なむなむ穴ぼこ池ぷりん♪(その2)
「先輩! 隠れるっす!」
私はすぐに先輩の手を引っぱって、ダンジョンの通路の影に隠れた。
幸い、軍隊アリはまだこちらに気づいていない。
すこしだけ通路から顔を出し、様子を伺う。
「間違いなく、軍隊アリのビバークっすね」
「すごい! アリが山盛り!」
「ずいぶん広い空間っす。最近、崩落があったのかも」
そこはダンジョンの狭い通路とは違い、家が数軒まるごと入りそうなほど大きな空間だった。
ここだけ天井も高く、地面には大小の岩が乱雑に転がっている。
ダンジョン内で崩落が起きると、こういう空間が生まれるのだ。
その広い空間に、人間とおなじ大きさのアリが、大量に重なり合いながらひしめいていた。
それはもう山のように、こんもりと。
「うげ。アリがなにか食べてる」
「大きさから見て、獲物は人間ではないっすね。小動物とかだと思うっす」
アリたちが群がっている粘液の下には、今日の獲物があるらしかった。
大量のアリたちの関節がきしみあう、ギシギシという音。
獲物を捕らえた粘液の、妙に甘い匂い。
魔物は、厳密に言えば生物ではないが、それでもその存在は恐ろしく生々しい。
これほど大群のアリに正面から突っ込んだら、次は自分があの不幸な獲物になるかもしれない。
こんなの……。
先輩が大っ好きなシチュエーションだ。
「先輩、これは本気でダメっす。食われます」
もう今にも突撃しそうになっている先輩を、仕方なく後ろからぎゅっと抱きしめて押さえておく。
仕方なくだからしかたない。
ついでにちょっと嗅ぐ。すんすん。
先輩、すごくいいにおい◎
「全部で……30匹ってところっすね」
一瞬、よき香りで桃源郷に行きかけたが、すぐにアリへと意識を戻した。
私、プロなので。
30匹なら、今回のアリ駆除のミッションにはちょうどいい数だ。
ひと群れくらい倒しておくか。
「私が後方から援護射撃するっす。先輩、行けますか?」
「いける! 『びよよん札』使ってもいい?」
「いいっすよ」
腕の中で興奮してぷるぷると震える先輩を、いま一度、ぎゅうと強く抱きしめておく。
名残惜しいが――。
手を離した。
先輩を放つ。
「先輩! ゴーっす!」
「むぅぅーーーーーーーーーーーーーっ!」
謎の叫びとともに、先輩が全速力で突撃した。
すぐに迎撃体勢を取るアリたち。
だが先輩は、なぜか杖を手に持っていなかった。
これでは攻撃できない。
およそ自殺行為としか思えないその姿。
丸腰で突っ込んでくる奇妙な獲物を見たアリたちは、ちょっと首をかしげているようにも見えた。
しかし獰猛な前衛アリたちに遠慮などなく、鋭いアゴで一気に先輩へ飛びかかる。
無防備な先輩は。
抵抗するすべもなく襲われる。
――はずだった。
だが次の瞬間。
先輩の姿が、消えた。
アリたちの攻撃が、一斉に空を切る。
目の前で突然消えた先輩に、とまどうアリたち。
そのとき先輩は――。
天井にぴったり貼り付いていた!
<その3へつづく>




