桃栗サンネン柿ヘタレ(その2)
冒険者ギルドのロビーにて。
私と先輩は、3人の被害者への聞き込みを開始した。
地下8階層で突然アリの大群に襲われ、岩陰に逃げて3日間も隠れ続けていたという被害者たち。
さっそくそれぞれの証言を聞いていくことにしよう。
まずは1人目。
ベテラン冒険者のおじさん。
「8階層の通路でタバコを一服してたら、突然アリにかこまれてなぁ。さすがに驚いたわ」
「タバコっすか。アリが煙に反応して、集まってきたとか?」
「いや、実はなぁ……。そのあとアリの大群から逃げて隠れてたんだが、3日目にどうしても我慢できなくなっちまって……」
「またタバコ吸ったんすか?」
「ああ。もう人生最後の一服のつもりで、覚悟を決めてじっくり吸ったんだが……。アリの奴らは、煙には全く反応しなかったな」
続く2人目は、チャラいけど実力はありそうなお兄さんだ。
「いやマジで! ただ歩いてたら、アリの大群が追っかけて来たんよ」
「歩いてただけ? ほんとっすか?」
「ホントホント! 通路が暗かったんで未開拓領域かなって思って、ランプで足元を照らしながら進んでいったんさ。そしたらもう後ろからアリアリアリ!」
「ランプの明かりをアリが追ってきたとか? いや……それは無いっすね」
「だよねー。軍隊アリは普段から光には無反応じゃん。もともと真っ暗な地下で暮らしてるから、目もほとんど見えないって話だし」
ラスト3人目。
仲間と探索していて、ひとりだけ逃げ遅れた女の子。
「粘液トラップを踏んじゃって……。濡れた服を脱いで、たき火で乾かしてたら、アリが……」
「あー。不運が続いたっすね」
「アリが、干してた私の服に群がってて……」
「え、服っすか? アリはたき火の炎を嫌がって避けるはずでは……」
「仲間は逃げたけど、私は裸で逃げる訳にもいかず……。上着だけでも取り返したときには、もうアリに追いかけられてて……」
〜★〜★〜★〜
「むぅぅ……なんじゃぁこりゃあ!?」
先輩がテーブルをばしばしと叩いている。
聞き込みを終えた私たちは、そのまま冒険者ギルドのテーブルでお茶を飲んでいた。
ギルドのロビーは、冒険者用のカフェバーも兼ねているのだ。
「なるほどっすね。煙も、光も、炎も……どれも原因ではないみたいっす」
「全然わからん! 手がかりになりそうな共通点なんて無いじゃん!」
「先輩、まずはお茶でも飲んで、落ち着いてくださいっす」
私は紅茶のカップに、添えられていたレモンスライスを入れ、スプーンで軽くかき混ぜる。
ひと口飲むと、爽やかなレモンティーの香りが口の中に広がった。
頭がちょっとすっきりする。
確かに、先輩の言うとおり、3人の被害者の話には共通点が無い。
アリと遭遇した場所も、時間も、シチュエーションもバラバラだ。
一致しているのは、突然アリに追いかけられ、逃げて隠れているうちに、数日経つとアリがいなくなったという点だけ。
「うーん、何か見落としがあるはずっす……」
つぶやきながら顔を上げると、先輩はカップを持ち上げて、コーヒーを飲もうとしているところだった。
先輩が頼んだのはブラックコーヒーだ。
まずはひとくち、その黒い液体をじっくりと味わう。
……なんだか、妙にお澄まし顔ですけど。
先輩はお澄まし顔のまま、2口目にはいかずに、カップを置いた。
そしておもむろに、テーブルにあった砂糖とミルクを、絨毯爆撃のごとく投下し始める。
大量の白い物体がぶちこまれ、ブラックだった液体は、もう完全にホワイトだ。
その魔改造ブラックコーヒーをあらためて口にした先輩は――。
明らかにさっきよりも、にっこり美味しい顔をしていた。
最初から甘いカフェオレを頼めばいいのでは……。
これは絶対、カッコつけてブラックを飲もうとして、失敗したやつだと思う。
無理して背伸びしようとしちゃう先輩、たまらんっ◎
「大量のアリは、いったいどこから湧いて来るんすかね?」
「アリがあの穴ぼこを掘って隠れてるとか?」
「アリが掘ったにしては穴が雑なんすよ。アリならもっと綺麗につくるはずっす」
私と先輩がふたりして、うんうん唸っているとき。
突然、ギルド内に女の子の叫ぶ声が響いた。
「話が違うじゃないですか! 私を殺す気だったんですねッ!」
<その3へつづく>




