先輩ダンスダンスソリューション★(その1)
「アリが異常発生した原因が、分かったっす」
「なになにぃ!? 早く教えて!」
先輩は鼻息ふんふんで、待ちきれない様子だ。
私はそんな先輩を、なだめるように言う。
「その前に、いくつか確認が必要っすね」
「むぅ! アオィちゃんの焦らし上手ぅ!」
まずは先に、モモタちゃんの状況から確認することにした。
「モモタちゃんは、どうしてアリに襲われたんすか?」
「最初はアオィさんの助言どおり、4階層で探索してたんですッ。ギルドで出会った強そうな戦士の方と、一緒に組んで潜りましたッ」
「なるほどっす。そこからなぜ8階層に?」
「その戦士の方に勧められたからですッ。その方は8階層も余裕の実力なので、戦い方を見学させてくれるって……」
そういうことか。
その話自体は、別に不自然ではない。
「8階層に、お手洗いが無くてビックリしましたッ!」
「初めてだと驚くっすよね」
初心者クラスの階層であれば、各階にお手洗いが設置されている。
しかし中級者クラスの階層になると、そんな親切なものはない。
「携帯トイレを持っていたので、ひとりで暗い岩場の陰に行ったんですッ」
「そのとき、魔導ライターを使ったっすか?」
「はいッ。戦士の方がライターを貸してくれたので、それでランプをつけました」
その話を聞いて、仮説が確信に変わる。
「そしたら、アリに襲われたんすね?」
「お手洗いを済ませて立ち上がろうとしたら、いきなりアリと目が合いましたッ」
「むぅ。戦士の人はどうなったの? 食われた?」
「気づいたら居なくなってましたッ。無事に逃げていれば良いんですが……」
私たちが着いたとき、アリに捕まっていたのはモモタちゃんだけだった。
戦士に関しては実力もあるようだし、放っておいても問題ないだろう。
モモタちゃんを助けずに逃げたのは気になるが。
「ではいよいよ、調査の仕上げっすね」
私は先輩のほうを見て言う。
「先輩、出番っすよ」
「よしきたぁ!」
とてとてと走り出した先輩が、アリの残骸が転がるダンジョンの、空いた空間に立つ。
そしてポーチから何かを取り出し、杖の先端にくっつけた。
それは、鈴が3段重ねになった、小さいモミの木みたいな形の道具だった。
先輩によると、神楽鈴というものらしい。
「むぅっ、いきます!」
先輩はそう言うと、ワンピースをぺちぺち叩いてほこりを払い、姿勢を整えた。
杖を高く掲げ、大きくひと振りする。
――シャラン。
清らかな鈴の音がダンジョンに響いた。
すう、と息を吸った先輩が、ゆらりと動き出す。
それは、舞と呼ばれるものだった。
「これはいったい、何をしてるんですかッ?」
モモタちゃんが、不思議そうに私へ尋ねる。
「先輩の魔法で、事故の証拠を集めるっす」
「事故の……証拠ッ!?」
私はそれ以上は何も言わず、先輩が踊る姿を見つめ続けた。
先輩が最高にかわいいこの瞬間を、1秒たりとも見逃すわけにはいかないのだ。
――シャラン。
ふたたび、鈴の音が響いた。
先輩は踊り続ける。
魔物と戦うときに、魔力を弾にして撃つことは、厳密には『魔法』とは呼ばない。
魔力を固めて放つだけの、ただの技術だ。
『魔法』とは、ひとりひとりが持っている、独自の能力のことを指す。
似ている魔法や、同じ系統の魔法はあれど、完全に同じものをコピーして習得したりはできない。
例えば、魔女の花形と言われる、空を飛ぶ魔法。
空を飛ぶという結果は同じでも、全く同じ飛び方をする魔法は存在しない。
それぞれの魔女が、違う原理によって空を飛ぶのだ。
だから、魔法は基本的にすべてオンリーワンと言えるのだが、そのなかでも汎用的な能力と、希少な能力という差は存在する。
そして。
先輩の魔法は、圧倒的に後者だった。
――シャラン。
3度目の鈴の音が響く。
その直後。
先輩の身体が大きな炎に包まれ、激しく燃え出した。
<その2へつづく>




