なむなむ穴ぼこ池ぷりん♪(その4)
「間に合えッ!」
私は先輩の落下地点に向かって、全力で走り込んだ。
なんとかヘッドスライディングで先輩を受け止めることに成功する。
あたりに大量のアリの残骸と、砂ぼこりが舞った。
「はあー。やれやれっす」
「んむ……! むっむっ!」
先輩は金色の瞳で必死に何かを訴えているが、上手くしゃべれないようだ。
毒で痺れている先輩を、地面にそっと横たえる。
軍隊アリの毒に、致死性は無い。
ただ身体が痺れて、少しのあいだ動けなくなるだけだ。
これで意識も麻痺していれば、先輩を好き放題……ごほん。
「すぐに解毒するっすから、安心してください」
私は先輩のふとももに刺さっていた小さい毒針を抜く。
ポーチから『解毒のスクロール』を取り出し、そこへ貼り付けた。
魔力を流すと、スクロールが青く発光し、その光が先輩の身体を包む。
「すこしの辛抱っす。すぐに良くなりますよ」
しばらくのあいだ、横たわる先輩のおでこを撫でて過ごした。
こんな状況でもなければ、先輩がじっとしていることなどありえない。
おとなしく撫でられている先輩は、それはそれでかわいいのだ。
「むぅぅ、やばかった! アオィちゃん、ありがとぉー!」
しばらくして、先輩は復活した。
元気いっぱいでなによりだ。
「先輩、戦闘中によそ見するのはやめて下さいっす」
「むぅ、すみましぇぇん……。でもねアオィちゃん!」
「なんすか先輩」
「あの壁の上に、いいモノがあるの! 天井に貼りついたら見えた!」
何かを見つけて、思わずよそ見をしたらしい。
さっそく先輩の言う場所へ行ってみることにした。
岩壁を登る必要があったが、びよよん札はもう無いので、普通のロープを使って登ることにする。
壁を頂上まで登ると、そこには小さい部屋のような空間があった。
「ほら! すごいキレイでしょ!?」
「おお、珍しい。マナの泉っすね」
それは、魔力の素となる『魔素』が溶け込んだ池だった。
普通の水と違って、淡く発光しているその池は『マナの泉』と呼ばれ、冒険者のあいだでは貴重なものとされている。
「緑色に光ってて、キレイ!」
「岩盤の崩落で、偶然できた池みたいっすね」
私は池に近づいて、水面に手をすこし触れてみた。
「水質をチェックするっす。とりあえず人体に害がないか……あ」
じゃぼんっ。
時すでに遅し。
先輩はすでに池の中へ突撃していた。
「うひょー! きもちいー! 毒はなさそう!」
「……そうっすね。とてもよく分かりました」
「アリと戦って汚れてたから、ちょうどいいわね!」
服のまま泳ぐ先輩は、とても気持ちよさそうだ。
マナの泉は、ぼんやりとした緑色の光を放ち、暗いダンジョンを淡く照らしている。
燐光を湛えたその小さな空間に、ざぶざぶと水をかく音が心地よく響いた。
ときおり、泳ぐ先輩の動きに合わせて、ぬるい水面がちらちらと瞬くように美しく輝く。
私は池のふちに腰かけ、靴を脱いだ。
足だけ水のなかに入れ、ちゃぷちゃぷと水面を揺らす。
楽しそうに泳ぐ先輩のワンピースは、身体にぴったりと貼り付いて、透け透けのすけだった。
「ダンジョンは、たまにこういう良い景色があるから辞められないわね!」
たしかに。
先輩、そのとおりです。
「アオィちゃんのいちばん好きな景色はなに?」
「好きな景色? うーん、そうっすね……」
私はすこし迷ったが、正直に答えることにした。
「満天の星空っす。ダンジョンじゃ見えないですけど」
私の答えに「星空かぁー」とつぶやきながら、先輩が近づいてくる。
先輩は池のふちに腰かけ、私の隣に座った。
濡れた服が貼り付いたままの先輩の身体から、春の草花みたいな良い香りがする。
先輩の金色に輝く瞳と、まっすぐ目が合った。
「私はね、アオィちゃんと、こういうキレイなとこを見るのが、いちばん好き!」
全身ずぶぬれの先輩は、私を見つめたまま、にかっと笑った。
「たしかに、足も洗えてキレイっすよね」
こういう場所は身体も洗えて気持ちがいい。
ダンジョンの中では貴重で、ありがたいものだ。
私は足をちゃぷちゃぷさせて、揺れる水面を眺める。
ふと、先輩が無言なのに気づいて、顔を上げた。
すると先輩はなぜか、ほっぺがぷくー、と膨らんでいる。
え、先輩どうした?
「あ、お腹すいたっすか?」
<その5へつづく>




