462●『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)⑦私たちはウルトラセブンの心で、本作を温かく受け入れた?
462●『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)⑦私たちはウルトラセブンの心で、本作を温かく受け入れた?
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●疑問9:地球帰還に食糧が足りなければ、も一度昏睡すりゃいいじゃん?
●疑問10:ビートルズを使っちまったら、たぶん帰り道がわからなくなるぞ?
●疑問11:地球へ帰還しても、それでどうなると思ってるの? 歓迎されるとでも?
以上三点、まとめて考えます。
まず、疑問9。
グレース氏は、地球へ無事帰還できるのか?
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のミッションをこなした主人公は、故郷へ帰れるのか。
これが物語の最終部分のクライマックスを形成しますね。
あのストラットのオニババーに無理矢理押し付けられた仕事ですが、ともあれ目的を達成した以上、グレース氏はメアリー号の舳先を地球へ向けて、順風満帆の帰還コースに入っても良さそう……というか、おいおい、帰してもらわないと困るじゃないか……というのが、グレース本人と観客の正直な思いでしょう。
しかしまずは、「四年かけて帰るには、食糧が足りない」という問題に直面するそうです。
とはいっても……
来るときはグーグー寝てやってきたのですから、帰りも寝て帰ればいいだけでは?
ここは、私が本作をまだ観ていないという無責任状態なもので申し訳ありませんが、たぶん、もう一度寝て帰れるような、お気楽なシステム設定にはなっていなかったんでしょうね。
なにせ、片道切符だったんですから。
それに、タウセチに来るだけで、二人死んでいます。
これでまた昏睡したら、俺、確率的にそのまま永眠しちゃうかも……
そんな不安も無視できませんよね。
いつ死ぬか、怖くて怖くて、おちおち寝てもおれません。
そのあたりが、グレース氏の本音だったのかな?
ということで、起きたまま帰るしかない。
だから食糧の確保が大問題になったのでしょうね。
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次に、疑問10。
グレース氏は、どうやら、メアリー号の本体よりも先に、地球へ情報を送り届けるために、ビートルズという名の四本の長距離自走通信筒を発射するみたいです。
しかし、そこで待った!
ビートルズは、少なくとも一本は、手元に残しておかなくてはなりません。
残しておいたでしょうね? グレースさん。
というのは、メアリー号はもともと、ストラットのオニババー様の陰謀で、片道切符だったはず。
なのでメアリー号の航法AIには、帰還航路のデータは残されていないはずです。
ビートルズの四本の通信筒しか地球へ帰れないように仕組んであるのですよ。
だって、タウセチに着いたとたんに、片道切符であることを知ったグレース氏が激怒して、あるいは怖気づいて、「やだやだ、僕、このまますぐにUターンしてお家に帰る!」と決意して地球目指してスタコラサッサするかもしれないじゃないですか。
ですから、ビートルズの四本の通信筒には、タウセチから地球への帰還軌道のデータは仕込まれているはずですが、メアリー号はそうなっておらず、地球へ帰るナビは作動しないはずです。
なんとしてもグレースにはタウセチに踏みとどまって、お仕事を完遂してほしいからですね。
それにしても、帰還軌道のデータって、どういうものでしょう。
広大な銀河宇宙です。
そこには地球上のGPSやスターリンクに相当する便利なナビゲーションシステムなんて、ありはしません。
では、どうやってメアリー号はタウセチ星系にたどり着くのでしょう。
考えられるのは、天測航法ですね。
見渡せば、上下左右に前後もすべて、満天の星空。
ずーっと澄み渡った真夜中の星空です。
だから、その星座を観測して、自分の位置を知るのですね。
なんと大航海時代の帆船がやっていた航法と基本的には同じです。
メアリー号はズーッと、天測しながら、つまり星空を撮影し、シップAIで解析しながら、タウセチ星系まで飛んで行くわけです。
ただし、ほぼ光速飛行ですから、光行差によって天球の星々の大半が進行方向である前方にギュッと集中して見えるため、星座によって自分の位置決めをする天測航法は使えないかも。そこんところはどうやって解決しているか、映画にはきっと説明されているんでしょうね。
でないと、メアリー号も岩人の宇宙船も、母星からタウセチに到達することができませんし。
両船の航法システムは、いずれDVDで観るときに注視したいものです。
ということで、ビートルズの四本の通信筒=自律型無人小型宇宙機は、メアリー号がタウセチまで航行する間の天測航法をモニターし、データ化してきたのですね。
そして自分が地球へ戻るときには、記録したデータを逆回しに再生して、元の道を特定しながら帰るのでしょう。
ということで……
片道切符のメアリー号には地球へ帰る航法データは蓄積されず、ビートルズの四本の無人機には蓄積されていると思われます。
だから、いずれ地球へ帰るつもりなら、グレースはビートルズを四機とも手放してはいけないのです。
必ず一機は手元に残し、その電子脳から地球帰還航路のデータを抽出して、メアリー号の推進機関に反映させなくてはなりません。
映画のグレースは、どうしたでしょうか?
