先輩ダンスダンスソリューション★(その2)
「わーッ! むぅさんが燃えちゃいました! 早く火を消さないとッ!」
突然、先輩の身体が炎に包まれた。
慌てるモモタちゃんに、私は落ち着いて答える。
「大丈夫っす。もう少し見守りましょう」
炎はすでに、先輩の身体全体を覆っている。
そしてそのまま、周りの地面へも燃え広がっていった。
私はその炎に近づいて、手で触れようとする。
「あ、アオィさんッ!?」
驚くモモタちゃんの声を聞きつつ、私はそのまま炎に手を突っ込んだ。
手のひらの中で、炎が赤色に輝きながら揺らめく。
熱さはまったく無い。
「熱くないので触っても大丈夫っすよ」
そう言われてモモタちゃんは、恐る恐る手を伸ばした。
炎に触れたあとも、まだ半信半疑な顔をしている。
「確かに、熱くないですッ……」
「この炎は、先輩の魔法でつくり出したものっす」
先輩の魔法は、いつでもすぐ使えるというものではない。
この魔法を使うには、数日間、身を清めて精神統一する必要がある。
清めるといっても、あくまでも体内の魔力の流れを整えるということらしく、身体についた汗やほこりとかは問題ないらしい。
あと今は多少の粘液もついてるけど……どうやら大丈夫っぽい。
「むぅさん……綺麗ですね……ッ」
舞を踊る先輩を見ながら、モモタちゃんがつぶやく。
炎の広がりは一旦収まり、今は凪いだ水面のような炎の膜が、あたり一帯の地面を静かに覆っていた。
その中央に立つ先輩の身体は、魔力のオーラをまとっている。
その薄紅色のオーラが、舞の動きに合わせて揺らめいた。
オーラの光が少しずつ千切れ、しばし空中に漂っては、静かに消えていく。
それはまるで、散りゆく桜のように見えた。
なおも舞い踊る身体から、ぱっと飛び散る汗が、暗闇にきらりと光を放ち。
揺れる桃色の髪とスカートが、ふわりと華やかに宙を遊ぶ。
先輩の舞う姿は、どこか神々しい。
そして美しく可憐だ。
――シャラン。
鈴の音が鳴る。
続けて先輩の声が響く。
それは、朗々たる口上だった。
「星火燎原の火よ――」
シャラン。
「いま烈火となりて、真実を明かし奉れ!」
言い終えると同時に、先輩は鈴を掲げたまま、ぴたりと静止した。
先輩を中心に、まわりの炎が波紋のように大きく燃え上がっていく。
「……えぇッ!?」
先輩の口上を聞いたモモタちゃんが、驚きの声をあげた。
「まさか、あの『星火燎原の魔女』ッ!?」
先輩の魔法は、正真正銘の超レアものだ。
こんな魔法が使える人間は、世界でひとりしかいない。
特に優れた魔法を使う者には、その魔法を象徴する二つ名が与えられる。
二つ名を持つほどの魔法使いは、ごくわずかにしか存在しない。
――星火燎原の魔女。
それが先輩に与えられた二つ名だった。
「むぅさん……すごいです……ッ!」
モモタちゃんが声をしぼり出すようにつぶやく。
先輩の神々しい姿に、圧倒されているようだ。
私は何も言わずに、先輩を見つめ続ける。
この奇跡ともいうべき魔法を使いこなし。
小さい身体に眠る大きな炎で、全ての闇を照らす先輩。
薄紅色の光をまとって暗闇を舞うその姿は、まさに舞姫だ。
先輩……。
最高にかわいいです。
「お待ちどぉー! 終わったよん!」
先輩が、こちらを振り返って言った。
火は消えずに、あたり一帯に広がったまま静かに揺らめいている。
「まずは、アリの残した魔力を見てほしいっす」
「むぅ、ほいきた!」
先輩が神楽鈴を振ってシャラランと鳴らすと、炎がアリの残骸の山へと燃え移っていった。
よく見ると、その炎の色が変化していくのが分かる。
「むむむぅ……。これは、朽葉色ね!」
先輩の言うとおり、枯れた落ち葉のような色合いの炎が、アリの残骸の上で揺らめいていた。
「この色に、何か意味があるんですかッ?」
「これは、魔力の残滓っす。魔力の痕跡みたいなものっすね」
私はモモタちゃんに説明を続ける。
「魔物は、種族ごとに違う色の魔力を宿しているっす」
「軍隊アリの魔力は、朽葉色ってことですかッ?」
私はうなずいた。
魔物だけでなく、魔導具や魔導鉱石、魔法を使う人間など、世の中にある魔力を宿すものにはすべて、それぞれ違った魔力の色があるのだ。
「先輩の魔法は、この魔力の痕跡を見ることが出来るっす」
<その3へつづく>




