プロローグ:わたしたちの悪い癖(その2)
「むぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!!」
唐突な叫び声とともに、先輩が岩陰から飛び出した!
ダンジョンに謎の叫びを響かせながら、敵に突っ込んでいく。
突然の奇声に、さすがの軍隊アリたちも一瞬かたまっていた。
だが、すぐに先輩の姿を捕らえ、迎撃姿勢をとる。
「はあー。やれやれっす」
私はため息をつきながら、メガネをくいっと持ち上げ、水色のショートヘアをカッコよくかき上げる。
冷静に、わずかなズレもないよう杖の照準を合わせ続けた。
これくらいは想定内だ。
先輩の悪癖――。
それは、すきあらば突撃すること。
待てって言ってもマジで聞かない。
突撃したらマズい状況のときほど、突っ込みたくなるらしい。
敵が強いほど気持ちがよく、数が多いほど脳汁が出るとか。
ヤバい変態さんですね。
「むーっ!」
先輩が叫ぶと、その身体が赤いオーラに包まれた。
直後、手に持った杖から光が放たれる。
1発、2発、3発。
さらにもう1発。
ひと呼吸する時間にも満たないうちに、2匹の軍隊アリが光の弾を浴びた。
べきょ、という鈍い音とともに、弾をくらったアリの頭がつぶれる。
怯んだ残りのアリたちの動きが一瞬とまったのを、先輩は見逃さない。
「むーっ!」
続けて至近距離から、2匹のアリの急所に連射を叩き込む。
おかしな姿勢のまま、次々と崩れ落ちていくアリたち。
えぐ。
と、そこで何を思ったか。
先輩が、どや。と得意顔で私のほうをチラ見した。
こら、戦闘中にわき見するんじゃない。
その一瞬を、今度はアリたちのほうが見逃さなかった。
残る4匹のアリが四方から先輩を囲み、同時にしかける。
大きなアゴを開き、一斉に先輩へ襲いかかった。
小さな先輩の身体が、アリの巨体で隠れて見えなくなる。
――マズい!
私は構えていた杖に魔力を込めようとした。
そのとき。
ぴく、と4匹のアリが同時に震えた。
まるで大声で叱られて、ぴんと背筋を伸ばすみたいに。
「むーーぅりゃぁぁ!」
叫び声とともに、両手に杖を持った先輩があらわれた。
2本の杖から放たれる大量の弾が、暗いダンジョンを光で満たしていく。
避ける余地などない。
猛烈な弾の連射を浴びたアリたちは、変な踊りをしながら粉々に溶けていくみたいに見えた。
空中に飛び散り、降り注ぐ、大量のアリたちの死骸。
敵だったものが空中を舞うなか、先輩は、にかっとドヤ顔をした。
見ようによってはめっちゃサイコパスなんだけど。
かわいいがすぎる。
「ふう、終わったっすか……あ」
杖の照準を解こうとしたとき、ふと気づく。
大きな死骸のかけらが、先輩の頭上に。
あぶない――!
ふッと息を吸い、杖に魔力を流す。
ばすん、と放たれる光の弾。
ぱぁんという破裂音とともに、先輩の上にあった死骸が弾け飛ぶ。
あまりの衝撃に、その大きな物体は形をとどめることができず、霧のように散っていった。
ふう、と今度こそひと息ついて、杖の照準を解く。
すると先輩の声が聞こえた。
「ナイスショット! 星みっつあげる!」
ふたたびドヤ顔でサムズアップをキメた先輩は、颯爽と歩き出す。
1歩、2歩、3歩。
私のほうに近づいてくる。
そして4歩目。
アリの死骸につまづいてコケた。
その拍子に、床にあったスイッチが押された。
<その3へつづく>