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そして、疑問11です。
地球へ帰還しても、それでどうなると思ってるの? 歓迎されるとでも?
これが本作の結末を左右する、大事なキモですね。
地球の危機を救うノウハウを、ビートルズの通信筒で送り届けたのだから、僕って地球の大恩人! 帰ったら大歓迎で酒池肉林で紙吹雪パレードだ!
……と、グレース氏は内心期待したかどうか。
期待したとしたら、甘い!
純真な中学教師よ、それではバカを見ます。
地球では、ビートルズの通信筒を回収することで、世界の人々にこう発表するでしょう。
「メアリー号の三人はやり遂げた! そして三人とも宇宙に殉職した。尊い命を犠牲に捧げた三人を讃え、その冥福を皆で祈ろう」
世界各地に慰霊碑兼顕彰碑が建立され、ウルトラマンの怪獣供養みたいに法事が営まれ、三人の殉職英雄は教科書に載って過去の偉人として祀り上げられるはず。
片道切符を承知で志願して、地球のために死んでくれたのだと。
そう、歴史的な美談として演出されるのです。
死んでもラッパを離さなかったキグチコヘイ氏や、爆弾三勇士みたいに。
そんなところへノコノコと、生身のグレースが帰宅したら、どうなるか。
生きていたとはお釈迦様でも知らぬホトケのグレース氏。
なにぶん純朴で世間知らずで真っ正直な中学の先生です。
「やったのは三人じゃない、僕一人と、岩人の宇宙人だ」
「片道切符を仕組まれて、ストラットのオニババーに騙されて、クスリを打たれて、無理矢理に行かされてしまったんだ」
「でもエリダニ星系の岩人たちはいい奴ばっかだぜ! 地球人と違って食糧も助けてくれるしね」
そんなことをマスコミに暴露しちゃうでしょう。
せっかく死んだことにして偉人化し、全世界知らぬものはない有名人にしてやったのに、生きて帰ってきた!
しかも、地球の当局に対して文句タラタラ。
頭もおかしくなったのか、ヘンテコな宇宙人の幻を観ている……。
地球の当局者たちは、グレースをどのように扱うのでしょうか?
もう、明らかですね。
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グレースは「ジャミラ扱い」されるのです。
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ジャミラとは、『ウルトラマン』(1966)第23話「故郷は地球」に登場した、元宇宙飛行士の怪獣ですね。
そもそも人類が宇宙に見捨ててしまった、人類の一員です。
ウィキペディアによると、「ジャミラが元は人間だった事実を公表せずにあくまでも1匹の怪獣として倒せ」と科特隊はパリ本部から命令されて……
60年以上の昔にこの脚本が書かれていた事は驚きであり、『ウルトラマン』とそのシリーズの偉大さを物語りますね。
ということで……
グレースの生還は極秘とされ、コッソリ殺して屍体は焼却処分。
地球侵略の怪獣と同じ待遇となるのです。
そうなることは目に見えているのですよ。
どうする、グレース!
