先輩ダンスダンスソリューション★(その4)
「あれ? でも変ですねッ?」
モモタちゃんが、怪訝な声でつぶやいた。
「私が借りたライター、ずっと変な音がしますッ」
「え? ちょっと貸してくださいっす」
モモタちゃんからライターを借りて点火してみる。
――チャ……リン、じゅぼ。
冴えない着火音。
何度も正しく操作して、きちんと魔力を込めたが、そのライターは不完全燃焼を繰り返した。
これは……最初から壊れていたか。
壊されていた可能性が高い。
不穏な予感が頭をよぎる。
「ライターを貸してくれた戦士って、どんな奴だったっすか?」
「えっと、なんか黒い頭巾をかぶってたので、顔は分からず……。『黒ずきん』さんって名乗ってました。でもやたら強かったですッ」
私はモモタちゃんの答えに、頭を抱えそうになった。
はあ、と大きく息を吐いてから、なるべく優しい声で伝える。
「そんな素性の分からない奴と組んじゃだめっす……」
「は、はいッ。すみませんッ!!」
「モモタちゃんは可愛いんだから、変な奴に騙されないよう気をつけてください」
「えッ!? かかかッ、可愛い!?」
モモタちゃんはなぜか変なところに反応して、動きがカクカクとぎこちなくなり、何度も右往左往していた。
顔が赤くなって、頭から湯気が出そうだ。
なんか変な反応だが、反省はしてるっぽいから、まあいいだろう。
ふと先輩のほうを見ると、ちょっと眠そうな顔をしていた。
金色の瞳と、目が合う。
その途端、先輩が私に向かって突撃してきた。
「むぅっ」
小さく叫んだ先輩が、私の胸に飛び込む。
先輩は私に抱きつくと、そのまま寄りかかるように身体を預けてきた。
私もぎゅう、と抱きしめて先輩の身体を支える。
「先輩、頑張ったっすね。お疲れさまでした」
「むぅ……」
先ほどの魔法で、膨大な魔力を一気に使った先輩は、ふらふらの状態だった。
短時間に魔力を使いすぎると『魔力酔い』が起こる。
吐き気やめまいなどの症状が出たり、猛烈に眠くなって、酷ければ一時的に意識を失うこともあるのだ。
動けなくなった先輩を、背負って地上へ連れて行くことにした。
先輩は小柄なので、私でも難なく運べる。
私はアリの山になむなむと手を合わせると、背中に先輩の体温を感じながら、ダンジョンをあとにした。
~★~★~★~
地上に出ると、もう夜だった。
先輩は私の背中に揺られて、いつのまにか眠っている。
「……あのッ。また今度、お礼をさせてください!」
モモタちゃんがぺこりとお辞儀をしながら言った。
まるで今生の別れかのような、切実な表情をしている。
そんなにお礼がしたいのだろうか。ずいぶん義理堅い子だ。
「お礼は気にしなくていいっすけど、モモタちゃんが心配なので、ギルドで見かけたら声かけてください」
そう言うと、モモタちゃんの顔がぱあっと明るくなった。
モモタちゃんのつぶらな瞳には、笑顔がよく似合う。
最後もやはり、ぺこりとお辞儀をして去っていった。
このあと私たち事故調査団がやるべき仕事は、調査報告書の作成だ。
まずは解明した事故の原因を、報告書にまとめることになる。
そのうえで、再発防止の提案も忘れない。
商業ギルドを通して、魔導ライターに不完全燃焼を防ぐ安全装置を設けることを勧告。
そして冒険者ギルドへ、地下8階層にあいた穴ぼこを埋めるように指示。
あとは……。
怪しい『黒ずきん戦士』の捜査も依頼しよう。
発破のスクロールで大量の穴ぼこをあけたのも、同じ奴の可能性が高い。
これ以降の犯罪捜査は、私たち事故調査団ではなく、保安警察隊に引き継ぐことになる。
私たちの仕事は、あくまでも事故調査だ。
「むぅ……」
「先輩、目が覚めたっすか?」
夜の街をギルドに向かって歩いていると、背中に背負っている先輩が、もぞもぞと動き出した。
どうやら、空を見上げようとしているらしい。
「……アオィちゃん、今日の星空はどう?」
背中から先輩の声がした。
私は先輩を背負ったまま、夜空を見上げる。
「キレイっすけど、満天の星空には、まだまだっすね」
「そっかぁ」
先輩は小声で答えた。
まだ本調子という訳ではないようで、普段と違って大人しい。
ぼんやりとした声のまま、先輩は続ける。
「ねえアオィちゃん」
「なんすか先輩」
「私はね、アオィちゃんとダンジョンに潜るの、楽しいよ」
「そうすか」
「アオィちゃんのおかげで、いい景色がいっぱい見られた。もっと一緒に、キレイな景色が見たいな」
嬉しい言葉だ。
けれど、私はすぐにカッコいい返事が思いつかなかった。
先輩が、私の首に回している腕に、ぎゅっと力を込める。
そして、ふたたび口を開いた。
「いつか私が――」
そこから、ひと呼吸おいて。
先輩がそっとささやく。
「アオィちゃんに満天の星空、見せてあげるね」
耳元で聞こえたその言葉が。
私の胸にこだまする。
しばらく、声が出せなかった。
深呼吸してから、ようやくしぼり出す。
「……先輩、楽しみにしてるっす」
結局、カッコいい言葉なんて思いつかない。
先輩はそのあとも、私の背中から少し乗り出すようにして、夜空を見上げていた。
私はちらりと振り返って、先輩の顔を見る。
その金色の瞳は、ただまっすぐに夜空を見つめ。
きっとどこかにある満天の星空を、ずっと探していた。
「……むぅにゃ」
それからしばらく歩いているうちに、先輩はまた眠ってしまった。
私は心地よい重さを背中に感じながら、先輩を起こさないように、小さく笑う。
疲れて眠る先輩も、またかわいい。
いつもは、すきあらば突撃しちゃうほど元気な先輩も、さすがに今日は頑張りすぎたようだ。
こうして静かだと、それはそれで物足りない気もしてしまうけれど。
今くらいは、ゆっくり寝かせてあげることにした。
……そのあとすぐ、よだれ垂れてきたけど。
<ep5:先輩ダンスダンスソリューション★ 了> <第1章 おわり>
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<作者コメント>
お読みいただきありがとうございます。
ここまでが、第1章でした。
続く第2章では、アオィちゃんとむぅ先輩に、新たな事故調査の依頼が舞い込みます。
次なる謎は「◯◯しないと出られない部屋」です!
お話全体としては、全5章、80話くらいの構成を予定しています。
途中、アオィちゃん達には、良くも悪くもいろいろな事件が起きますが、
先輩は必ず、ハッピーエンドへ向かって突撃してくれると思います。
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