なむなむ穴ぼこ池ぷりん♪(その1)
「なむなむ」
うす暗く、ひやりと湿ったダンジョンの中。
むぅ先輩が、こなごなになった軍隊アリに、なむなむと手を合わせている。
「アリには異常なさそうっすね」
私は転がっている魔物の残骸を、丁寧に調べながら言った。
軍隊アリ自体に、おかしなところは無い。
「ねえアオィちゃん」
「なんすか先輩」
「今回の調査って『軍隊アリの異常発生』って話だったわよね?」
私と先輩は、ダンジョンでお宝を探している訳ではない。
地下に潜るのは、調査のお仕事のためだ。
「このあたりで、異常なほど大量のアリに、冒険者が襲われたらしいっす」
「たまたまじゃないの? アリの巣に突っ込んだとか」
「軍隊アリは巣を作らないっす。それに、3人がそれぞれ別のタイミングで被害にあってるんすよ」
1回だけなら偶然と言えるが。
3回も続けば、何か原因があるのでは、と疑いが生じる。
「むぅ、なるほどぉ。それでさっそく、私たちの出番ってわけね!」
「なる早で現場を調べるのが、調査の鉄則っすから」
私たちは――。
ダンジョン専門の事故調査団だ。
調査団といっても、ふたりしかいないけど。
ダンジョンには貴重な資源が眠っていて、それを目当てにたくさんの冒険者が地下へと潜っていく。
そんな冒険者たちがダンジョン内で遭遇した事故を調査し、原因を究明し、再発を防止する。
それが、私たちのお仕事だ。
「今回報告があったのは『地下8階層での、軍隊アリの異常発生』っす。増えすぎたアリの駆除と、原因究明がミッションすね」
倒したアリを調べたが、とくに異常は見当たらなかった。
原因はほかにありそうだ。
るんるんと楽しそうにアリの残骸をかき分けている先輩を横目に、私はダンジョン一帯を眺めてみる。
何か見落としはないだろうか。
「8階層って、けっこう穴ぼこだらけっすね」
「そうねー。あなぼこ、ぼっこぼっこぉー♪」
アリの残骸を漁るのに夢中な先輩は、適当な返事をしながら歌い出した。
なんだその歌は。
適当な歌詞で歌っちゃう先輩、ベリィキュートっ。
「ちょっとあたりを探索してみますか。先輩、行くっすよ」
もっと先輩のかわいい歌を聞いていたいところだが、そういうわけにもいかない。
事故原因の手がかりを探すため、付近の探索を始める。
幸い、ダンジョンを歩きながらも、先輩は『ぼっこぼっこの歌』を歌い続けていたので、私はしばらくかわいい先輩を楽しむことができた。
歌の歌詞が示すとおり、8階層は穴だらけでぼっこぼこだ。
「ぼっこは地面だけじゃないのさぁー、壁だってぇ穴ぼっこぼこー♪」
「たしかに……軍隊アリがいる階層なら、普通はもっと道が整えられているハズっすけど」
軍隊アリはダンジョンの岩を削って、通路をきれいに整える習性がある。
このエリアで何度も大量の軍隊アリが発見されていることを考えると、こんなに穴だらけなのはおかしい。
状況が矛盾している。
「ぼっこぼこぉ♪――むぎゃあっ!」
歌いながら歩いていた先輩が、何かにつまずいてコケた。
今度はえろトラップは踏まなかったらしい。
まことに、残念である。
「先輩、よそ見して歩くからっすよ。なに踏んだんすか?」
「むぅ。アリの死骸! これ、さっきも踏んだやつ!」
見ると、たくさんのアリの死骸が転がっていた。
たしかにさっき倒したやつだ。
「気づかないうちに、道に迷わされてたみたいっすね」
「こわぁー! もしかしておばけ?」
「いや……おそらく、この穴ぼこが原因っす」
私は通路の壁にあいている穴を指さした。
壁に大きな穴があきまくっているせいで、横道がたくさん出来て、どこかで道に迷っていたらしい。
「これじゃあ、どこが正しいルートだか分からないっす」
「複雑に入り組んでて、迷路みたいね!」
楽しそうな先輩に、私は渋い表情を返す。
こんな場所で調査するのは大変だ。
「そういえば、軍隊アリって巣を作らないのよね? じゃあ普段はどこにいるの?」
「基本はつねに移動してますけど、休むときはビバークするっす」
「ビバーク?」
「集まった大量のアリが、一カ所にぎゅっと固まって野営することっす」
私は先輩に答えながら、迷路になったダンジョンの地図を書こうと、ペンを探す。
ポーチの奥を探っていると、先輩の声がした。
「ねえアオィちゃん」
「なんすか先輩」
「それって、あんな感じのやつ?」
先輩が指さす方向を見る。
そこには――。
集まった大量のアリたちが、ぎゅうっぎゅうに固まっていた!
<その2へつづく>




