なむなむ穴ぼこ池ぷりん♪(その3)
そのとき先輩は――。
天井にぴったり貼りついていた!
貼りついたまま、片手で杖を取り出す。
そこから一気に光の弾を掃射した。
「むーっ!」
杖から放たれた大量の光が、暗いダンジョンをまぶしさで包む。
上からの攻撃で不意をつかれたアリたちは、全身で浴びるように攻撃を受け、ばらばらになっていった。
まるで突然の雨に晒された泥団子が、なすすべなく崩れていくように。
「むぅぅぅぅーっ!」
ふたたび叫んだ先輩が、残ったアリの中に飛び込んだ。
密集するアリたちの中心をめがけて、天井から急降下していく。
そんなところでアリに捕まれば、先輩は粘液で味付けされたあと、おいしく食べられてしまうだろう。
アリたちの手が、先輩の身体を掴もうとした。
そのとき。
先輩の身体が、空中でピタリと静止した。
アリたちの手が、ギリ届かない位置で。
アリの攻撃は、またも一斉に空振りする。
「むぅっ!」
空中で静止したまま、目の前のアリたちに弾を乱射する先輩。
容赦ない攻撃の嵐に、アリたちは反撃する間もなく、順番に沈黙していった。
「本当に先輩は、びよよん札の扱いが上手いっすね」
びよよん札なんてものは、本来は無い。
私と先輩が勝手にそう呼んでいるだけだ。
先輩が手に持っている、お札のようなもの。
この札には、魔法が封じ込められている。
本来は「蜘蛛糸のスクロール」と呼ばれるアイテムだ。
むかしは本当に巻物の形だったが、いまは技術の進歩で小型化している。
札に魔力を流すと発動し、魔法の糸が放たれる。
それが、蜘蛛の糸のように天井にくっつき、伸び縮みする。
使えるのは1回のみの使い捨てだが、うまく使いこなせば、さっきの先輩みたいなアクロバティックな動きも可能だ。
「こちらも『1号』で援護するっす」
私は短い杖を取り出し、メガネをくいっと持ち上げ、カッコよく髪をかき上げた。
杖を構えたまま、一気にアリとの距離を詰める。
ばすん。ばすん。ばすん。
アリへ近づきながら、抱えた杖から弾を発射する。
先輩が撃ち漏らしたアリを中心に、1匹ずつ、確実に仕留めていく。
私の弾をくらったアリたちは、ぱぁんという音とともに砕け散った。
そこにアリが居たことすらも分からないくらい、塵となって消える。
「あとは先輩だけで、大丈夫そうっすね」
数分後には、アリは残り数匹となっていた。
先輩は魔法の糸をびよんびよんと伸び縮みさせ、アリたちを翻弄しながら撃ち倒していく。
空中を舞う先輩のかわいいピンク色のスカートが、ひらひらと素敵に揺れていた。
下から見ると、ちらちらと。
「……ふむ。撃ちやすい位置に移動するっすか……」
私はしっかりと対象を観察しながら、最も眺めの良い位置に移動した。
ひらり。ひらり。ちらり。
うむ、絶景かな。
ひら、ひら。ちら。
ばすん。
邪魔なアリを確実に撃ち抜きながらも、絶景は決して見逃さない。
私、プロなので。
いよいよアリは最後の1匹になった。
最後のアリは、敗北を悟ったようで、先輩に一矢だけでも報いようとしていた。
こういう瞬間の敵は怖い。
天井に貼りついた先輩が、最後の敵に杖の照準を合わせる。
これで決まりだ。
と、そこで何を思ったか。
突然、先輩は「あっ!」と声をあげ、アリから目を離し、あらぬ方向を向いた。
決死のアリは、その隙を待っていた。
全てを絞り出すように身体をひねり、尻の先端を先輩に向ける。
「――させるかッ!」
私は瞬時に魔力を込め、弾を放つ。
粉となって砕け散るアリ。
だが、アリの命を賭けた一撃のほうが、ほんの一瞬だけ早かった。
アリの尻から毒針が放たれる。
「むぎゃ!」
天井から先輩の悲鳴が聞こえた。
その直後。
先輩が天井から落ちてきた。
<その4へつづく>




