先輩ダンスダンスソリューション★(その3)
「先輩の魔法は、この魔力の色の痕跡を見ることが出来るっす」
「ドヤぁぁ」
先輩はここぞとばかりに会心のドヤ顔である。
「ドヤぁぁ」
調子にのって2回言ったし。
でも、これは本当に誇っていいやつだ。
「炎の色を見れば、なんでもお見通しってわけ!」
「いわゆる炎色反応ってやつっすね」
先輩の魔法で出した炎の色からは、様々なことが分かる。
魔物なら種族が分かるし、魔導具や魔導鉱石を識別することもできた。
炎の色の細かい違いまでは、先輩じゃないと見分けられないけど。
興奮した様子のモモタちゃんが、先輩に尋ねる。
「すごい魔法ですねッ! 人間の魔力の跡も分かるんですか?」
「わかるよん! 魔力の色はひとりひとり微妙に違うから、誰の魔力かも分かる!」
魔力を使えば、その場所にはしばらくのあいだ、魔力の残滓が必ず残る。
その痕跡から個人を特定することも可能だ。
まるで指紋や、足跡のように。
この先輩の魔法こそが、我々が事故調査団として存在できる理由なのだ。
「先輩。ダンジョンの通路に、アリと同じ朽葉色の魔力が無いか、見てくださいっす」
私がそう言うと、先輩はシャラランと鈴を振り、通路を炎で覆っていった。
そこに点々と、同じ色の魔力の痕跡が浮かび上がってくる。
「あったぁ! 通路にずっと朽葉色の魔力が続いてる!」
「これが、軍隊アリのフェロモンすね」
「フェロモンって何ですかッ?」
私は2人に、前に本で読んだ内容を説明した。
軍隊アリは目が見えない代わりに、フェロモンと呼ばれる特殊な魔力を分泌し、それを目印にして他のアリが道を辿っていく習性があるのだ。
「先輩、この色も見てもらっていいっすか?」
私はそう言いながら、魔導ライターを点火した。
点火スイッチを押しながら、ライターに魔力を流す。
――チャッカリン、ぼっ。
小気味よい音がして、火が灯った。
そこに先輩の炎を重ねて、色の変化を見る。
「むむむぅ。これは、赤いわね!」
「赤、ですか。なるほどっす」
魔導ライターを点火すると、赤い魔力が放出されるようだ。
「えっと……ッ。これにどういう意味があるんですか?」
「むぅ、私もわからん! アオィちゃん教えて!」
顔にハテナマークを浮かべる2人の前で、私はもう一度、魔導ライターをつけてみせる。
今度は敢えて、魔力を不安定にさせて点火した。
魔力を流している途中で、わざと点火スイッチから指を離す。
――チャ……リン、じゅぼ。
冴えない音がして、火がついた。
それを見た先輩が叫ぶ。
「あっ! 今度は、朽葉色になった!!」
不完全燃焼させた魔導ライターから放出される魔力は、朽葉色だった。
アリのフェロモンと、まったく同じ色だ。
「これが、今回の事故の原因っす」
「むぅ、なるほど! 魔導ライターの不完全燃焼!」
魔導ライターを慌てて点火するなどして不完全燃焼させると、アリのフェロモンと同じ魔力が放出される。
アリはその魔力をフェロモンと勘違いして追ってきていたのだ。
「この付近のアリは先輩が全部倒したので、今は不完全燃焼させてもアリはこないっす」
「でも残りの9900匹のアリは?」
「そんなに大量のアリは、最初から居なかったんすよ」
ふたたび顔に大きなハテナマークを浮かべた2人に、私はあとをついてくるように言って、歩き出した。
先輩が倒したアリの山を残して、ダンジョンの通路を3人で歩いていく。
先輩の魔法で通路を見ていくと、朽葉色の魔力が点々と続いていた。
アリのフェロモンの跡だ。
穴ぼこがあいて横道だらけの通路を、しばらくフェロモンの跡に沿って歩き続ける。
するといつの間にか……。
元の場所へ戻ってきていた。
再びたどり着いたアリの山を見上げて、先輩がつぶやく。
「むぅぅ……。穴ぼこで道がループして、ぐるぐる同じところに……」
「そうっす。軍隊アリの『死の渦巻』と呼ばれる現象です」
デススパイラル。
それは、目が見えない軍隊アリが、ループ状態になったフェロモンの跡を追いかけ続ける現象だ。
このループにハマると、アリたちは永遠にフェロモンを追って回り続ける。
場合によっては死ぬまで行進し続けることから、こう呼ばれるらしい。
「フェロモンが薄れて消えるまでに、3日間ほどかかったんだと思うっす」
それで3日経つと、いつの間にかアリが消えていたのだ。
「事故の発端は、魔導ライターの不完全燃焼っす。フェロモンと同じ魔力が放出されて、誤って誘導されたアリが集まってきたんすね」
「むぅ、そしてそのあと……」
「追ってくるアリから逃げているうちに、アリが穴ぼこでループした通路にハマって、デススパイラルが起きたっす」
これが、今回の事故の真相だった。
「むむぅ。同じアリがぐるぐる回ってたから列が途切れなかっただけで、もともと1万匹も居なかったのね!」
「そうっす。普段よりは群れが多めに増えてたみたいっすけど、誤差の範囲でしょう」
「これで一件落着ね! さっすがアオィちゃん!」
「いやいや、先輩のおかげっすよ」
私と先輩はお互いを称え合い、にこにこと笑っていた。
そこに突然。
「あれ? でも変ですねッ?」
モモタちゃんが、怪訝な声でつぶやいた。
<その4へつづく>




