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むぅむぅダンジョン!事故調査団★★★ すきあらば突撃しちゃう先輩がまじヤバいっす◎  作者: にしのくみすた
第1章

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春ウサギ美味し夏の山(その4)

「……思ったより早いっすね」


 私は痛みを感じた腕を、軽く振ってみる。

 痛かったのは一瞬で、そのあとは何とも無かった。


 ふう、と息を吐き、腕を下ろす。


 今のところ問題はなさそうだ。

 気を取り直して、書き終わった手紙を封筒に入れる。



 ひと息ついたところで、軍隊アリの件について、あらためて考えてみることにした。

 ここまでに得た情報を頭の中でまとめていく。


 今回の問題は、地下8階層で1万匹を超えるであろう大量の軍隊アリが発生していることだ。

 アリ自体には特におかしな点は無かった。


 ただし、なぜかダンジョン内には、大量の穴ぼこがあいている。

 発破のスクロールで開けられた可能性が高いが、誰が何のためにやったのかは謎だ。



 3人の被害者は、それぞれ全く違うシチュエーションでアリに襲われている。


 タバコを吸った時。

 ランプをつけた時。

 たき火で服を乾かした時。


 何か共通点は無いだろうか?


 タバコ、ランプ、たき火……。

 どれも火を使っている。

 でも、火を使ったところで、煙にも光にも熱にもアリが寄ってこないことは、判明しているのだ。



「今回の謎は、なかなか手強いっすね」


 行き詰まったときは、初心にかえるべし。

 私は机から立ち上がり、本棚から『地下に棲まう魔物図鑑』という本を取り出した。

 

 ダンジョンに挑む冒険者なら誰もが読む、定番の教科書とも言える本だ。

 先輩は読んだはずなのに、全然内容を覚えてないけど。 


 本を開き、軍隊アリの載っているページを読む。


「軍隊アリは、炎を強く忌避する性質がある……と。やっぱりそうっすね」


 魔物というのは、元は生物だったものの身体を魔素(マナ)が乗っ取って動いているような存在だ。

 その性質上、本能にはかなり忠実に行動する。

 この本に強く忌避すると書いてある以上、アリが火に寄ってくるとは到底思えない。


 もう少し読み進めてみる。


「軍隊アリはほとんど目が見えない。代わりに、フェロモンと呼ばれる特殊なマナを分泌し、それを他のアリが目印にして追いかける習性がある……」


 ふむ?

 フェロモンか。


 被害者の3人が、意図せずに、このフェロモンを発生させていたとしたら……。

 でも、どうやって?


 そのあと、軍隊アリについて書かれたページをすべて読んでから、本を閉じた。


「あと一歩、ヒントが足りないっすね」


 いったん思考を中断し、両親へ送る手紙に宛て名を書く。

 最後の仕上げに、シーリングスタンプを押して封をすれば手紙は完成だ。


 スタンプの蝋を溶かすために、魔導ライターの火をつけた。


 ――チャッカリン、ぼっ。


 いつもの、小気味よい音。

 魔導ライターの火が揺らめく。


 なにげなく、その揺れる炎を見た瞬間。   


 心に、わずかな引っ掛かりがあった。

 何かが繋がりそうな予感がする。



「これはいよいよ、先輩の出番っすね」


 いずれにしても、まずはアリのフェロモンについて調べてみる必要がありそうだ。

 準備ができしだい、先輩とダンジョンに潜って確かめてみよう。


 私はシーリングスタンプがきちんと固まったのを確かめてから、手紙と魔導ライターをポーチにしまった。

 ここからは、おたのしみの時間だ。



 ぼんやりと、先輩のことを考える。


 すぐに思い浮かぶのは。

 いつもきれいにしている桃色のロングヘアと、暗闇でも輝く金色の瞳。


 突撃したくてぷるぷる震える先輩。

 ドヤ顔でサムズアップをキメる先輩。

 びよよん札でひらりちらりと宙を舞う先輩。

 私を見つめてにかっと笑う先輩。

 ほかにもたくさんの先輩が頭の中にあらわれ、歌いながら踊っている。


 ぬふ。かわいすぎか。


 たぶん今この瞬間の私の顔は、にやけた上にふやけているはずだ。

 こんなカッコ悪い姿は、誰にも見られてはいけない。

 だから一日の終わりに、自分の部屋でしかやらないことにしている。


「ふう。今日のおたのしみは終了っす」


 めくるめく先輩祭りを楽しんだ後は、すこし頭を冷やさなくてはならない。

 私は壁を見上げて、そこにある星図を眺めた。



 紙の上に描かれた星たちが目に入る。

 まるで夏の夜空を覆い尽くすかのような、たくさんの星々。


「満天の星空、っすか……」


 星図は、ただそこにあった。

 満天の星空も、きっとあの山の上にあるだろう。


 私だけが、地下深くにいるのだ。


 ――見えない星に、今もまだ憧れながら。



 静かに息を吐いて。

 どこにもたどり着かない心を、ただぼんやりと感じる。


 私は、それからしばらくのあいだ。

 遠い記憶のなかにある、夏の星空に想いを馳せた。



<ep3:春ウサギ美味し()の山 了>

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