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むぅむぅダンジョン!事故調査団★★★ すきあらば突撃しちゃう先輩がまじヤバいっす◎  作者: にしのくみすた
第1章

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春ウサギ美味し夏の山(その3)

「アオィちゃんの匂い、嗅ぐべし!」


 先輩はそう言うと、私に向かって一直線に突撃してきた。

 私は衝撃に備え、体勢を低くして構える。


「むぅっ!」


 短い叫びと同時に、ぼすっ、と先輩が私の胸に衝突した。

 受け止めた身体を、そのまま抱きしめる。


 すると先輩は、それよりも強い力で私を抱きしめ返した。

 私の胸に顔をうずめたまま。


 すんすん、と。

 嗅いどる。


「先輩、匂い嗅ぐの好きっすよね」


 私はとくに驚いたりはせず、それを受け入れる。

 これ、いつものことなので。


「むぅぅ。落ち着くぅ」

「なんで他人の匂いを嗅いで、落ち着けるんすか」


 腕の中にいる先輩が、もぞもぞと動くのが、少しくすぐったい。

 私の匂いを嗅いで、なぜかチルい顔になっている先輩が、ふにゃけた声で答える。


「好きだからじゃない?」


 えっ!?

 すすすすす、好きっ!?


「この匂い、好き!」

「……先輩、匂いフェチっすもんね」


 そう、匂いです。知ってた。


 私は大きく息を吐く。

 すると、先輩が私の胸から、がばっと顔を上げた。


「あ、空がキレイ!」

「晴れてるから、星がよく見えるっすね」

「アオィちゃんの好きな星空!」


 たしかに今日の夜空はキレイだった。

 だけど。


「私が好きなのは、満天の星空っす。この空もなかなかっすけど、本物はもっと広いとこじゃないと」

「むぅ。どこかで見たことあるの?」

「だいぶ昔っすけどね」


 先輩は「そっかー満天かぁー」とつぶやきながら、そのあともしばらく星空を眺めていた。



 自宅へ帰る先輩と別れたあと、私も自分の家へと向かう。

 先輩はいつも「アオィちゃんも私のうちに住めばいいのに!」と言うが、そこまでお世話になる訳にはいかない。


 私の家は、ギルドに近い小高い丘の上にある。

 大きな建物の中に、いくつかの家が集まっている集合住宅(マンション)だ。


 門の前に立っている警備員に挨拶し、入口の扉を開けてもらって中に入る。

 受付にいたコンシェルジュから、私あてに届いた郵便物を受け取って、自分の部屋へ向かった。


「ただいまっす」


 自宅のドアを開け、帰宅の挨拶をしてはみるが、一人暮らしなので誰からも返事はない。

 広い部屋にはひと通りの家具が揃っていて、無駄なものはなくシンプルだ。


 シャワーを浴びて部屋着に着替えると、さっき受け取った郵便物を思い出した。


「手紙が来てたっすね」


 それは、両親からの手紙だった。


 親元を離れて今の仕事を始めてから、毎月欠かさず両親と手紙でやり取りしている。

 封筒を開けて手紙を読み終えると、すぐに返事を書くことにした。


 お気に入りの便箋にペンで文字を綴っていく。

 仕事のこと、体調のこと、美味しかった食べ物のこと。

 先輩がアリ相手に大活躍したこと、先輩がまた突撃したこと、先輩がまた変な歌を歌い出したこと……。


 なんか先輩ばっかりだな。

 まあ、私の毎日は先輩だらけだから、間違ってはいないか。



 ふと顔を上げると、額縁に入れて壁に掛けてある絵が目に入った。


 シンプルな部屋のなかで唯一、飾ってあるその絵は、夜空を描いたものだ。

 正確に言えば、星の配置が詳細に示された星図だった。


八百山(やおやま)連峰 夏の全天星図』と書かれた星図。

 それは、私がまだ学生だった頃、家族と巡礼旅行に行ったときに買ってもらったものだ。


 やさしい両親と、物知りな兄。

 夏休みの夜、高い山の上で、家族と笑い合いながら見上げたのは、目も(くら)むような満天の星空だった。

 360度、すべての宇宙からこぼれ落ちてきそうなほどの、あの燦然(さんぜん)とした輝きを、今も覚えている。


 その星空を見て、いつか冒険者になりたいと思った。

 世界中の美しい星空を巡って、旅する冒険者に。


「……実際は、星なんて見えないダンジョンに潜る毎日っすけど」


 そうつぶやきながら、私は手紙を書き終える。

 そして、机にペンを置こうとした。

 そのとき。


「いたっ」


 ペンを持った腕に、身体を内側から叩かれたような、鈍い痛みが走った。


「……思ったより早いっすね」



<その4へつづく>

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