桃栗サンネン柿ヘタレ(その3)
「話が違うじゃないですか! 私を殺す気だったんですねッ!」
お互いに冒険者だと思われる、女の子と青年が揉めている。
騒がしくはあるが、まわりの人々はそれほど気にもしていない。
冒険者ギルドでは、よくある事だからだ。
「確かに……足手まといだったのは認めますッ。でも、言われたことはちゃんとやりましたッ!」
耳に入ってきた話をまとめると、女の子は報酬を山分けする約束で青年とダンジョンに潜ったらしい。
だが、女の子の実力が足りず、魔物に負けそうになったところで、青年が見捨てて帰ってしまった。
そのあと何とか女の子も生還したが、報酬の分配で揉めているようだ。
「まあ、よくある事っすね。生きて帰れただけでも良かったっす」
私はそうつぶやいて、レモンティーを飲み干した。
テーブルにカップを置き、席を立とうとする。
「先輩、行きましょう。揉め事には関わらないのが一番っす」
先輩からの返事は無かった。
ふたたび声をかけようとした、次の瞬間。
「せんぱ――」
「むぅぅぅーーーーーーっ!!」
謎の叫びとともに、先輩が飛び出して行った!
揉めている2人のところへ一直線に突撃し、あいだに割って入る。
突然現れた先輩に、驚く2人。
とまどう青年へ向けて、先輩はビシッと指をさす。
「約束したなら、金はらえぇ!」
謎の決めゼリフっぽいものを口にした先輩は。
なぜか会心のキメ顔である。
「はぁ? オマエ誰だよ? 部外者には関係ないだろ!」
青年はイラついた様子でそう言うと、先輩のワンピースの胸ぐらを掴んだ。
「はあー。やれやれっす」
私はため息をつき、イスに座ったままカッコよく髪をかきあげ、紅茶のスプーンを手に取った。
まあ突撃した先輩も悪いんだけど。
それよりも。
先輩に手を出す奴は、私、許さんので。
青年は先輩の服を掴んだまま、力づくで押しのけようとした。
そのとき。
――ぱしゅん。
誰にも聞こえない程度の音がして、青年がうめき声とともに床へ崩れ落ちた。
先輩が無事に青年の手から解放される。
周りの誰も、何が起きたのか理解していなかった。
青年が後頭部を押さえながら立ち上がる。
「痛ェ……オマエ、何しやがった?」
青年が先輩の胸ぐらをふたたび掴もうとしたので、私もスプーンを構える。
次はもう気絶させるか。
「――おい、お前ら。もうやめておけ」
そこで突然、別の男性が割って入った。
大柄で、貫禄のある、明らかにベテラン冒険者の風格を持つおじさんだ。
「師匠! この割り込んで来たピンクの奴は、関係ない部外者で……!」
「知ってる。いいから、約束の金は払え。それで終いだ」
「で、でも……!」
師匠と呼ばれたおじさんは、先輩へ向かって尋ねる。
「お嬢さんは、何者かな?」
「我々は! むぅむぅ団です!」
先輩は、腰に手を当てドヤ顔で答えた。
むぅむぅ団?
私も初めて聞いたんですけど。
困惑する青年をよそに、おじさんはテーブルにいる私のほうを見て言った。
「君たちは何者か? と聞いた方がいいかな?」
私はおじさんをジッと見る。
俺でなきゃ見逃しちゃうね、という顔をしていた。
私が魔力を撃ったのに気付いているということは、相当な実力者だろう。
普通はスプーンで撃つなんて出来ないし、周りに気付かれないほど魔力を最小限にコントロールするのも難しい。
まあそこは私、プロなので。
おじさんの実力に免じて、正直に答えることにした。
「事故調査団っす」
「なるほど、三つ星の奴らか」
その会話を聞いて、さらにドヤ増しの、ドヤドヤ顔になる先輩。
それを見た青年が、ちょっとイラっとした様子で言う。
「師匠、なんなんですか、その三つ星って?」
「おまえ、オーク3体を同時に相手できるか?」
「いや、全然無理ですよ。1体でも強いんですから」
「そこにいる水色髪の女は、ひとりでオーク10体と戦っても無傷で勝つバケモノだ。おまえ、粉にされるぞ」
それを聞いた青年は言葉を失う。
「アオィちゃん、モテモテだね!」
「いや先輩、これモテと違うっす」
その後、青年は女の子にしぶしぶ報酬を支払い、師匠とともにその場を去って行った。
これで一件落着だ。
ようやく喧騒が落ち着いた頃。
そこに残されていた女の子が、私のほうに近づいてきて口を開いた。
「助けてくださりありがとうございましたッ! 私と――」
そして深くお辞儀をする。
「私と付き合ってくださいッ!」
<その4へつづく>




