たしかに。
でも問題はそこじゃない。
全然ピンときてない先輩に、分かるように伝える。
「つまり……3日間に渡って行列が続くほど、超大量の軍隊アリがいたってことっす」
「ぐぇぇ。それは嫌すぎる!」
この地下8階層には、もともと500匹ほどのアリが生息している。
さっき倒した群れは30匹くらいで、1つの群れにしては少し多いが、異常というほどではない。
「3日も続く行列となると、少なくとも1万匹はいるはずっす」
「1万!? そんなにいたら、この階がアリで埋まりそう! どこに隠れてんの?」
「それを探るのが、私たちのお仕事っす」
アリ自体には異常が無いことは、さっき調べて分かった。
初動調査としては、こんなとこだろう。
「いったん地上に戻って、情報を集めに行くっす」
「情報? どこに?」
「被害者の回復を待って、聞き込みっすね」
私たちは立ち上がって、マナの泉を後にする。
地上へ戻る前に、先輩は軍隊アリの残骸の山の前で、なむなむしていた。
私も横に並んで、一緒に手を合わせておく。
なむなむが終わって私が歩き始めると、ダンジョンに響きわたる、楽しげな声が聞こえてきた。
先輩が、るんるんで歌い出したのだ。
どうやら、今日のできごとを、適当な歌詞にしているっぽい。
ご機嫌で歌う先輩、いとかわゆし。
私はその歌を聴きながら、穴ぼこだらけの通路を地上へ向かって歩いていく。
先輩のへんてこな歌は、暗く湿ったダンジョンを、明るく照らすように響いていた。
<ep1:なむなむ穴ぼこ池ぷりん♪ 了>