結局、岩人たちのお家に居候するしかないのでしょうか?
その点、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の結末には、なんかこう、釈然としないものがモヤモヤと漂うのではありませんか?
人類って、宇宙人とみれば排除、すなわち見境なく殺しまくる大宇宙の残酷アニマルなのです!
そんな地球人の本質を、時には冷ややかに宇宙人ウルトラセブンの視点を交えて描いたのが……
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●疑問12:ファーストコンタクトSF史上最高の大傑作は、ニッポンのアレだぞ!!!
……ですよね。
ファーストコンタクトSFの史上最高世界一の傑作こそ、何を隠そう『ウルトラセブン』(1967)!!
ウィキペディアでは「自然現象の一部としての怪獣出現が主なテーマだった前作『ウルトラマン』(1966年 - 1967年)に対し、本作品では明確な侵略の意図を持った知的生命体との対立が物語の中心となった。」とされています。
多少の例外はありますが、ほぼ毎回が初めて地球へ侵攻してきた宇宙人および宇宙怪獣と戦って問答無用で撃破殲滅するお話でして、ということは……
「ほぼ毎回がファーストコンタクト」!
たまには「やあお久しぶり」な再会パターンもあったように思いますが、まあ、たいていが初対面でボカスカやって殺しております。
とりわけ第26話『超兵器R1号』<飲むヨーグルトのCMではありません>で地球人がやっていることは、2026年4月の今、中東で繰り広げられている“強い国による弱い国いぢめ”と大差無いように思えますね。
R1号はバンカーバスターの新製品に見えてしまふ……あ、あくまで個人の感想ですよ。
チキュージン、怖ェェェ……。
宇宙人は地球を恐れます。
そして、宇宙人の仲間なのに地球人に味方して媚びへつらい、あまつさえ宇宙人を殺しまくるウルトラセブンを憎みます。
宇宙の裏切り者と。
そりゃま、当然ですよね。
十字架にかけたくなる気持ちも、わからないではありません。
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宇宙人から見て、地球人こそ、宇宙一冷酷非道で狂暴凶悪な宇宙怪獣なのです。
まあ宇宙人にも悪い奴らは目白押しですが、結局逮捕も裁判も省略して即決で極刑に処してしまうのは、いつも地球人の側ですし。
ファーストコンタクトの出会いがしらで、まず殺す。
それが『ウルトラセブン』に描かれた、地球人の挨拶なのですから。
「僕は、地球に帰ったら間違いなく殺される」
そうグレースは自覚するはずです。
そして、そのことを知ったエリダニ星系の岩人たちは、どう思うでしょうか?
ウルトラセブンとバディを組んで地球防衛する地球人から見たら、かれら岩人も、即時抹殺対象となりませんか?
そして『ウルトラセブン』の素晴らしいところは、そんな地球人を手放しで礼賛する回は全く見られず、常に「一歩離れて、批判と自省の念で地球人を客観視する」作風であったことです。
『ウルトラセブン』の物語は、ウルトラセブン氏の宿命とともに、かれの懺悔と贖罪の心も背負っているのでしょう。
そこに、金城哲夫氏を含む当時のウルトラ脚本家たちが心の中に秘めた矜持と誇りを感じずにはおれません。
本当の正義とは何か?
それは、力ではないはずだと。
だからやはり、傑作だと思います。
毎回毎回、宇宙人との悲劇的なファーストコンタクトを涙を浮かべて描き切った『ウルトラセブン』。
それはまた、大戦後80年余りにわたる平和を、憲法九条を掲げてギリギリで守ってきた日本人の、世界の非情に対する良心のメッセージであるようにも思えるのです。
だから、岩人たちと地球人の幸せな邂逅を描く『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を、日本人は温かい視線で迎え、高く評価したのではないでしょうか。




